表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
12.5章B 革命戦争 - shining brave god -
727/800

727 ▽最強の狙撃手

「はいストップ。ここは通行止めね」

「あん?」


 ファーゼブル輝士グラニーは国境で思いがけぬ制止を受けて眉根を寄せた。


「ごめんねー。悪いけど、誰も通すわけには行かないんだわ。あと、ちょっと馬車の中の荷物を検めさせてくれる?」

「通行許可証なら持っている。我々はセアンス共和国に物資を運ぶ輸送部隊であるぞ。この先で何があったか知らないが、国境警備員ごときに偉そうに指図をされるいわれはない」


 グラニーは若い頃から地方へ出向していた経験が多く、予想外の出来事に予定を狂わされることも少なくはなかったが、国境を抜ける際にこのような扱いを受けたことは一度も無かった。


 そもそも、ここの国境警備員は全員顔見知りのはずだ。

 しかしいま目の前にいる男には見覚えがなかった。

 新顔ならばなおさら態度が気に食わない。


「話はここの責任者とする。上官を呼んでこい」

「いやあ。そう言われても、ダメなもんはダメなんすよ」

「やむにやまれぬ都合があって通行できないなら大人しく待とう。だが、そのふざけた態度はなんだ? 貴様は誰だ。名を名乗れ」

「うるせえなあ……」


 明らかに怒気をはらんだ顔で睨み付けられ、グラニーは即座に乗っていた輝動二輪から飛び降りた。

 しかしその直後、彼の首筋に矢が突き刺さる。


「がっ……!?」

「大人しく引き返してくれりゃしばらくは生き延びれたのによ。しかたねえ。おい、馬車の中にいる人間を全員引っ張り出せ。抵抗するやつは遠慮無く殺せ」


 息も絶え絶えになりながら、グラニーは荷物番の商人たちが命乞いをする声を聞いた。

 それと同時に、同僚である護衛の輝士たちの悲痛な絶叫も。


 何が起こっている?

 頭によぎったのは、この関所が賊に占領されているということ。


 あり得ない話ではない。

 現にこうして虚を突かれ物資を奪われたのだ。

 だが、彼らはとんでもない大馬鹿者だとも同時に思った。


 関所が奪われたとなれば、間違いなく即座に輝士団がやってくる。

 賊などあっという間に討伐され、口にも出せないおぞましい罰を受けるだろう。


 すぐに逃げても無駄。

 あっという間に所在は突き止める。

 大国は馬鹿な狼藉者どもを見過ごすほど甘くない。

 しかし。


「賊共が、地獄に落ちろ……クソっ……!」


 最初の犠牲となる者が自分たちと考えると悪態のひとつも漏らしたくなる。

 そんなグラニーの顔に賊の男が唾を吐きかけた。

 同時に肉厚の刃が振り落とされる。


「ぐげっ」

「賊扱いかよ。ま、大国の輝士さまは考えもしないんだろうな」


 薄れ行く意識の中、最後に聞いた言葉の意味をグラニーは正しく理解することができなかった。


俺たち(小国)てめえら(大国)に反旗を翻すなんてことはよ」



   ※


 国境を塞がせた理由は、前線に送る予定の物資の確保。

 それと同時に初動が終わるまで情報の漏洩を防ぐためであった。


 もちろんいつかは前線の精鋭たちも気づくだろう。

 しかし、それまでに橋頭堡を築けばこちらの勝ちである。


「大砲、弾込め!」


 ファーゼブル王国北部の輝工都市アジール、フィリオ市。

 工業都市の側面を持つこの山岳の街を一気呵成に攻め落とす。


「発射!」


 砲兵が五門の大砲へと一斉に火をつけた。

 轟音と共に撃ち出された砲弾は都市の街門に容易く穴を穿つ。

 戦乱の時代にあった破城槌には耐えられても、この近代兵器の前では為す術もない。


 申し訳程度の見張り番が宙を舞い、あるいは五体バラバラに砕け散る。


『なんだ!? エヴィルの襲撃か!?』


 街門上の見張り塔にいる兵士が拡声された見当外れな声を響かせる。


「あの塔の根元を狙え」

「はっ」


 ビッツが命令を下すと、即座に砲兵は再砲撃の準備に取りかかった。

 砲尾部の蓋を開け弾薬と一体化した団栗型の砲弾をセット。

 三人がかりで台車を傾け照準を定める。


「撃て」


 ビッツの合図と同時に砲撃開始。

 ()()()()の対象物めがけて砲弾は飛んでいく。


 砲弾は塔下部で炸裂。

 根元から折られた見張り塔は街中へと倒れていった。


「よし、上出来だ」


 ビッツは満足そうに頷いた。

 速射性、命中率、威力共に問題は無い。

 この大砲……新型カノン砲は実戦でも通用する。


 無論、それを扱いこなすのは砲兵たちの練度あってのものである。

 訓練中に事故で死傷した者の数も片手では効かない。


 兵たちはこの日のために、文字通り死ぬ気で訓練を重ねてきたのだ。


「砲兵隊は前進して輝士詰め所を砲撃。続いて騎兵を突入させる」

「了解」


 伝令用の輝術師が水晶を通して別の場所に待機させておいた部隊に指示を出す。

 騎馬に乗った兵士たちが崩れた街門から一斉に都市内へと入り込んだ。


 片手に取り回しの容易な銃を持った騎乗短銃兵ドラグーンである。

 実質的な突破力よりも、街中を混乱させるのが目的の部隊だ。


 彼らの突入を合図に事前に潜入させておいた歩兵部隊が行動を開始する。

 目的は都市行政機関の占領。

 そして神殿にある中輝鋼石の奪取だ。


「では行ってくるよ」


 ビッツはガンケースを肩に担ぎ、特別に用意させた輝動二輪に跨がった。


「くれぐれもお気をつけて」

「わかっている。私が戦場に立つのはこれが最後となろう」


 英雄願望があるわけではない。

 南部連合の盟主たるビッツも危険を冒して前線に出る理由。

 それは、この戦いが帝国参戦の是非が決まる、絶対に負けられない戦いだからだ。


 ここ一番において最強の狙撃手スナイパーたる彼の投入は避けられない。


「ここの指揮は任せた。連絡は各部隊の長と密にせよ」

「はっ」


 そしてビッツは機体を走らせる。

 大国の栄華の証たる輝工都市アジールへと向かって。




   ※


 謎の侵入者に占拠された市庁舎を取り戻すべく、フィリオ市輝士団は通りを輝動二輪で疾駆していた。


「急げ! これ以上、賊を調子づかせてはならんぞ!」

「し、しかし隊長、一体何者がこのような暴挙を行ったのでしょう?」


 部下の輝士が不安そうに問いかけた。

 ただの山賊がこんな風に都市を襲うなどあり得ない。

 そう考えると、自然と考えられる相手は一つしかなかった。


「決まっている! 異界のエヴィル共がついに我が国へ押し寄せたのだ!」

「賊と遭遇した者は馬に乗った人間を見たと言っていますが……」

「馬鹿者! 一年前にフィリア市で起きた事件を思い出せ!」


 知恵を持つエヴィルが言葉巧みに若者を騙し、都市内に一大勢力を築き上げて輝士団を行動不能にした事件のことである。


 心未熟な者、欲望に取り憑かれた者がエヴィルに加勢する。

 認めたくはないが、現実にあり得るこどなのだ。


「エヴィルの手先となった人間は捕縛すべきでしょうか?」

「その必要はない。悪魔に魂を売った愚か者など、すべて殺せ!」


 起こした事件の重大さを思えば、現場で始末しても許される。

 怒りに燃える隊長は甘ったれた部下を強く叱咤した。


「わかりました。しかし……」

「ぐひっ」


 なおも抗弁しようとする部下の目の前で、隊長は頭から血を噴いた。

 バランスを失った輝動二輪が倒れ、後続を巻き込んで盛大な事故を起こす。


「な、なんだ!?」


 なんとかギリギリで避けた部下の輝士は機体を停止させ、状況把握に努めた。


 隊長が何者かに攻撃された。

 それは間違いない。


 だが、いったいどうやって?

 どこから?


 近くに敵の姿はない。

 弓矢による射撃でもない。

 とすると、なんらかの輝術か――


「ぐぷっ!?」


 そこまで考えた瞬間、彼のこめかみに銃弾が突き刺さった。

 衝撃で輝動二輪からずり落ちた体が地面に着くまで、彼の意識が持つことはなかった。


「うぎゃあっ!」

「な、なんだ、どこから――ぐえっ!?」


 そして、他の輝士たちも次々と遠距離からの狙撃に倒れていく。

 三〇余名いた歴戦の輝士たちは、最後まで誰ひとりとして狙撃手の姿に気づくことはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ