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閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
第11章 魔王軍総攻撃 - great fierce battle -
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677 輝力吸収の練習

「いくわよ……」

「お願いします」


 熱い視線で私を見つめるヴォルさん。

 彼女の指先が私に触れる。


「ん……どう? 感じる?」

「はい。すごく感じます」

「はぁっ、アタシも感じるわ……ルーちゃんの柔らかさ……」

「もう少し強くしてもいいですよ」

「ふふ。いやらしい子ね……なら望み通り、もっとしてあげるわ……」


 彼女は妖しく微笑みながら、より強く放出する。


「動かすわよ……」

「あっ、良い感じです。もうちょっとで入りそう」

「はぁっ! アタシもいいわ! このまま最後までいっていい!?」

「……あの、ヴォルさん」

「なあに?」


 小首をかしげるヴォルさんに私は言ってやった。


「ただ腕に触って輝力を放出してもらってるだけなんだから、変な声出すの止めてもらっていいですか? 頼んでおいて悪いけど、もう少し静かにしてください」

「ルーちゃんがつれない!」


 いや、だって本当に気持ち悪いし……

 なんか襲われそうで怖いんだよ。


「それくらい我慢してやれよ。赤毛の人並外れた濃度の輝力は肌で吸収の感覚を覚えるのにこれ以上なく適してるんだからさ。なんなら一回くらいやらせてやれ」

「そうよ、そうよ」


 頭の上のスーちゃんが他人事だからってとんでもないことを言う。

 ヴォルさんも調子に乗り始めたので、私は捲っていた袖を降ろした。


「やっぱりお姉ちゃんに頼む。さよならヴォルさん、いままでありがとうございました」

「冗談よ! 冗談! 見捨てないで! そんな冷たい目で見ないで!」


 はぁ、まったく……


 現在、私たちはセアンス共和国領内の小さな町にいる。

 宿屋の一室で、ちょっとした訓練をしていた所だ。


 それは何かというと、『肌で輝力を吸い取る技』の練習だ。


 私はいい加減に輝力不足をどうにかしないとヤバい。

 以前に夜将と戦った時も最後の最後でとどめを刺せなかった。

 先生の力を模した黒将はナコさんの助けがなかったらやられていた。


 これからたぶん、戦いはもっと激しくなる。

 その時に私が戦えないとシャレにならない。


 輝鋼石や古代神器なんて便利なモノがいつでも手に入るわけじゃない。

 なら、どこから輝力を手に入れれば良いの?

 がんばって考えてみた。


 そして、ひとつの結論に至る。


 答えは、そこら中。

 実は世界のどこにでも、空気中には輝力が溢れている。

 普通の輝術師は輝言を唱えることで周囲の輝力に干渉して輝術を使っているらしい。


 ともかく、今も私の周りにはたくさんの輝力が存在しているのは間違いない。

 普通に生活してたら意識できない程度に、薄く広く、けど全体で見たら大量に。


 それを身体に取り込めたら?

 人間から奪うのと違って、口づけで吸い取るのは無理。

 だったら肌から吸収しちゃえば……って思いつきで始めたのが、この訓練。


 ヴォルさんのわかりやすく濃い輝力を使って試してみた結果、肌から吸収するのは決して無理じゃないことが判明した。


 今のところはまだ慣れていないから、かなりの少量しか吸収できない。

 けど頑張れば、そのうちもっと効率よくできそうな気がする。


「そういえばさスーちゃん、もう一つ聞きたいことがあるんだけど」

「なんだ?」

「黒将は無限の輝力を持っているとか言ってたじゃない? あれってどういうことなの?」


 グレイロード先生の術が使える上、それを無限の輝力で無制限に使える黒将。

 私も大概だけど、あんなのいくらなんでもインチキすぎるよ。


「ぶっちゃけわからん。将はビシャスワルト各地で魔王に選ばれた強者がなるものだけど、黒将はどこの部族出身なのかすらわからない。そもそも向こうの世界にもあんなタイプの生物は他にいないぞ。あえて言うなら粘性種が近いが、高度な知性を持てるような種族じゃないんだよな」


 それじゃ輝力を得る参考にはならなさそうだね。

 死んだ人を取り込んで力を奪ったり、とにかく不気味なやつだった。


 がちゃり。

 部屋のドアが開いた。


「ただいま」


 買い出しに行っていたベラお姉ちゃんが帰ってきた。

 両手でパンの入ったかごを抱えている。


「おかえりなさい、お姉ちゃん」

「ああ。私が留守の間にヴォルモーントに変なことされなかったか?」

「危なかったけどギリギリのところで逃れられたよ」

「そうか」


 ちゃきっ。


「待って何もしてないから! ルーちゃんも誤解を招くこと言わないで! あとアンタも輝士ならむやみに剣を抜くな!」

「本当に冗談なのか?」

「はい、ごめんなさい」


 まあ、さっきの仕返しってことで。

 ところでお姉ちゃんとヴォルさんって仲良いよね。


「ってかナコはどうしたのよ。アンタ監視を兼ねて連れて行ったんでしょ」


 気を取り直したヴォルさんがお姉ちゃんに尋ねた。

 お姉ちゃんは剣を鞘に収めてパンのかごをテーブルに置く。

 そういえば一緒に買い物に言ったはずのナコさんが一緒じゃないね。


「あいつならまた人助けをしてるよ。お婆さんの荷物持ちまでは付き合ったが、迷子の子供の親を探し始めたところで時間が掛かりそうだったから、あとは任せて先に帰ることにした」

「いやいやいや、ちゃんと最後まで見なきゃダメでしょ。また病気を発症して暴れたらどうすんの」

「だからって人助けを止めさせるのも違うだろう? 私見だが、彼女はもう人を殺めることはないように思う。普段の行動からは邪悪さの欠片も感じないよ」


 元々の性格なのか、罪滅ぼしのつもりなのかはわからないけど、ナコさんは行く先々の町で困った人を見かけると絶対に放っておかなかった。


 それはすごく良いことなんだけど、おかげで移動のペースはかなりゆっくりになってる。

 敵の襲撃はどこにいてもあり得るし、私も輝力吸収の技を練習しながらだから、別にそれでも良いんだけどね。


「武器は預かっているんだ。放っておいても危険はないだろう」

「そうだけどさ」


 過去の事件が事件だけにナコさんを危険に思うヴォルさんの気持ちもわかる。

 私だって彼女がふいに隣に立つと未だに身構えちゃうし。


 ただ、ナコさんが味方にいるのは本当に心強い。

 黒将がまた襲ってきたとしても、彼女がいれば必ず撃退してくれる。

 ハッキリ言って、一対一の接近戦でナコさんに勝てる相手なんて、まず存在しないから。


 相性の問題もあるけど、特に輝術師やエヴィルに対して、斬輝を使える彼女はほとんど無敵だ。

 もちろん、集団相手の戦いならヴォルさんの方が得意だし、たくさんの輝術を使えるベラお姉ちゃんの方が活躍できる場面もある。


 どっちがすごいとかじゃなくて、みんなすごく頼りになる仲間なんだよ。


「さて。改めて確認するが、これから私たちはルティアに向かうということで良いんだな?」


 お姉ちゃんがベッドに腰掛けながら私たち二人に尋ねた。

 私は特に意見もないので、ヴォルさんの方を見る。


「それでいいんじゃない。なんか問題あるの?」

「いや……あまり乗り気はしなくてな」


 ルティアはセアンス共和国の首都。

 現在のミドワルトとビシャスワルトの戦いの最前線だ。


 セアンス共和国はすでに国土の何割かを支配されているけれど、今もギリギリのバランスで魔王軍の侵攻を食い留めていた。


 神出鬼没の黒将やどこに行ったかわからない夜将と違って、そこには確実に獣将がいる。

 エヴィルと戦うと決めた私たちが一番力になれそうな場所だ。


 だから、とりあえずそこに向かおうって決めたんだけど……

 お姉ちゃんはやたらルティアに行くのに反対する。


「まさかと思うけど、怖じ気づいたとか言わないでしょうね?」

「そうではない。いや、実を言うと私は少し前まで連合輝士団にいたんだが、今は半分脱走したような立場なのでな」


 あ、そっか。

 お姉ちゃん、私と一緒に行動するために勝手に命令を無視したんだっけ。

 王弟殿下さまから天輝士を続ける許可は頂いたとはいえ、やっぱり元の場所に戻るのは気まずいのかも知れない。

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