64 森の中の狙撃者
敵の姿を目に捉えると同時にダイが駆けた。
哨戒中の団員たちは頭部を殴打されなすすべなく地面に倒れる。
正面から襲い掛かってきた小柄な襲撃者の姿を確認できたかもわからない。
「こ、ころしちゃったの?」
「気絶させただけだ、いちいち騒ぐな。気を抜いたら死ぬのは自分だぞ」
「う、うん」
あまりありがたいアドバイスじゃないけど、それくらいの気持ちは必要だってこと。
さっきだってダイが助けてくれなかったらヤバかったんだし。
もちろん自分も含めて誰も死なないように気をつけたい。
ちなみに今現在、ダイは輝攻戦士になっていない。
なんでもあの状態でいるだけで相当疲れるみたい。
生身じゃ対処できない敵、エヴィルと出会った時のとっておきだって。
とは言っても生身の状態でもダイは十分に強い。
年齢的には高等学校一年生相当のはずなのに荒くれものたちをまるで子ども扱い。
「恐くなったらいつでも逃げていいんだぜ」
「だ、誰が。私だって」
「ちっ、横に飛べ!」
言い返そうとした瞬間、ダイは叫びながら茂みに飛び込んだ。
「あひゃっ?」
とっさに対処できずにあたふたする私の足元に風切り音とともに飛来した矢が突き刺さった。
「バカ、早く隠れろ!」
思わず間抜けな叫び声を上げる私。
ダイにひっぱられ茂みに連れ込まれた。
勢い余って地面に転がり土まみれになってしまう。
「ら、乱暴だあ」
「うるせえ死にたいのか」
同じ乱暴なら最初の時点で一緒に引っ張ってくれれば良かったのに!
狙いが外れてたからよかったけど下手したら死んでたぞ!
っと、文句は後にしよう。
どうやら遠距離からの狙撃だ。
ダイは矢の飛んできた方角を睨んでいる。
「上手く隠れてやがる。かなりの達人だぞ」
矢の飛んできた方向に敵の姿は見えない。
道もなくただ一面の茂みが広がるばかり。
敵の姿を見つけるのは難しそうだ。
かといってヘタに動けばたちまち狙い撃ちされてしまう。
――ならば探れ。
「じっとしてても仕方ねえ。こうなったらイチかバチか」
「まって」
早くもしびれを切らして行動を起こそうとするダイを引き止める。
私は敵が潜んでいると思われる辺りに目を向けた。
なにかが見える。
目に映るとかじゃなくって視界に入るとかでもなくて。
何かがそこにあるという『感じ』がする。
それは直感みたいなもので私の中の何かが教えてくれてる。
「なんだってんだ」
不機嫌そうなダイを無視して私は目に意識を集中した。
自分の意思で輝術を使えるようになってから……
つまりたったさっきから私はより強く光の欠片を意識できるようになった。
血が、光が、輝力が、私を守ってくれている。
何でもできるような気持ちになる。
輝術を使う時の様に光の欠片を目に集める。
――そうだ、上手いじゃないか。
視界がクリアになり細かい動きさえも見えるような気になる。
瞬間、鋭い殺気が『見えた』
矢が撃たれた、と認識する。
私はダイの頭を軽く押してすぐにその手を引っ込めた。
「なん――」
抗議の声は二人の間を通り過ぎた一筋の軌跡によって遮られた。
こん、と軽い音。
背後の木に矢が突き刺さる。
ダイはもちろん私も声を失った。
間一髪で助かった実感がわいて頬を冷たい汗が伝う。
なんとなくじゃない、はっきりと敵の攻撃が見えた。
「お、オマエっ」
さすがのダイも動揺している。
もし私の反応が遅れていたら彼は輝攻戦士になる暇もなく頭を貫かれていたんだから。
できる。
今まで見えなかったものが見える。
再び光の欠片を目に集め、敵が潜む方向を見やる。
大きな木の上、葉に隠れ片手射撃用のボウガンに矢を番えている敵の姿。
もう一つの『目』にはっきりと映った。
「ダイ、あれ」
私は視線をあさっての方向に向けたまま敵の死角になるようダイの背中越しにそちらを指差した。
ダイは辺りを見回すフリをして一瞬そちらに目を向ける。
その位置に敵がいることは伝わった。
「まずいな。あれじゃ出ていった瞬間に狙い撃ちにされちまう」
「大丈夫。私に任せて」
苦い顔をするダイを制して私は木の上の敵を見た。
――さあ、次はこちらの番だ。
確信があるわけじゃない。
けど、できると思った。
敵が持っているのはボウガン。
木製だけどがっしりした造りをしている。
はっきりと視線を向けたことで狙撃者は位置がバレたと気付く。
照準をつけられているというのに私の心は不思議と平穏を保っていた。
恐怖に縮こまって動けなくなってもおかしくないのに、そうはならない。
狙撃者に向け手をかざす。
狙撃者が持つボウガンを『目』でしっかりと見る。
火のイメージを思い浮かべ、光の欠片を明確な形に代え、解き放つ!
「火っ!」
拳大の火の玉が木の上の敵に吸い込まれるように飛んでゆく。
火球は少しの狂いもなく狙撃者の持つボウガンに命中した。
「ぐああっ!」
炎に包まれた武器を取り落とす。
同時に体勢を崩した狙撃者自身も木から落ちる。
落下した敵にすばやく接近したダイが容赦なくトドメの一撃を加えた。
や、やっちゃった。
もしかしたらと思ったけど、本当にできた。
先行して『目』で目標に意識を集中して、その感覚を追いかけ術を放つ。
とっさの思い付きだったけど火球は狙い通りに飛んで行った。
ボールも満足に投げられない私がこんな方法で狙いどおりのにできるなんて……
私って……天才?
うん、私は伝説の天然輝術師なんだもん。
もっと自信を持っていいよね。
「やるじゃんか。よし、正面突破で一気に片付けるぞ。ついて来い」
「うん」
ダイの無茶な物言いにも私は力強くうなずくことができた。




