表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
第11章 魔王軍総攻撃 - great fierce battle -
701/800

701 勇者来臨

 はあ、やれやれ……

 ダイってば相変わらず無茶しかしないんだから。

 いくら何でも三〇十九体もいるエヴィルの群れの真ん前に割り込むなんて!


 あ、ヴォルさんだ。


「ダイ、あの赤い髪の人の所に行って」

「おう」


 ダイは素直に輝動二輪を走らせる。


「ヴォルさん! 勝手に出て行っちゃってごめん!」

「え、ルーちゃん? なんでこんなところに……」

「話は後にしろ。今はアレをどうにかするのが先だろ」


 いや、そうなんだけどさ。

 ダイに言われるともやもやするんだよ。


 戦いが始まりそうなので、とりあえず私は輝動二輪のタンデムシートから降りた。

 うう、数時間ずっと座りっぱなしだったから、さすがにちょっと疲れたよ。

 ダイも輝動二輪のサイドスタンドを降ろして機体から降りる。


「さて、アレが敵のボスなんだよな?」


 ダイは親指を立てて白い虎の半獣人を指す。


「たしか獣将とかっていうやつだね」

「んじゃアイツを倒せばいいってわけだ」


 まーた簡単に無茶なことを言ってるよ、この子は。

 こういう所は成長しても相変わらずだ。


 ま、でも……

 任せちゃっていいか。


「っていうかヴォルさん、すっごい怪我してるけど大丈夫!?」

「え? ああ、うん。まあ大丈夫だけど……」

「いちおう治療するけど、いま上手く輝術が使えないから、あまり期待はしないでね」


 ヴォルさんの身体に触れて、風霊治癒ウェン・ヒーリングをかける。

 緑色の風が彼女の傷を緩やかに癒やす。

 ただ、完全回復にはほど遠い。


「ありがとう、でも大丈夫よ。それより協力してアイツを……」

「いいからじっとしてて」


 腕を退こうとするヴォルさんの袖を掴んで強引に治療を続行する。


「ここはダイに任せておけばいいから」

「そういうこと。けが人は邪魔だから、そこで大人しくしてな」

「なっ……」


 お荷物扱いされたことでdヴォルさんは明らかに苛立ってダイの背中を睨み付けた。

 しかしこの子、ヴォルさんが相手だっていうのに、本当に怖い物知らずだよね。


 ダイはそんな視線を気にもせず、背中と腰から対となる二本の剣を抜いた。


「いいぜ、こうなったらトコトンやってやるよ……魔王様の娘だろうがもう知るか。この俺様を夜将なんぞと一緒にするんじゃねえぞ?」


 敵集団の中から離れて獣将がこちらに近づいて来る。

 その視線はまっすぐに私の方を向いていた。


 ダイが獣将の進路を塞ぐように前に出る。

 けど、敵の目に彼の姿は映っていない。


 獣将が右腕を胸の前に上げた。

 道ばたの石を足で退けるように、無言で振り払う。


「破ッ!」


 相手の動きに合わせて、ダイは右手に持った剣を閃かせた。


 二人の攻撃が交差する。

 ()()が宙に舞い上がり、回転して地面に落ちる。


「……あ?」


 獣将は不思議そうな顔で初めて目の前の少年を見た。

 そんな光景に私はちょっと嫌な過去を思い出す。

 宙を舞っていた獣将の腕が地面に落ちた。


「い、痛えっ!? テメエ、何をしやがっ――」


 絶叫しながら問いかける獣将。

 ダイはそれに答えない。

 無言で剣を振る。


 とっさに身を引いた獣将は、ギリギリの所で攻撃をかわした。

 白い体毛に覆われた胸板に一筋の切れ目が入る。

 真っ赤な血飛沫が吹き上がる。


「ざ、ザンキ使いかっ!? 馬鹿な、テメエは既にヤイタカに倒されたんじゃ……」

「戦闘中にペラペラ喋ってんじゃねーよ」


 ダイの斬撃は獣将の身体を軽々と傷つける。

 おそらく初めての経験に、獣将は完全に狼狽していた。


 ただ、さすがに魔王軍の将。

 即座に気持ちを切り替えて反撃してくる。


「舐めてんじゃねえぞ、ガキがァ!」


 攻撃を食らう前に叩き潰してしまえとばかりに、その巨体ごとぶつかっていくように、ダイの体へと圧し掛かった。


 ダイは攻撃を回避すべく後ろに飛ぶ。

 一瞬早く、獣将は残った左手でダイの右腕を掴んだ。


「このまま骨を砕くか! 腕ごと引っこ抜くか! どっちにせよテメエは二度と剣を持てないよう――」

「だから、うるせーって言ってんだろ!」

「ぎゃっ!?」


 左手の剣が獣将の腹を突き刺さった。

 彼の周囲にはいつの間にかきらきら光る輝粒子が舞っている。

 痛みに力を緩めた獣将の腕を払いつつ、今度は右手の剣で相手の腹を薙いだ。


「ぐ、ぐあああ……!」

「なんだ。言うほどたいしたことねーじゃねーか」


 斬輝使いにして、輝攻戦士。

 二刀流の少年剣士は完全に獣将バリトスを圧倒していた。




   ※


「なんなんだよ、アイツ……」


 ヴォルさんは戦うふたりの姿を眺めながらぼそりと呟いた。

 最強の輝攻戦士って呼ばれる彼女から見ても、ダイの強さは異次元らしい。


「私たちが旅をしてたときの仲間で、ナコさんの弟だよ」

「あの化け物にはアタシだってほとんどダメージを与えられなかったんだぞ」


 今は一方的にやられているとはいえ獣将は間違いなく強い。

 溢れる威圧感はエビルロード以上だし、ダイが避けた攻撃の余波は地面を抉るほどだ。


 なにより将は耐久力が尋常じゃない。

 エビルロードは五人がかりでも大いに苦戦した。

 夜将も私が全力で挑んだのに、結局は倒せず逃げられてしまった。


 敵の防御力を無視する斬輝使いの特性。

 それは将と戦うのに、これ以上無く相性が良い。

 もちろん、ダイの強さの秘密は斬輝使いってだけじゃない。


 彼の機動力は普通の輝攻戦士と変わりない。

 それだけならヴォルさんやジュストくんには及ばない。


 けれどダイは、まるで相手の動きを先読みしているみたいな反応速度で、獣将の攻撃を悉くかわしながら反撃を叩き込んでいく。


 結果、一方的に相手を翻弄している。


「くそっ、くそぉ!」


 白い体を真っ赤な血で染めて獣将は吠える。

 さすがにすごい体力だ。

 あれだけの攻撃を食らっても倒れない。

 まあ、この調子なら時間の問題だと思うけどね。


「おい、嘘だろ……?」

「あの獣将閣下が、まるで歯が立たないなんて……」


 自分たちのボスが負けそうなのに、後ろに控えて動かない魔王軍のエヴィルたち。

 彼らは何の手出しもできずにその様子を遠巻きに眺めているだけだ。


 正直言ってあいつらが戦いに参加したらヤバいんだけどね。

 私はほとんど戦えないし、ヴォルさんもかなり消耗しているし。

 さすがのダイも横やりを入れられながら戦えば苦戦しちゃうと思う。


「あ」

「どしたの?」

「街の方から誰か来る。それもたくさん」


 私がその気配を感じ取って振り向くと、機動二輪に乗った輝士の集団が、砂煙を巻き上げながらこちらに近づいて来る姿が見えた。


 先頭を走る輝士が私たちの側で停まる。

 どこかで会ったことあるような気がする紫髪のひとだ。


「ヴォルモーント、無事か!?」

「ゾンネ。少し遅かったわね」


 後ろの輝士さんたちも次々と機動二輪から降りて、それぞれの武器を手に取る。

 そして、戦っているダイの姿を見て、誰もが呆然としてしまう。


「なんだ、あれは」

「さあ」


 獣将を圧倒している黒髪の剣士を眺める。

 彼らには何が起こっているのかよくわからないみたい。


 そんな中、誰かがぽつりと呟いた。


「……勇者だ」


 その言葉をきっかけに輝士たちの中にざわめきが広がっていく。


「勇者だって?」

「あの、神話に語られる……?」

「黒髪の東国人、間違いない、あの方は!」

「新世界のイブ様が仰った、東国から来た勇者さまだ!」


 なんかすごい勘違いしてるよ。

 そういえば前にも誰かが勇者とか言ってたな。

 けど実際、今のダイはそう見えるくらい、圧倒的に強い。


「くそおおおおおおおっ! 下等なヒトめえええええぇえぇl」

「うるせえ、吠えんな」

「こいつで……どうだァ!」


 獣将は大きく口を開くいた。

 口腔からオレンジ色の炎が膨れあがる。

 それは瞬く間に巨大化し、火柱となってダイを飲み込み――


「うぜえ」


 ダイが右腕の剣を一振りすると、炎はまるで形あるもののように真っ二つに裂けて消滅した。


「ばかな、ばかなばかなばかなァ!」

「馬鹿はテメーだろ」


 ダイは獣将の懐に飛び込んだ。

 振るった二刀が敵の胴体に大きな×字を描く。


 ぐらり、と。

 敵の巨体が揺らぐ。


「こんな、こんな……俺様が、この、未来の魔王が約束されたはずの俺様が、こんなガキに……」


 ズズン。

 大きな音を立て、獣将の体が仰向けに倒れる。

 体が淡い光の粒子に変化し、後にはすみれ色のエヴィルストーンが転がった。


「なんだよ、たいしたことなかったな」


 ダイは腰と背中の鞘にそれぞれ剣を収める。

 直後、集まった輝士たちから地響きのような歓声が上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ