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閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
第11章 魔王軍総攻撃 - great fierce battle -
693/800

693 ▽一番星VS獣将

「ハッハァッ!」


 突き出した拳から炎の輝粒子が吹き上がる。

 その一撃は眼前に迫るビシャスワルト人の軍勢を容易く薙ぎ倒した。

 肉体が消し飛び、宝石と化す多くの敵の群れに、ヴォルは愉悦の笑い越えを上げた。


「オラオラァ! かかってこいよエヴィル共ォ!」

「うっぎゃあーっ!」

「なんだこいつ、なんだこいつ!?」

「普通じゃねえ! こんな化け物と戦えるか!」


 敵は異界の兵士である。

 今までに倒してきたエヴィルとは違う。

 戦闘力は非常に高く、知恵も回るが……恐怖という感情を知っている。


 死ぬまで前進してくる(エヴィル)ではない。

 ヴォルの圧倒的なパワーに敵軍は完全に浮き足立っていた。


「逃げるな馬鹿者共ォ! 相手はたったの一体だ! 周囲を取り囲めェ!」


 勇敢な緑色の皮膚のビシャスワルト人が声を張り上げた。

 味方を鼓舞するだけではなく、自らこちらに向かってくる。


「いいねェ、それでこそエヴィルだ!」

「我々をエヴィル(邪悪)と呼ぶな、人類戦士!」


 緑色の戦士とヴォルが交差する。

 巨大なエネルギー同士の激突音が響き渡る。


 緑色の戦士は声もなく崩れ、皮膚と同色の宝石と化した。


「さあ、次はどいつよ!?」


 ビシャスワルトに侵攻した際、ヴォルは魔王に手も足も出ずに敗れた。

 その時のショックからこの一年間ずっと戦いから逃げ続けていた。


 しかし、今や彼女は完全に復活を果たした。

 全力で暴れ回ることは、なんと気持ち良いのだろう。 


 戦いの開始からすでに一〇〇体近いエヴィルを宝石に変えている。

 ヴォルは戦うために生まれた最強の輝攻戦士なのだ。

 今、その本領を存分に発揮している。


「ククク、ミタルージャムを一撃で葬るとはな……」


 ヴォルが動きを止める。

 明らかに他とは異質の威圧を感じたからだ。

 足を止め、そちらを振り向くと、白い怪物が立っていた。


 虎の頭を持つ白き獣人。

 先ほど遠くから見たエヴィルの将だ。


「アンタがこの軍団のボスね?」

「獣将バリトスだ」


 覚悟はしていたが、本当に出てきたか。

 一五〇〇〇のビシャスワルト人を率いる敵軍のトップ。

 コイツさえ倒せば、圧倒的劣勢のこの戦いも人類の勝利で終わる。


 もちろん、そう簡単に倒せるわけがない。

 こいつらの恐ろしさはかつて別の将と戦ったことのあるヴォルもよく知っている。


 ひとりではどうにもならず、五人がかりでようやく倒すことができた、邪将エビルロード。

 目の前に立つ虎頭野郎は、あの化け物と比べても遜色ない威圧感を持っている。


 だからって、しっぽを巻いて逃げ出すつもりはない。

 最初から全力で……倒すつもりでやってやる。


「うおおおおおおおっ!」


 ヴォルの身体が揺らいだ。

 炎の輝粒子がより濃さを増し、彼女の周囲に特定の形を作る。

 それはやがて、ヴォルと全く同じ姿をした、四体の分身として具現化された。


「ほう! すげえエネルギー量だな!」

「覚悟しろ、獣将バリトス!」


 一人で勝てないのなら、五人がかりで挑む。

 邪将との戦いではあえて使わなかったヴォルの必殺奥義。

 残念ながら魔王には全く通じなかったが、オマエが相手ならどうかな!?


「いくわよ!」


 四人の分身が次々と獣将に襲いかかる。

 ひとりが攻撃を当てたら、即座に次の分身が攻撃する。

 間髪を入れない波状攻撃によって、相手に反撃の隙すら与えない。


「ナメるな、人類戦士!」


 攻撃を受けながらも、獣将は丸太のような腕を振った。

 反撃に当たった分身の体があっさりとかき消される。


「ちっ、やっぱバケモノね!」


 分身とは言え、攻撃力と耐久力は本体に劣らない。

 四連続で叩き込んだ攻撃はほとんどダメージを与えていなかった。

 仮に反撃を食らったのがヴォル本体だったなら、今の一撃で倒されていただろう。


「偽者だから手答えが無ぇってわけでもねえよな!」

「分身の一体や二体どうってことないわよ!」


 油断は即座に死に繋がる。

 一瞬も気を抜けない、ギリギリのバトル。

 最強の輝攻戦士の名を取り戻すためにはこの上ない相手である。


「ここからが本番!」

「上等だぜ人類戦士ィ!」


 人類最強と怪物の戦闘は続く。




   ※


「連合輝士団も前線に出る! なんとしても敵の砲撃を阻止するんだ!」


 国衛軍兵士から外の状況を聞いたゾンネは直ちに全軍に出動命令を下した。

 しかし、シュタール帝国輝士の副官であるコーナーは難色を示す。


「とは申しましても、一体どのような配置にすべきか……」

「北部は一番星に任せていい! 国衛軍に連絡を入れて西方に戦力を集中させて、我々は隊を三つに分けて残りの方角に当たる!」


 連合輝士団の総力は両国の補充分を合わせても、実に九〇〇足らずである。

 一〇倍の数で挑んでようやく互角に戦えるというビシャスワルト人。

 それを相手に、均等に分けたら一〇分の一以下の数で戦わなければならない。


 ヴォルモーントがいくら強くとも、ひとりで六〇〇〇の敵を止められるわけがない。

 本来なら彼女の担当する方にも援護に人数を割くべきだ。

 それくらいゾンネにだってわかってる。


 しかし、彼らにそれだけの余裕はないのである。

 とにかくエヴィルを街に侵入させることだけは防がないといけない。


「ゾンネ氏はこちらにおられるか!」


 輝動二輪に乗った女輝士が土煙を上げてやってきた。

 突然の闖入者に対しコーナーは大声で誰何する。


「何者だ!?」

「ファーゼブル王国の天輝士ベレッツァだ! ゾンネ氏にお会いしたい!」

「ああ、貴女か」


 天輝士ベレッツァ、彼女とは先の獣将との戦いで共闘したことがある。

 連合輝士団には加入せずマール海洋王国へ向かったと聞いていたが……


「ルティアに戻っていたのだな。貴女がいれば心強いことだ」

「世間話は後にしよう。それよりも、すぐに兵を率いて出陣しないと」

「もちろんそのつもりだ。これより連合輝士団の兵を三隊に分けて敵砲台を破壊するため討って出る。そのうちひとつ貴女に指揮して欲しいと思っている」

「三隊? 四隊ではないのか?」


 ベレッツァが眉をひそめて問い返す。


「兵の数が十分ではないのだ。少数の戦力では守りながら敵陣に進攻することはできない。一隊あたり三〇〇名。敵の中枢に乗り込むことを考えればこれが最低人数だろう。北部はヴォルモーントを信じて任せ、残り三方向を速攻で強襲する」

「なるほど……」


 これがゾンネの考えたギリギリの作戦だ。

 籠城し続けることが不可能になった今、多くの犠牲は避けられないだろう。


「だが、それでは街壁の防衛が疎かになってしまう。まさかとは思うが、国衛軍だけで持ち堪えさせろと言うのか?」


 連合輝士団がすべて攻撃に回れば都市の守りは脆弱になる。

 万が一にも街壁を突破されたらそれでルティアは終わりである。

 市民たちの被害は甚大なものになるだろう。


 ゾンネもそれはよくわかっている。

 そして、彼は国衛軍の戦力を全く信頼していなかった。

 あいつらは数だけは多いが、その戦闘力は連合輝士団と比べれば遙かに脆い。


「……人数だけはいるのだ。捨て身で奮闘すれば、多少は持ち堪えてくれるだろう。無論、余裕があれば我々の兵も防衛に回そう」


 おそらく、この布陣ではすべての部隊に多くの犠牲が出ることになる。

 非情な作戦と言われても反論はできないが、このルティアは彼らの街なのだ。

 せめて都市内に入り込もうとしている敵くらいは死ぬ気で対処してもらうしかない。


「わかった。しかし、悪いが私は兵を預かれない」

「国衛軍に助力するのか?」


 市民の被害を少しでも減らすことを考えれば、それは悪い布陣とは言えない。

 ただし、それではファーゼブル王国側の戦力の低下を意味する。


「そうではない。私はこれから少数の部下を率いて西方の敵陣へと斬り込むつもりだ。そちらを我々だけに任せてもらえるなら、連合が攻撃に分ける部隊も半数ずつの二隊でいい。街壁防衛にも人員を裂けるだろう」

「ヴォルモーントの真似事をすると言うのか、貴女が」


 偉大なる天輝士(グランデカバリエレ)である彼女はファーゼブル王国最強の輝士である。

 しかし前回の戦闘の様子を見る限り、そこまで規格外の人物だとは思えない。

 こう言っては申し訳ないがヴォルモーントと比べれば実力は一段劣るだろう。


「あいつほどの活躍を期待されては困るが、敵陣に切り込みつつ、敵砲台と方面指揮している部隊長を撃破することくらいはできるだろう。ファーゼブル王国でも似たようなことをやっていたしな。ただ、十分な性能を持つ輝動二輪の数が少し足りないので、もし良ければ貸してもらえないかと思って来たのだ」

「輝動二輪を貸すのは構わないが、それはあまりにリスクが大きすぎると思う。貴女が死ねば大幅な戦力ダウンになるのだぞ。貴国の輝士団の士気も下がるだろう」

「どちらにせよ絶望的な状況に変わりは無いのだ。それに守っているだけでは状況は変わらん」

「勝算があるのだな?」

「まあな」


 今は言い争っている時間も惜しい。

 悠長に作戦を話し合っている余地はない。

 そして、このまま戦わなければ確実に全員が死ぬ。


「わかった。では、西側は貴女に任せよう。厩舎にある機体は好きなだけ持っていって良い」

「ありがとう、助かるよ。お互い無事に生き残れると良いな」


 ひとまずの方針は決まった。

 ベレッツァは機体を転換させ、厩舎方面へ向かっていく。

 ゾンネが部下を遣わして、国衛軍の元へ向かわせようとした……その時。


「た、大変ですよ! 連合輝士団の皆さん!」


 息を切らせ駆け込んできた市民の男が、思いも寄らぬ最悪のな知らせを告げた。


「もう街にはエヴィルが入り込んでるよ! 岩の巨人が空から降ってきたんだ!」

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