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閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
第12章 竜の反乱 - big monsters attack -
715/800

715 みたび、黒将襲来

「いやあ、ずっとチャンスを待ってたんだよねえ。お嬢様が斬輝使いから離れて単独行動してくれる時をさ。余計な赤髪も着いて来ちゃったけど、まあこれくらいなら良いでしょ!」

「言ってくれんじゃない」


 ダイやナコさんに比べたら問題にならないとゼロテクスは言っている。

 あからさまに侮られたヴォルさんは獰猛な笑みを浮かべた。


「おっ、やるの? いいよ。まとめてやっつけてあげる。ぼく知ってるんだよ? お嬢様がいま全く力を使えないって――」

爆炎黒蝶団ネロファルハ


 九つの黒蝶をゼロテクスの周囲に配置。

 全方位からぶつけて一斉に爆発させる。


 どかどかどかどかどかどっかーん!


「ぎゃーっ!?」


 素早く耳を塞ぎつつ、私とヴォルさんは大きく後ろに距離を取った。

 煙の中からボロボロになった先生の姿の黒将が現れる。

 さすがにあれくらいじゃ倒せないか。


「ちょっと、どういうことなの!? 力が使えないんじゃなかったの!?」

「もうほとんど治ったよ」


 まだまだ本調子には遠いんだけどね。

 別に調子に乗らせてあげる必要はないし。


「ぐぬぬ、少し遅かったか……だったら手加減はしないもんねー!」


 ゼロテクスの口から黒く小さな無数の球体が噴出する。

 宙に浮かんで膨らみ、亀裂が入り、中から顔のない黒人形が現れる。

 黒将ゼロテクスから生まれた暗黒の軍勢だ。


「ブラックフォース! ゆけ、ぼくの娘たちよ!」


 何百もの黒将の分身たちは、あっという間に空を埋め尽くさんばかりに増殖していく。

 そのうちの一部がゆっくりと地上に降りてきて――


「オラアッ!」


 着陸する前にヴォルさんが炎の輝粒子でぶっ飛ばした。


「ルーちゃん!」

「うん!」


 倒したのはほんの一部。

 全部やっつけてたんじゃ輝力と体力が持たない。

 だから、とにかく二人がかりでゼロテクスの本体を倒す!


閃熱白蝶弾ビアンファルハ!」


 九つの白蝶で閃熱のオールレンジ攻撃。

 大賢者の力を得た黒将に小細工は通用しない。

 とにかく攻めて攻めて攻めまくる!


「死ね、クソ野郎!」


 ヴォルさんが地面を蹴って急接近。

 飛んでいるゼロテクスを正面から殴り飛ばす。


「ぶぼっ!? ちょっと、なんでこっちに向かってくるわけ!? ぼくの娘たちが暴れてるけどいいの!?」

「周りには村も町もないし放っておいても大丈夫でしょ!」

「あっしまった」


 近くに人が住んでるとかならともかく、別に急いで黒人形を退治する必要はない。

 ゼロテクスが力を失えばすべて消えるのは前回に確認済みだし。


「ええい、なら……ばりあー!」


 黒将の周囲が歪み、輪郭が水に浸されたように曖昧になる。

 先生が編み出した輝力を強制的に散らせる技だ。

 あの中ではヴォルさんの莫大な輝粒子すらもかき消されてしまう。


 輝攻戦士に対しては最強の防御結界。

 しかし。


「せいっ!」

「おふっ!?」


 ヴォルさんは懐からナイフを取り出し、それを黒将の眉間めがけて投げつけた。

 術者の集中が乱れたことによって周囲の歪みが正常に戻っていく。

 よし、あの術は常時展開式じゃなかった!


「えいっ」


 そこに私が閃熱白蝶弾の九発同時攻撃!

 じゅわじゅわじゅわっ!


「ぎゃぴっ!」

「油断しすぎなのよ、アンタは!」


 ヴォルさんが敵の頭上を取った。

 彼女が纏う五倍の輝粒子は正常に燃え上がったまま。

 くるりと体を回転、上から下に叩き落とすような蹴りが炸裂する!


「うっぎゃーっ!」


 地上に向かって落下していくゼロテクス。

 私は閃熱の翼を拡げ、カウンター気味に敵の体を包んだ。


「えい!」

「熱ーっ!」

「とどめ、くらえっ……」


 無防備な黒将に手を当てる。

 ゼロ距離で最強の輝術を叩き込む。


極覇天垓爆炎飛弾ミスルトロフィア!」


 翡翠色の矢がゼロテクスを押し上げたまま、はるか上空へと昇って――

 いかなかった。


「ああもう! おまえらあんま調子に乗るな!」


 一〇〇メートルほど打ち上げた所で、途端に光の矢が消失。

 ゼロテクスの周囲で淡い輝きとなって散った。


「もうこうなったら本気でぶっころすよ! 変・身!」


 黒将の全身が極覇天垓爆炎飛弾ミスルトロフィアと同色に変化していく。

 あれは超絶パワーアップの術、極天戦神魂聖光招来メタモルフォージア


 この状態になった黒将は本気で手がつけられない。

 斬輝使いがいない限り勝つのはまず無理だ。


「ヴォルさん!」

「わかってるわ!」


 私たちは詳しい言葉を交わさずに次の作戦を確認し合った。


「くっふふふ! この状態になったぼく相手に、どんな抵抗をしてみせるのかな? 言っておくけどさっきみたいな小細工はもう通用しない……って、どこ行くの!?」


 決まってるでしょ、逃げてるんだよ!

 私は閃熱の羽を拡げ、ヴォルさんは輝粒子を全快にして走る。

 変身した黒将や数百の黒人形を置き去りにして。


「ああもう、逃げるなんておまえらそれでも正義の味方かーっ!」

「別に正義の味方じゃないし!」


 正義だろうとなんだろうと、勝てなきゃ逃げるでしょ!

 ……と見せかけて、


極覇天垓爆炎飛弾ミスルトロフィア!」

「ぎゃーっ!?」


 直接当てるとかき消されるから、追ってくる足下の地面付近で爆発させる。

 砂埃と煙が遙か上空まで立ち昇って奇妙な灰色の逆雲が生まれた。

 見えないけど地面には巨大なクレーターができたはず。


「すっご……やったんじゃない?」

「あれくらいじゃ倒せないよ! それより今のうちもっと遠くに――っとお!」


 斜め後方から氷の矢が豪雨のように降り注ぐ。

 私はそれを閃熱の翼で振り払った。


「よくもやったなあ!」


 煙の中からゼロテクスの声が聞こえてくる。

 直後、翡翠色の矢が飛び出すのが見えた。


 ヤバい、あっちも極覇天垓爆炎飛弾ミスルトロフィアだ!

 このタイミングじゃ避けられな……あれ?


 翡翠色の矢は近くの木に当たって大爆発を巻き起こした。

 辺り一面を埋め尽くす莫大な光と轟音。

 さっきと同じ、地形を変えるレベルの破壊が巻き起こる。


「はっははー! お嬢様、死んだ? 反応がなくなったねー? なんだ意外とあっさりだったね、最初からこうしておけばよかったよ!」




   ※


 あのパワーアップモードは正直言って反則だよね。

 なにせノータイムノーリスクで八階層の輝術を使ってくる。

 まともに戦っても絶対に勝てないし、一直線に逃げ切るのも難しい。


「ヴォルさん、大丈夫?」

「な、なんとか……痛っ」


 ゼロテクスが極覇天垓爆炎飛弾ミスルトロフィアを撃ったのは、何故か私たちが隠れている場所とは微妙にズレた方向だった。


 煙と炎で視界を失っていたせいか、かなり離れた位置に着弾。

 その隙に閃熱フラルで地面を掘ってヴォルさんと一緒に地中に緊急避難した。

 地面の下に潜みつつ、防陣翠蝶弾ジャーダファルハで周囲を覆い、生き埋めになることを防ぐ。


 流読みは地中にいる人間の気配を感じることはできない。

 そういうわけで、なんとかゼロテクスから身を隠すことに成功した。

 けれどヴォルさんは爆発の余波から私を庇ったせいで、結構な傷を負っている。


「いま治すね」

「わ、悪いわね……」

「ううん、庇ってくれてありがとう」


 私はヴォルさんの傷に手を当てて風霊治癒ウェン・ヒーリングをかけた。

 彼女の治療をしながら、今後のことを話し合う。


「ムカつくけど、アレを倒すのはやっぱ無理だわ」

「このままどっかに行ってくれればいいんだけど」


 糸状にして感覚を伸ばした私の新式流読みなら、地上にいる敵の気配を感じる事もできる。

 ゼロテクスはここから少し離れた場所の上空に浮かんでいた。

 分身である黒人形たちも周りに大勢いる。


「それとも、このまま地面を掘って移動する?」

「時間がかかりすぎるわよ。崩落するかもわかんないし」


 最悪なのは地面が崩れて空が見えてしまうこと。

 逃げ場のない状況でゼロテクスに気づかれたら完全にアウトだ。


 やっぱり、あいつがいなくなるまでここに隠れているしかない。

 ……とち狂って極覇天垓爆炎飛弾ミスルトロフィアを乱発とかしなきゃいいけど。


 そんな最悪の想像をしていると、ゼロテクスはもっと信じられない暴挙に出た。


「いちおう確認しておこうか。お嬢様、生きてるならでておいでー! じゃないと、ここから一番近くの町を襲って、住んでるヒトを皆殺しにしちゃうよー!」

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