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閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
第10章 最後の休息/第三の世界 - looking for my friend -
642/800

642 血まみれさんは元気になられたようです

「倉庫に寄ってくるから、中庭で待っていてくれ」


 ってお姉ちゃんに言われたので、私はひとりで中庭に向かった。

 ベンチに座って目を瞑り、しばし効率的な輝術運用のイメージトレーニングに浸る。


「お待たせ」


 小一時間ほどでお姉ちゃんがやってきた。

 ぐるぐる巻きで縛られた巨大な敷物を抱えている。

 紐を解いて地面に敷くと、見覚えがある模様が飛び込んできた。


「あ、空飛ぶ絨毯!」

「新代エインシャント神国製の逸品だ。以前に誰かが忘れていったらしい」


 はい、その犯人は私です。

 以前に私たちはこれに乗ってファーゼブル王国までやって来た。

 帰りはお姉ちゃんたちと一緒の船に乗っていったので、そのまま置きっ放しだったのです。


 ふたりで絨毯の上に座る。

 お姉ちゃんが中央に魔剣を置いた。

 輝力を得た絨毯がふわりと浮かび上がる。


 そういえばこの絨毯、すごく輝力効率がいいんだよね。

 以前の私でも新代エインシャント神国からここまで飛んで来られたし。

 古代神器とかじゃないみたいだけど、一体どういう仕組みになってるんだろう?


「これからどこに向かうの?」

「シュタール帝国の帝都アイゼンだ……む、思ったより難しいな」


 魔剣の輝力を借りつつも、実際に絨毯を操縦するのはベラお姉ちゃんだ。

 宙に浮かび上がる動きはゆっくりでたどたどしかった。

 わかるわかる、これ最初は怖いよね。


「よかったら代わろうか?」

「いや、ルーチェは輝力を温存すべきだ。ここは私に任せてくれ」


 まあ、お姉ちゃんならすぐ慣れると思うよ。

 基本的になんでもそつなくこなしちゃうからね。


 人の頭くらいの高さをふよふよ浮かびながら進んでいると、近くを通りかかった金髪の青年が話しかけてきた。


「こんにちは、ベレッツァ殿」

「アンドロ殿か」


 さっき私に宝石をくれた王宮輝術師アンドロさんだ。


「先日補填してもらった空間転移テレポートは役に立った。礼を言うぞ」

「気にするな。それより、お主の耳に入れておきたいことがある」

「なんだ?」


 ベラお姉ちゃんは絨毯を空中で停止させたまま彼の話を聞いた。


「グラース地方に魔王軍による攻勢の兆候が見られるらしい。どうやらセアンス共和国での激しい抵抗を受けて敵も方針を変更したそうだ」

「なんだと!?」


 グラース地方はセアンス共和国の東側にある小国が乱立する地域だ。

 私も以前の旅の途中で通ったことがある。


「グラース地方の国々は軍事力が極めて低い。魔王軍によって本格的に攻め込まれたら、あっという間に壊滅する危険もあろう。するとセアンス共和国を飛び越えて一気にシュタール帝国まで戦線が広がる恐れもある。貴公にも都合はあると思うが、できれば気にかけておいてくれ」

「わかった。機会があれば様子を見に行って来よう」

「頼んだぞ。私はこの国を離れられないからね」




   ※


 アンドロさんと別れ、私たちは王宮を出た。


 絨毯が空高く上昇する。

 王宮近くにある三階建ての建物よりも高く。

 街壁よりも高い位置まで上がると、ゆっくり外に向かって前進する。


「よし、だいぶコツが掴めてきたぞ」


 だんだんとスピードを上げていく。

 さすがベラお姉ちゃん、もう操縦に慣れてきたみたい。

 あっという間に王都エテルノを出て、辺り一面に広がる草原の上を飛ぶ。


「シュタール帝国に行くって言ったよね?」

「ああ」


 隣接する大国とはいえ、徒歩なら数週間、輝動二輪を飛ばしても数日はかかる距離だ。

 だけどこのペースで跳び続ければ、たぶん夕方くらいには到着できるはず。


「そこにいるのって、もしかして……」


 私の想像通りならたぶんあの人だ。

 彼女が仲間になってくれるなら、ものすごく心強い。

 でも彼女の事だから、てっきり最前線で戦ってるものと思ってたけど。


「たぶん想像通りの人物だと思うが、あまり期待はしない方がいいかもな」

「?」

「会えばわかるよ」


 意味深な言葉を発して黙ってしまうベラお姉ちゃん。

 よくわからないけど、私はそれ以上の追求をしないことにした。




   ※


 眼下に広がるのは雄大な森。

 その向こうにうっすらと見える、巨大な高層棟トゥルム


 シュタール帝国の帝都アイゼンはもうすぐそこだ。

 思った通り、夕暮れ前にはたどり着けた。

 やっぱり空飛ぶ絨毯って速い。


「このまま街壁を越えて中に入るの?」

「さすがに他国の首都にそれはマズい」


 ということで、街門の手前で降りたよ。


「何者だ」


 重厚な鎧を着て槍をどっしり構える厳つい顔の門番さんが立ちふさがる。

 彼は私たちが門に近づくのを見ると鋭い眼光を浴びせてきた。


 誰であろうとここは通さないぞ、って気迫に溢れている。

 特に今はエヴィルの攻勢が激しい時期だし、これは通るのに苦労しそう。


「ファーゼブル王国、偉大なる天輝士(グランデカバリエレ)のベレッツァだ」

「これは失礼いたしました。ようこそアイゼンへ、どうぞお通りください」


 と思ったら、あっさり通してもらえたよ。


「お姉ちゃんすごい!」

「ファーゼブル王国とシュタール帝国は軍事連合を組んでいる。身分さえ証明できれば中に入らせてもらえないことはないさ」


 久しぶりの帝都アイゼン。

 以前に旅の途中で寄った時以来だ。

 あれからもう、一年以上が経つんだなあ……


 街門を潜り、正面の大通りをまっすぐ歩く。

 さすがに帝都だけあって商店街は活気に溢れていた。

 シュタール帝国はまだ本格的なエヴィルの攻撃を受けていない。


 てっきりお城に向かうのかと思ってたら、お姉ちゃんは途中で道を曲がった。

 そのまま住宅街の方へ向かって、やがて一件の家の前にたどり着く。


 庭付きの、かなり大きなお屋敷だ。

 呼び鈴を鳴らすと「はーい」と声がして、中から女の人が出てきた。


「あら、貴女は……」

「ご無沙汰しております」


 そこそこ歳のいった中年女性。

 ただし、髪の色は燃えるような赤。

 多分だけど、以前に会ったことがある。


「えっと、もしかして……」

「あら、あらあらあら?」


 彼女は私を見ると、なぜか目を輝かせて近づいてきた。

 そのまま私の頬に手を当てると、顔を近づけて……


「ちゅー」

「んんっ!?」


 キスされた!


「な、なにをなされるのですか、ノイモーント様!?」


 固まる私。

 抗議するベラお姉ちゃん。


 赤い髪の女性……

 彼女の名前はノイモーントさん。

 元星帝十三輝士(シュテルンリッター)一番星にして、『血まみれ』の異名を持つ五英雄のひとり。


 以前に会ったときは寝たきりだったけど、どうやら元気になったみたい。

 よかったよかった……って。


「なんで私いきなりキスされたの!?」

「いやね、プリマヴェーラにそっくりだったもので、つい」

「ついじゃないよ! 理由になってないよ!」


 伝説の五英雄さんなのに、いい歳して中身は現役の一番星さんと一緒か!


「おのれ、私のルーチェに……!」

「ごめんごめん。謝るから怒らないでよ」


 いや、別に私は怒ってないけどさ。

 初対面の人にいきなりキスするのはやめた方がいいと思うよ。


 ……あれ、そういえば、前にスーちゃんが、


「お姉ちゃんさ、私が寝てる最中にこっそりキスしたってほんと?」

「ななななな、なぜそれを!? じゃなくて、そんな事実は一切ありません」


 だよね、お姉ちゃんがそんなことするわけないし。

 スーちゃんの嘘か、そうじゃなきゃ単なる勘違いだよ。


「なんだ。あなたも人のこと言えないじゃないの」

「あなたと一緒にしないでもらいたい。私がこの身を捧げるのはルーチェひとりだけだ」

「仲間になってくれる人って、ノイモーントさんのことだったの?」


 彼女は先生と同じ五英雄のひとり。

 力を貸してくれるならこんなに心強い人はいない。

 けど、


「悪いけど、私にはもうエヴィルと戦うような力は残ってないよ。呪法の後遺症からは立ち直ったけど、今は普通に生活するだけで精一杯さ」


 やっぱダメみたい。

 そりゃそうか、少し前まで寝たきりだった人だしね。

 あの時の弱りきった姿を思えば元気に生活している時点で奇跡みたいなものだ。


 とすると、やっぱり会おうとしているのは……


「うちの娘なら家の中にいるよ。無駄足かもしれないけど、せっかく来てくれたんだから、ぜひ会ってやってくれ」

「そのつもりです」


 英雄の娘で、現役の星帝十三輝士シュテルンリッター一番星。

 私たちと一緒にビシャスワルトに乗り込んで、無事に帰還できた仲間のひとり。


 ヴォルモーントさんが、この家の中にいるらしい。

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