表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
第11章 魔王軍総攻撃 - great fierce battle -
674/800

674 ▽夜将VS魔王の娘の大親友

 夜将リリティシアは不満だった。

 地を這う一〇〇の獣と、空を往く一〇〇の青奴。

 そして三〇〇と少しのビシャスワルト人(兵隊)を従え彼女は飛んでいる。


 彼女たちが目指すのは最前線よりもさらに東にあるヒトの都。

 魔王様の命令とは言え、なぜこんな所を攻めなくてはならないのか。


 どうせなら全軍で前線を押し上げれば良いじゃないか。

 こんな敵陣の後方を叩くような狡っ辛い真似は自分に似合わない。


 ヒトの国を襲撃するよりも、お嬢様ともう一度戦って今度こそぶちのめしたい。


「クソ、ヒカリの野郎……!」


 思い出すと気分がささくれ立つ。

 あれは生まれて初めての無様な敗北だった。


 夜将が絶対に勝てないと思う相手は他にもいる。

 魔王様と竜将ドンリィェンの二人である。


 今でこそ自分は将の序列三位に甘んじているが、二位である獣将バリトスが相手なら、本気でやり合えば負けるつもりはない。


 ただ、益がないから戦いを挑むつもりはない。

 友人ではないが一応は味方と呼べる相手でもある。


 だがヒカリは違う。

 あいつは敵として現れた。


 そして……


「ああムカつくなあ、もう!」


 リリティシアが大声を出すと、側を飛んでいた青奴が怯えて後方に下がって行った。


 こちらの世界に来るなり、彼女は軍勢を率いてヒトの有力国家を瞬く間に支配下に置いた。

 いつまでもモタモタして首都を攻めきれない獣将と自分では戦の技術が違う。


 国家侵略の功績をもって将の序列二位に上がるのも時間の問題……そのはずだった。


 そのタイミングで現れた、あの女。

 栄光をプライドもろとも打ち砕いてくれたメスガキ。

 戯れに助けてやった黒衣の妖将に命を救われた事も気にくわない。


 次に会ったら必ず殺してやる。

 魔王様の娘だろうが、そんなのは知ったことか。

 やつが我らの敵であることはもう皆も承知しているはずだ。


「つっ……」


 ただ、実を言うとヒカリにやられた傷は、まだ完全に癒えていない。

 体内に残っている()()も全快時の三分の一程度だ。


 気持ちばかり逸って返り討ちにあってもつまらない。

 魔王様もそれを見越して、こんな()()()()()を与えてくれたのだろう。


「ちっと頭を冷やすか……」


 これは気分転換。

 彼女が最も得意な国攻めだ。

 せめて完膚なきまでに滅ぼしてやろう。


 そんな風に考えた直後のことだった。


「……ん?」


 前方から何かが飛んでくる。

 強大な力の反応だ。


「おい、待機だ」


 人類戦士か……

 そう考えて夜将は足を止めた。

 命令を下した彼女の意を汲んで全軍が停止する。


 ちょうど良い。

 まずはヒトの先兵を血祭りに上げる。

 これから始まる都市侵攻への景気づけにしてやろう。


 夜将は愚かな獲物が飛び込んで来るのを待った。

 ところが。


「っ!?」


 何かが光ったのが見えた。

 直後、凄まじい速度で高密度のエネルギーが飛んできた。

 避ける暇はなく、両腕に当たったそれは、夜将に強烈な衝撃を与えた。


「痛ぇ……なんだ、一体……?」


 身体を貫くほどではない。

 だが、明らかに尋常の攻撃ではない。

 この夜将にこれほどの痛みと衝撃を与えるとは。


 ヒカリの使う超高熱の白い蝶を思い出す。

 あるいはそれ以上の威力だったのは間違いない。


「あれ、当たったのに倒せなかったんだけど?」


 そいつが近づいてくる。


 金髪の女。

 一見したところ、ただのヒトだ。

 背中に無機質な六枚の翼を背負っている点を除けば。


 そいつは持ち手のある黒っぽい板を両手に持っていた。

 板には穴が開いており、そこからさっきの光を放ったようだ。


「一応聞いてあげる。貴女は何者かしら?」

「そうね、こいつが将とかいうやつで間違いないみたい。明らかに他のと反応が違うわ」


 金髪の女は質問に耳を貸さず、耳を押さえて独り言を呟いていた。

 無視されたと感じた夜将は顔に獰猛な笑みを浮かべた。


 そう、会話する気がないのね。

 ならすぐ殺してあげるわ。


「シャァッ!」


 後悔する暇も与えない。

 一瞬で懐に飛び込み、無防備な首を刈る。

 それでこの正体不明の女は終わり……になるはずだった。


「避けた!?」


 確実に捉えたと思ったのに、夜将の手は敵に触れることができなかった。

 気配を感じて右を向くと数十メートル離れた所に女は移動していた。


「あ、うん。攻撃された。けど大丈夫、()()()()し、簡単に避けられたわ」

「なんだと……!?」


 遅い、だと?

 魔王軍最速たる、この私が?

 夜将リリティシア様を『遅い』と言ったのか!?


「コラ。そこのお前、あんま舐めたこと言ってると……」

「そうね、わかったわ。それじゃ『マルチスタイルガンΖ・サブマシンガンモード』!」


 意味不明な言葉を叫んだ女が、両手に持った板をこちらに向ける。


「くらいなさい!」


 板から無数の光の弾丸が飛び出して夜将を襲った。

 見てから避けられるような速度じゃない。

 魔力を集中して攻撃を防ぐ。


「ぐ……っ!」 


 威力はさっきの攻撃と比べると若干弱い。

 とは言え、ガードなしで耐えられるほど弱くもない。


「ちょっと! 効いてないみたいなんだけど!?」


 女の焦る声。

 これだけの威力の攻撃だ。

 すぐにエネルギー切れになるだろう。

 攻撃が止んだ瞬間に今度こそ首を狩ってやる。


「……そうね。じゃあ、くたばるまで撃ち込んでやるわ!」


 十秒、二十秒。

 一分、二分、三分と経っても攻撃は止まない。


 なんだこいつ。

 まさか、永久に撃ち続けられるのか?

 こちらはガードを続けるだけで魔力を消耗していくのに。


 このままでは、マズい。


「テメェラなにボサっとしてやがんだァ! さっさとコイツをブッ殺すのを手伝いやがれェ!」


 夜将は引き連れてきた兵達に命令を下した。


 夜将が攻撃を食らっているのに部下達が動かなかった理由は二つある。


 ひとつは将の戦闘に割り込むのは獲物の横取りであり御法度だから。

 魔王軍で上役の不興を買えば出身部族そのものが罰せられる。


 もうひとつの理由は、こいつの撃ち続けている光の弾丸。

 夜将だからこそ耐えられているが、兵たちが当たれば一発で致命傷だ。


 しかし将の命令に逆らえる兵はいない。

 魔王軍に兵士として属するということはビシャスワルト人にとって大変な名誉である。

 それと同時に、その命と部族の運命を引き換えに差し出すことでもあるのだ。


「全軍突撃! 夜将閣下を援護せよ!」

「うおおおおーっ!」


 中隊長の号令に従って、飛行能力のある兵が青奴を伴い金髪女に向かっていく。

 地上に控える兵たちも魔法による砲撃の準備を整え始めていた。

 役立たずの地を這う獣は待機状態で空を見上げる。


 もちろん、夜将もこいつらが金髪女を討ち取れるとは思っていない。

 褒めるのは癪だが、あいつのスピードは目を見張るものがある。

 だから精々が肉の壁として盾になってくれれば御の字――


「マイクロミサイル、フルオープン!」


 金髪女が光の弾丸をばらまきながら叫んだ。

 やつの背中にあるひときわ大きく、分厚い翼が()()

 その中から出てきたのは、煙の尾を引いて飛ぶ、無数の飛行体。


「なんだ――」


 それが兵達に触れると、すさまじい爆発が巻き起こる。


「――ぎゃぁ――」

「――誰か助け――」


 視界が煙に覆われて何も見えなくなる。 

 轟音の中、かすかに兵たちの叫び声が聞こえてくる。


「クソがっ! あの女、いい加減に――ごっ!?」


 後頭部に強烈な衝撃を食らった。

 いつの間にか光の弾丸が止んでいると思った直後であった。

 これまでよりも強烈な攻撃が、まるで警戒していなかった方向から飛んできた。


 しかも一発だけじゃない。

 角度を変え、別の方向からも強力な光の筋が襲いかかる。


 金髪女が自分の周囲を飛び回りながら、あらゆる角度から撃ってきているのだ。


「ふざけんじゃねえぞォ! このクソガキがァ!」


 敵は煙に紛れ、高速で移動しつつ繰り返し射撃を続けている。

 リリティシアは避けることもできず、ひたすら攻撃を食らい続けるしかなかった。


 やがて兵達の声が聞こえなくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ