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閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
12.5章A 勇者の剣 - the brave sword -
722/800

722 ▽noisy

「なんなのよもう! あのドンリィェンとかいうオッサンも、ルーちゃんも!」


 ヴォルは怒りの感情に任せて近くの大木を殴りつけた。

 幹が炎の輝粒子で削り取られ、大きな音を立てて倒れる。


「うるさいぞヴォルモーント。少し落ち着け」

「ベラちゃんこそよく落ち着いてられるわね。アンタ悔しくないの? ルーちゃんが心配じゃないの?」

「悔しいし心配に決まってるだろう!」


 ベラは大声で怒鳴り返した。

 彼女も当然、不満はあるのだ。


「だが、ルーチェに言われたことは事実だ。お前はあの二人の戦いに割って入れたか?」

「け、怪我さえしてなきゃ……」


 強がるヴォルだったが、正直に言えば無理だとわかっている。

 ほとんど無効化されていたとはいえ竜将の輝力はヴォルを遙かに上回っていた。

 破輝と斬輝の使い手であるダイでなければ、相手にもなれずに消し炭にされていただろう。


「くそっ!」


 ルーチェの規格外の強さもよくわかっている。

 輝力切れという弱点さえなければ、この世に敵う人間はいない。

 ちなみに、その竜将と互角の戦いを繰り広げたダイは現在、シルクに傷の治療を受けている。


大聖水霊治癒セイント・アク・ヒーリング!」

「おお、効く効く。オマエすげーな。グレイロードの次くらいに上手いぞ、回復術」

「まあ……お褒めに与り恐縮です、勇者さま」

「だから勇者じゃねーって」


 いくら特殊な技法を持っているとは言え、あんな化け物と互角に戦えるこいつも十分化け物だ。

 悔しいがヴォルはやはりダイと戦って勝てるビジョンが思い浮かばない。


「ねえお姫ちゃん、そいつが終わったら次はアタシも治療してよ」

「わかりました」


 ヴォルは自分が殴り倒した倒木に腰掛けた。

 しばらく無言でふてくされていると、ベラが正面に立って問いかけてくる。


「それで、これからどうするつもりだ?」

「決まってんでしょ。ルーちゃんを追いかけるわよ」


 体に残る痛みを無視してヴォルは両拳をぶつけ合う。


「『役立たずは大人しく待ってろ』なんて言われて、素直に従えるわけがないでしょうが。いくらルーちゃんとはいえあの発言は許せないわ」

「同感だな。事実とはいえさすがにイラッとした」


 もちろん、ルーチェがヴォルたちを危険な目に遭わせたくないと思って、わざとあんな突き放すような言い方をしたということはわかっている。

 しかし、この二人にとっては完全に逆効果だった。


「魔王の娘だかなんだか知らないけど、アタシはルーちゃんを守るために戦うわ」

「私もだ。何より教育上、増長した妹をあのまま放っておくわけにはいかないからな」


 ヴォルとベラはにやりと笑みを交わした。

 自称保護者の二人にルーチェを放っておくという選択肢はない。


「ダイゴロウ! もちろんアンタも行くんでしょ!」

「たりめーだ。あのドンリィェンとかいう野郎とはぜってー決着をつけてやる」

「私は大五郎が行くのならどこへでも着いていきます」


 ダイもナコも同行決定。

 この姉弟は心配ないだろう。


 あとはシルクがどうするかだが……


「お姫ちゃん。ビシャスワルトまで着いてこいとは言わないから、せめてアタシらをプロスパー島まで運んでちょうだいよ。たしか空間転移テレポートを習得してきたのよね?」

「いえ、勇者の剣の隠し場所までは、責任を持って私が案内いたします」


 そういえばそんなモノがあるって言ってたな。

 どっちにせよ、それはヴォルには関係ないことだ。




   ※


 シルクはまだ空間転移テレポートを完全に扱いこなせているわけではないらしい。

 万が一にも渡海に失敗しないため、目視でプロスパー島を捉えておく方が確実だそうだ。


 なのでヴォルたちは再び海峡までやって来たのだが……


「あれ? なにあれ」


 そこには以前と同じく、山のように聳え立つ覇帝獣ヒューガーがいた。

 ただし、なぜか体のあちこちで爆発が起こっている。

 さらに時々、閃熱フラルに似た光の筋が煌めいて、怪物の巨体を貫いていた。


「自壊してる……?」

「いえ、誰かが戦っているようです。何者でしょうか?」

「あっ」


 シルクが不思議そうに呟き、ベラが何かに気づいたような声を上げた。


「何よベラちゃん」

「いや、何でも……」

「あら?」


 ふと、少し離れた場所から女の声が聞こえた。

 どうやら絶壁の縁に立って覇帝獣を見ていたらしい。

 そいつはこちらに気づくと小走りに近寄って声を掛けてきた。


「この間の女()()さんじゃないですか。何してるんですか、こんなところで」


 大剣を背負った黒髪の女である。

 見た目からしてダイやナコと同じ東国人だろうか?

 異国風の衣装ではあるが、ナコの前合わせの着物とはずいぶんと趣が異なるが。


「あなたがいると言うことは、やはりあそこで戦っているのは……」

「ちょっとちょっと。誰よこの子。ベラちゃんの知り合い?」

「知り合いと言う程ではない。ルティアで少し話をした程度だ」

「えっ。私はもう友達のつもりだったのに」


 なぜかショックを受けてる様子の黒髪女。

 ヴォルは彼女の顔をまじまじと覗き込んだ。


「あ」

「どうした」

「よく見ればこいつ、前に会ったことあるわ」

「なんだと? どこでだ?」

「ほら、前にベラちゃんが酔い潰れた時。カウンターの向こうでひとりで飲んでた女よ」

「……記憶にないな」


 アイゼンを出立する直前のことだ。

 まあ、あの時のベラはべろんべろんだったし。

 自分の醜態も覚えてないくらいなら忘れていても当然だ。


「あれ? そっちの人、もしかして日本人ですか!?」


 大剣黒髪女はナコを見てなぜか大声を出した。


「えっ、わ、私ですか?」

「私と同じ異世界転生? 出身はどこ!?」

「葉桜村ですが……」

「聞いたことありませんね。何県です?」

「県?」


 なにやら話がかみ合っていない。

 このままでは話が進まないので、ヴォルは彼女に問い質した。


「で、アンタはどこの誰なのよ」

「私の偽名はミサイアです。紅武凰国からやって来ました」

「紅武凰国!? 創造者たちが住むと言われる、第三の異世界の……?」

「えっなんで知ってるんですか。ヤバいしまった」


 つい口を滑らせたような感じで、自ら墓穴を掘っていく異世界から来た女。

 偽名とか言ってるし、あまり頭が良くないというか、どうやら嘘をつけない性格のようだ。


「アンタ、異世界の人間なの?」

「あの機械マキナの翼は文明が進んだ世界のものだったのか……」

「待って下さい違うんです。事実だけど相手の理解できないことを言って煙に巻くつもりだったんです。知ってるなんてずるいじゃないですか、今のは聞かなかったことにして下さい」


 なんだその言い訳は。

 今さら遅いわ。


「まさか、貴様たちも魔王軍と同様にミドワルトを侵略するつもりなのか!?」

「違います! 侵略する気なんてこれっぽっちもありません!」

「あーうるせーし面倒くせえ」


 傷の治療を終えたダイが気だるそうに起き上がる。


「しばらく寝てるから、話がまとまったら起こしてくれ」

「あっ、待って下さい大五郎!」


 どうやらまとまりのない会話に嫌気が差したようである。

 会話への参加を諦めて木陰の方に行ってしまった。

 ナコも彼に着いていく。


 後にはミサイア、ヴォル、ベラ、シルクの四人が残った。

 改めてヴォルが代表して彼女に問いかける。


「さて、それじゃ詳しく聞かせてもらいましょうか。アンタは何の目的があって異世界とやらから来たの?」

「待って下さい、次は私が質問する番ですよ。一方的にそちらが聞いてばかりはずるいです」

「はいはいわかったわよ。何が聞きたいの?」

「あなたたち、もしかしてビシャスワルトに向かおうとしてます?」

「その通りだけど」

「おっけーです。それだけわかれば十分。一緒に行きましょう」


 なに言ってんだコイツ。

 ヴォルはミサイアを強く睨み付けた。

 こんな怪しいやつを同行させるなんて冗談じゃない。


「アンタを連れて行ってアタシらに何のメリットがあるのよ」

「戦力として役に立つと思いますよ? 私がじゃなくて彼女がですけど」


 ミサイアは人差し指を立てて後ろの方を指さした。

 そちらを見ると、ふらふらの体で飛んでくる人間がいた。


「なにあれ、エヴィル?」

「いえ、あれは……まさか新世界のイブ様!?」

「私の友達ですよ」


 そいつは馬鹿でかい機械マキナの翼を背負った金髪の女だった。


「やはりナータだったのか。あの覇帝獣ヒューガーと戦っていたのは」

「海を渡ろうとしてバイクを撃墜されて怒っちゃったみたいで……さすがにSS級モンスターには敵わないからやめた方がいいって言ったんですけど、ようやく諦めてくれたみたいですね」

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