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閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
第2章 盗賊団 - black stranger & silver prince -
72/800

72 再会

 どれだけあなたに再び会うことを望んだだろう。

 どれだけの決意を秘めてここまでやってきただろう。


 怖い事もあった。いやな事もいっぱいあった。

 けれどこうしてあなたの姿を目にすれば、これまでの苦労なんて全部吹き飛んでしまう。


「よかった、間に合った」


 ジュストくんが微笑んだ。

 間違いない。

 その優しい表情。

 りりしいお顔。

 たくましい体。

 私の大好きなファーゼブルの輝士見習い。

 にじむ視界の中心にしっかりと彼の姿を見る。

 抱きつきたい気持ちでいっぱい。

 だけど溢れ出る感動に縛られて体が思うように動かない。

 その代わりに精一杯の感情を込めてもう一度彼の名前を呼んだ。


「ジュストくん」


 でもその後は何を話せばいいのかわからない。

 会いたかった。

 無事でよかった。

 どうしてここに?

 ううん、まずは謝らなきゃ。

 私のせいで大変な事になってしまったこと。


「あの、私のせいで、ジュストくん、あの。ごめんなさ」

「話は後で。まずはこいつらをやっつけなきゃ」


 上手く言葉にならない私の声を遮るとジュストくんは手にした剣を構えた。

 残り二体になったマッドエイプの方を向く。

 その瞬間ハッと正気に戻る。

 いけない、いくらジュストくんが強くてもひとりで戦うなんて無茶だ。


「ダメだよ! あれは凶暴化した獣(イーバレブモンスター)なんだよ!」

「大丈夫。ファースさんにもらったこの剣があるから」


 私も援護する、と言おうとしたけれど予想外の名前が出たことにびっくりして口を閉じた。

 どうしてジュストくんがファースさんを知ってるの? 


 質問をするより早くジュストくんが走り出した。

 向かってくるマッドエイプの爪をかわし、すれ違い様に剣を振る。

 お腹を切り裂かれたマッドエイプは内蔵をまき散らし絶叫を挙げて倒れる。

 ジュストくんは倒した相手を振り返ることなく最後の一匹に走り寄った。


「たっ!」


 剣を掲げ、叩きつけるように振り下ろす。

 わずかに身を引いたマッドエイプの肩口が切り裂かれた。


 けれど血しぶきを上げてなお敵は倒れない。

 斬られた反対側の手でジュストくんに反撃をしようとする。


っ!」


 危ない、と思った時には反射的に叫んでいた。

 掌から撃ち出した火球が吸い込まれるようにマッドエイプの頭を焼く。


「キキキキキーッ」


 金属をひっかくような断末魔の叫びが響いた。


「はやく今のうちに!」


 驚いた顔で私を見ていたジュストくんはすぐに気を取り直して剣を構える。

 炎が消えるよりもマッドエイプの頭が両断される方が速かった。

 全ての敵を倒し終えたジュストくんは剣を鞘に納めて微笑んだ。


「驚いたよ。すっかり一人前の輝術師なんだね」


 優しい笑顔で褒めてくれる。

 その姿はやっぱり私が知っているジュストくんだった。

 なんだか、嬉しくなっちゃう。


「あ、あの、私なんかまだまだで、それよりジュストくんこそすごい強くて」


 久しぶりに会えた照れくささでまともに顔を見られない。

 思わず視線を逸らすとジュストくんの持っている剣が目に止まった。

 刃が僅かに光を放っているように見える。

 輝工精錬された武器、だっけ。

 輝力を操れない人でもエヴィルに対抗するために強化された武器。

 そんなことをファースさんが言ってた。


「ひょっとしてファースさんが言っていた別行動している新米輝士さんって、ジュストくんの事?」

「うん。狼雷団の調査といざという時の戦闘要員」

「どうしてそんなことを?」


 私との隷属契約を罪に問われ魔霊山麓の施設へ送られたはず。

 それがどうして輝士の任務に就いているんだろう? 

 そもそもジュストくんは正式な輝士じゃないはずじゃ……


「いろいろあってね。ルーの方こそ本格的に輝術師の修行をするためにフィリア市を出たんだって? ファース隊長から聞いたときは驚いたよ」


 え? よかった? 私と会えて?

 わわ、そんなこと言われたら嬉しくなっちゃうぞっ。


 ……じゃなくて、何?

 何言ってるの? 私が輝術師の修行?

 しかもファースさんから聞いたって。

 私のことは知らなかったって言ってたのに。


 頭の中を渦巻いている疑問に混乱していると、視界の端にゆっくりと降下してくる姿が見えた。

 ジュストくんもそちらを振り返る。


「まったくとんだお転婆姫だよ君は。これでは私が悪役みたいじゃないか」


 アンビッツが大地に降り立ち、怒りに歪んだ形相で私たちを睨んでいた。

 服のところどころが炭化して破れ落ちている。

 

「お前が狼雷団の団長か」


 意識して低い声を出しているジュストくんは私と話しているときとまるで顔つきが違う。

 鋭い目つきは隔絶街で始めて会った時と同じ輝士の顔だった。


「ファーゼブルの輝士か。邪魔立てするのなら貴様も生かしてはおかんぞ」

「この状況でお前に何ができる。大人しく投降すれば罪は軽くなるぞ」


 相変わらずカッコつけてるなぁ……

 って本当にカッコイイんだけどね。きゃ。


「降参する気はない。不様に負けを認めるくらいならば華々しく散ろう」


 アンビッツはそう言うとどこに隠し持っていたのか細剣を取り出した。

 ジュストくんの後姿に緊張が走る。

 剣先をアンビッツに向け油断なく身構えた。


「ならば望みどおりにしてやる」

「気をつけてジュストくん。あいつは結構強いよ」


 ジュストくんが強いのは知っているけれどアンビッツの実力も侮れない。

 私は思わず彼の服の背中を掴んだ。


「心配いらないよ。巻き込まれると危ないからから離れてて」


 振り返った彼の優しげな瞳が私を見る。

 自信ありげにそう言われれば引き止める言葉は私にはなかった。

 あれから何があったかはわからないけど、ジュストくんはファーゼブルの輝士として任務に就いてそのために動いているらしい。

 だったら私が口を挟むことはできない。


「大した輝士道精神だな。任務を忠実に果たし女も守るか」


 あざ笑うかのようなアンビッツを私は無言でにらみつけた。

 ジュストくんはお前なんかと違うんだぞっ!

 自分の国を守るためとはいえ子どもを犠牲にしたり、女の子を利用したりするやつなんかに負けるもんか!


 アンビッツがいくら強くてもジュストくんの方がもっと強い。

 私は絶対に彼が勝つって信じて応援する。

 でも本当に危なくなったら、迷わず援護するからね。

 がんばって!


 じりじりと互いに距離を詰め合う二人。

 一足飛びで斬りかかれる間合いスレスレまで接近する。


「そんな甘い考えが通用すると思うな!」


 大声を張り上げるアンビッツ。

 その声に驚いた直後、私は上空からの気配を感じた。

 ニタニタと気味の悪い笑みをしたスカラフが降下して来ていた。

 逃れようと構える間もなく小声での呟きが耳に入る。

 ――輝言。


氷矢(グラ・ロー)


 最後の単語だけははっきりと耳に届いた。

 スカラフの握った杖から氷の矢が撃ち出される。

 鋭く尖った氷矢が足元に突き刺さった。

 思わず足を引っ込めて飛びのく。

 直後、背後にまわったスカラフに羽交い絞めにされた。

 足が地面から離れ、またも体が宙に浮く。


「わーっ!」

「クケケケ。女を人質にされては輝士どのも手が出せまい」

「はなせっ、はなせっ!」


 上空数メートルの位置で拘束される私。

 スカラフの手を振りほどこうと必死にもがく。

 けれど細い身体のどこにそんな力があるのかビクともしない。

 っていうか胸! 

 触ってる! キモチ悪い!


「次に大声を出せばそれが人生最後の言葉になるぞ」


 首筋に鋭利なナイフの腹があたる。

 肌に触れるヒヤリとした感触。

 それ以上に冷たい声色。

 スカラフが本気であることがはっきりとわかった。

 抵抗しちゃいけない。

 輝術を使うそぶりを見せた瞬間、コイツはためらいなく私の喉を切り裂く。

 そう思わせるだけの冷酷さがこの老人にはある。


「卑怯だぞ、ルーを離せ!」


 こちらを見上げながらジュストくんが怒鳴る。

 その隙にアンビッツが彼の剣を細剣で叩き落し、すばやく蹴り飛ばした。

 細剣の切っ先がジュストくんの首筋に当てられる。


「輝士にしては甘すぎるな。女に気を取られて隙を見せるとは」


 ツ……と首筋から血の筋が垂れた。

 ジュストくんは苦い表情でアンビッツをにらみ返す。

 それが気に入らなかったのかアンビッツは細剣を軽く振った。

 ジュストくんの頬に一筋の傷が走る。

 返り血がアンビッツの顔に赤い模様を描く。


「実力も覚悟もない半端物が、さっきの大口を後悔させてやるぞ」

「くっ……」


 あああ……私のせいで、私のせいでジュストくんが危険な目にいぃ。

 そもそも彼を助けるために街を出たって言うのに、やっと会えた途端いきなり足手まといになってどうするのよ。

 ここは覚悟を決めるところだ!


「私の事はかまわないから、そんなやつやっつけ――」

「ほんっと、そいつの言うとおり。ダメダメだわね」


 わたしの声を遮ってすぐ側でスカラフとは別の声が聞こえた。

 背後に強い光が閃く。

 夕暮れの色に染まりかけた空を照らす。

 横からの衝撃を受け私の体がスカラフから離れた。


「わ、わわわわっ!」


 空中に投げ出されてパニックに陥る私。

 その体を誰かが抱きかかえ地面に降り立った。

 お姫様だっこで私の顔を覗き込むのはこれまた見覚えのある顔。


「はぁい。元気だった?」


 後ろで結んだ青い髪。相変わらずの飄々とした態度。

 やられたと思っていたファースさんが変わらない元気な姿でそこにいた。

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