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閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
第11章 魔王軍総攻撃 - great fierce battle -
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698 ◆新世界のイブ(偽)

 はあ……

 一体なにやってんのかしら、あたし。

 異界の兵器でエヴィルを殲滅して神話の人物を演じるなんて。


 ぶっちゃけ自分でも馬鹿みたいだと思う。

 なのに。


「新世界のイブ様! ありがとう!」

「おかげで私たちは救われました!」

「はは……」


 なんかすごい感謝されてるし。

 つられて思わず手を振り返しちゃったわ。


『ちょっと、なんですか今の棒読みは! もっと真面目にやってください!』


 ミサイアから通信が入る。

 んなこと言われても真面目にやってるし。


「でもみんな、あたしがイブだって信じてるみたいよ」

『えっ。本当ですか?』

「つーか、東方から来た勇者って誰よ」

『私に決まってるじゃないですか。こっちも頑張ってるんですからね』

「はあ、なんだってこんな面倒なことしなきゃいけないのよ……」

『神話の奇跡を演じて、唐突な援軍の不自然さを誤魔化すんですよ。これで貴女が使っているのが異世界の兵器だとは誰も思わないでしょう?』

「十分に不自然だと思うけど。あんた、ミドワルトの人間なめてない?」

『文句ばっかり言わないでください。ナータがどうしても魔物に襲われている街を助けたいっていうから協力したけど、本当は大勢の目に触れるような形で戦って欲しくないんですからね』


 通信機からはミサイアの声に紛れてエヴィルの絶叫や激しい打撃音が聞こえてくる。


「あんたの方は大丈夫なの? なんかすごい音がしてるけど」

『問題ないです。新型のリングがあるから絶対に怪我なんてしませんし、武器屋で買った大剣もすごく良い感じですよ。本当に伝説の勇者になった気分です!』

「あっそ」


 楽しんでるみたいだし、心配することもないか。


「さて、街中のエヴィルは全滅させたけど……」


 あ、西の方からまた岩のエヴィルが飛んできたわ。

 とりあえずマルチスタイルガン(MSG)Ζのライフルモードで撃ち落としておく。

 街の人たちがすごい歓声を上げてるけど、人助けして感謝されるのは悪くないわね。


「別方向にまだ投石器が残ってるみたいだから、そっちに行くわ」

『気をつけてくださいね。ヴォレ=シャルディネは修理したばかりですし、何かあったらすぐに安全な場所に待避してください』

「わかってるわよ」


 んじゃ、西門の方にでも行ってみましょうかね。




   ▽


「ほらほら、どうした人類戦士! 威勢が良かったのは最初だけか!?」

「くっ……」


 ベラは苦戦していた。

 相手は半鳥半魚のビシャスワルト人、モーウェル。

 四天王を名乗るだけあって、その戦闘力は並みのケイオスを遥かに凌駕する。


 しかも、ベラは気絶したグローリア部隊の仲間たちを庇いながら戦っていた。

 気を抜けばモーウェルはすぐに無抵抗の彼らを狙おうとするのだ。

 魔王軍の雑魚からも時折、輝術による援護が飛んでくる。


「くっ……すまん、ベラ」

「いいから喋るな! ジッとしていろ!」


 最初の爆発で彼らが受けた傷は決して浅くない。

 意識があるのは唯一、アビッソだけ。

 それも動く事はできない。


 残った投石器からは今も街に向かって次々とエヴィルが送り出されている。

 せめて、あれだけは何とかしなければならないのに……


 ベラはヴォルモーントやナコのように戦えない己の無力さを噛みしめた。

 彼女たちが仕掛けた奇襲は完全に失敗だった。


「さあて、そろそろ死に損ないへのトドメを刺しますか~?」


 モーウェルは小馬鹿にするように笑い、羽の付いた両手を拡げた。

 両方の掌にすさまじい密度の輝力が集まっていく。

 複数のオレンジ色の光球が形成される。


 あれは爆炎弾フラゴル・ボムか?

 しかも、その数は一〇を越える。


 魔剣ディアベルが吸収できる輝術は一度に四つまで。

 あれだけの数を同時に撃たれては、すべてを防ぐことはできない。

 多少は自分の輝術で相殺するとしても、確実にいくつかは素通りされてしまう。

 下手をしたらベラ自身も大きなダメージを受けるだろう。


「感謝しろ、ここからは仲間を気遣わずに戦えるようにしてやる!」

「おのれ……っ」

「ベラ! 俺たちのことは構わず、自分の身を守れ!」

「馬鹿なことを言うな!」


 味方を見捨てて自分だけ生き延びるなんて、そんなことできるわけがない。

 しかし、ベラたちが敗北すれば、もっと多くの人が殺されてしまうのもわかっている。


「頼む……俺たちを足手まといにさせないでくれ……!」

「……くそっ、すまん。仇は必ず討ってやる」

「そうだ、それでいい……」


 ベラは心を鬼にして、仲間を見捨てる決意をする。

 その代わりモーウェルだけは絶対に倒す。

 たとえこの身が砕けようともだ。


「覚悟はできたか? お別れは済ませたか? それでは――」

「うおおおおおっ!」


 ベラは魔剣を構え、敵に向かって突っ込んでいく。

 決死の覚悟で飛ぶベラの目の前で、モーウェルは、


「死ねぴぎゃ!?」

「えっ」


 天から降り注いだ光に頭を貫かれて死んだ。




   ※


 おっけー、ボスっぽいやつは始末したわ。

 あそこで倒れてる輝士たちは間一髪だったわね。


 さて、残りの投石器を破壊しておかなきゃ。


「ほい、ほいっ」


 両手に持ったMSGΖライフルを連射する。

 光に貫かれて投石器はあっさりとぶっ壊れる。


 はい完了。

 楽勝ね!


「な、なんなんだよ、あいつ……!」

「モーウェル様がやられちまったぞ!?」


 お、喋るエヴィルたちが怖じ気づいてるわ。

 さすがに敵の数も多いし、全部倒すのは面倒よね。

 あたしはミサイアみたいに戦いを楽しむつもりはないし。


 よし、ちょっとビビらせてやろうかしら。

 拡声器の音量を最大にして、と。


「異界からの侵略者ども! あたしは新世界のイブ! あんたたちのボスはすでにやっつけたわ! 撃ち殺されたくないなら、さっさと軍を退いて家に帰ることね!」


 言葉で脅しつつ、敵の群れ手前に向かってMSGΖをサブマシンガンモードで斉射する。

 おまけに威力の高い肩部ミサイルランチャーも撃ち込んでやったわ。

 運が悪かった何体かが直撃を受けて宝石に変わる。


「うわあああーっ! 逃げろおおおーっ!」


 二〇〇〇体近いエヴィルの群れが地響きを上げて一斉に引いていく。

 こりゃまた壮観な光景ね。

 っていうか、数は多いくせに意外と臆病なやつら。

 最初にボスをやっつけたのが効いたのかもしれないわね。


 後に残ったのは少数でエヴィルの群れを相手してた輝士たち。

 かなり苦戦したみたいで一人を除いて全員が倒れてる。

 いちおう声を掛けておいた方がいいかしら?


「おーい、もう大丈夫よ」


 その、たった一人だけ立っている人物。

 白いマントを着けた長い金髪の輝士が、あたしを見上げて……


「……お前、ナータか?」

「えっ」


 あたしの名前を呼んだ。

 あれ、あの人、もしかして。


「げっ、ベラお姉様!?」

「やっぱりナータか! そんなところで何やっている!?」


 なんでこんな所にベラお姉様がいるのよ!

 いや、偉い輝士なんだから、いても不思議じゃないけど。


『いきなり大声を出してどうしました?』


 ミサイアから通信が入る。


「いや、ちょっと知り合いに会っちゃって」

『信頼できる人ですか? なんなら協力を頼めます?』

「どうだろ。いちおう国のえらい人だから――」


 ぼんっ!


 ん?

 なに、今の音。


「うわっ!?」

『どうしました?』

「ミサイルランチャーが爆発した! 煙が出てる! あと高度も下がってる!」


 またトラブルかよ、ほんっとにこのポンコツ試作機は!


『バイクで迎えに行きます、適当なところに不時着してください』

「そ、そっちはもう大丈夫なの?」

『こっちの敵も撤退を始めまていますよ。なんていうか、最初から戦う気もあまりなかったみたいですね。ただ数だけ集められた烏合の衆って感じでした』

「わかった。待ってるから早く来てよ」


 通信を切る。

 とりあえず、あたしは地上へと降りていった。

 幸いにも途中で爆発することはなく、無事に軟着陸に成功したわ。


 慌てながらヴォレ=シャルディネのウイング部分を外していると、ベラお姉様があたしの所へやってきた。


「さて、ナータ」

「こ、こんちは。お久しぶりですわね」

「詳しく聞かせてもらうぞ。その機械マキナはなんだ? 新世界のイブとはどういうことだ?」


 なんかすっごい機嫌悪いね!?

 あたし、ピンチを助けてあげたのに!

 あっ、もしかして助けたのが逆に悪かった?


「えーとですね。それは、なんていうか……」


 ベラお姉さまはあたしにとって学校の剣闘部の先輩。

 その威圧感は相変わらずとんでもない。


 さっさと来てよね、ミサイア。

 じゃないとあたし全部しゃべっちゃうわよ。

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