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閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
第10章 最後の休息/第三の世界 - looking for my friend -
634/800

634 ◆ヒーローは警察に追われて

「て、テメエ、軍の人間か!?」

「なんでこんな所に来るんだよ! 関係ないだろ!?」


 女の人が逃げていくのを見送っていたあたしに、男たちはよくわからない文句をつけてきた。


「あ?」

「うっ……」


 もう一度睨み付けてやると、彼らは言葉を詰まらせた。

 一番背の高い男が心持ち怒気を潜めた声で反論する。


「ぐ、軍人が民間人相手に暴力を振るうとか、許されると思ってんのかよ!」


 は?

 何言ってんだコイツ。


「女を集団で襲うのは許されるってーの?」

「それとこれとは話が違うだろうが! その背中の武器でオレらを撃ったら、大問題だからな! 軍籍剥奪程度じゃ済まされないぞ!」

「そうだそうだ! 懲戒免職になってもいいのか!」

「軍人なら市民のために働け! この税金ドロボー!」

「あのさあ……」


 何を勘違いしてるんだか知らないけど、あたしは別に衛兵でも輝士でもないし。

 あんたらみたいな馬鹿男たちがムカつくから割って入っただけよ。


 ま、さすがに借り物の武器をケンカに使うわけにはいかないわ。

 まだこの羽の武器としての使い方もよくわかってないし。

 あたしは自前の筒を取り出して光の棒を伸ばした。


「ひっ!? しゃ、シャインブレード!」

「こいつ正気か!? そんなもんで民間人を殴ったらマジで――」

「うるさい」


 あたしは一足飛びで間合いを詰め、一番手前にいた男の頭を思いきりぶっ叩いた。


「うぎょっ」


 防御するそぶりすらなし。

 男はマヌケな声をあげて仰向けに倒れた。

 こいつら、見た目に反して全くケンカ慣れしてないわね。


「ひいーっ!」


 倒れた仲間を放って逃げ出す残りの二人。

 隔絶街の人間よりもクズね。


「逃がすか!」

「げひゃっ」


 あたしは走って追いかけ、片方の頭を後ろからフルスイング。

 殴られた男は地面をワンバウンドしてゴミ溜めに頭から突っ込んだ。


「ひ、人殺しーっ! 誰か助けてーっ!」


 殺してないっての。

 たぶん。


 まあ、人を呼ばれても困るから……


「とりあえず死ね!」

「ごっ!?」


 逃げる最後のひとりに跳び蹴りを食らわした。

 攻撃は背中にモロにヒットし、相手は不様に顔から地面に倒れ込んだ。


「しゃっ!」


 あっはっは。

 悪人をやっつけるのはやっぱきもちいーわ。

 こっちの世界に来てからよくわかんない事ばっかでストレス溜まってたし。


「ひっ、ひいっ……」


 倒れた男は這いつくばりながら逃げようとする。

 あたしはそいつの行く手に先回りして、目の前の地面に光の棒を突き刺した。


「ひーっ!?」

「なああんた。これに懲りたら、二度と集団で女を襲うようなマネはすんなよ?」


 気分も良くなったので、警告だけで見逃してやろうと思った。

 ところが男は一転して怒りの形相であたしを睨み上げてくる。


「ふっ、ふざけんなーっ!」

「あん?」

「こんなことしてタダで済むと思ってんのか!? 絶っ対に訴えてやるからな! 市民に怪我をさせた暴力軍人! テレビ局にもチクってやる! 生き地獄を味わわせてやるから覚悟しろよクソ女!」


 あー……

 なんなのこいつ?

 ちょっと意味不明過ぎるんだけど。


 自分たちのした事を棚に上げて、よくもまあ都合の良い言葉を並べられるものね。

 生まれたときからずーっと甘やかされ続けて来たのかしら。

 ま、馬鹿と問答するのもイライラするだけだし。


「そ。んじゃ、余計な事を喋られないように、しっかり口封じしておかなきゃね」


 あたしは光の棒を男の喉元に当てた。

 そして、可能な限り声を低くして脅す。


「ひっ!? や、やめ……」

「運が良きゃ喉が潰れるだけで済むわよ。それじゃ、人生最後の言葉を聞いてあげるわ」

「きょっわーっ!?」


 意味不明な叫び声を上げて、男は気を失った。


 あ、あたしはまだ何もやってないわよ。

 勝手にビビって失神しただけ。

 うわ、漏らしてるし。




   ※


 バカ共は退治したし、さっさとこの場を離れよう。

 そう思った直後、どこからか拍手の音が聞こえてきた。


「いやあ、見事なヒーローっぷりだったね」


 その音と声は上空から聞こえてきた。

 見上げると、五階建ての灰色の建物の上に、人が座っている。


 なんていうか、凄い格好の女だった。

 着ているのは一見すると学園の制服みたいなコスチューム。

 服の色は濃さが三段階の翠色で、あちこちにヒラヒラのフリルがくっついてる。


 髪も目がチカチカするような鮮やかな翠色。

 ヘアスタイルはあたしと同じでツーサイドアップだ。

 ただし髪量は異常に多く、左右に縛った髪をまとめたら、それで自分の体が隠せそう。


 はっきり言って、めちゃくちゃ怪しい。


「あんた何者よ」

「通りすがりのヒーロー。アンタと同じでね」

「一緒にしないで欲しいわ」

「よっ」


 不審の目で見上げるあたし。

 するとそいつはいきなり建物の上から飛び降りた。


「ちょっ……」


 まさか、飛び降り自殺?

 突然の行動にあたしは慌てた。


 ところが。


 五階の高さから落下したにも関わらず、そいつは何事もなかったように両足でタトンと着地した。

 足下を見れば履いている靴は動きにくそうなハイヒール。

 あれでどうやって衝撃を殺したんだ?


「そんなに警戒しなくても大丈夫だって」


 こいつはヤバい。

 そこで転がってるチンピラとは全く別モノだ。

 あたしは無意識のうちに間合いをとって、光の棒を構えていた。


「リング」

「は?」


 翠色の女は自分の首をちょんちょんと指さして言った。


「敵か味方かわからない相手に出会ったら、まずはリングを作動させなきゃ」


 言われてあたしは思い出した。

 ミサイアから借りた、あらゆる衝撃から身を守るリング。

 スイッチを入れると全身が淡い光に包まれ、見えない防御膜が周囲に張られる。


「くっ……」

「そうそう、とっさの時にその動きはクセにしておくと良いぜ。じゃないと――」


 ファンファンファン!


 翠色の女の声を遮るように、遠くから耳障りな音が聞こえてきた。

 なんなのよ一体、次から次へと!


「やっべ、追いつかれたか」

「なによこの音」

警察ブシーズだよ。アンタも逃げた方が良いぜ。そのウイングユニット、軍の倉庫から盗んだモノなんだろ?」

「盗品じゃないわよ、ちゃんとサインして借りたわ!」

「そうなのか? まあどっちにせよ、この状況を見られたらマズいと思うぜ。本当に無実だとしても一度拘束されたら開放されるまでが長いからな。んじゃ、オレはこれで」


 翠の女はしゅたっと手を上げると、ものすごいジャンプ力で建物の壁を蹴り、あっという間に五階の高さまで昇ってしまった。


 尋常じゃない身体能力だわ。

 まるで輝攻戦士みたい……それより。


 反対側の空を見上げる。

 二人の男がこちらへと近づいていた。

 輝動二輪のような乗物に跨がったヘルメット姿の人間だ。


 見慣れた輝動二輪と違うのは、タイヤの代わりに二つの円形パーツが水平にくっついていて、そこから輝粒子のような淡い光を出しながら宙に浮いていること。


 空飛ぶ輝動二輪なのかしらね。

 後部座席で赤い光が眩く点滅している。

 近づくにつれ、さっきの耳障りな音も大きくなる。


『そこの女! ジェイドの仲間か!?』


 うわ、やかましっ。

 ひび割れた声が辺りに響く。

 拡声器みたいなものを使ってるみたい。


『警部、人が倒れています!』

『何!? 市民に対する暴行か!?』

『どうします?』

『決まっている。哲華、やつを確保するぞ!』

『了解!』


 あー、これはあれね。

 この世界の衛兵みたいなものなのね。

 っていうかさっきの女、こいつらに追われてたんじゃない?


「ふざけんな、巻き込みやがって!」


 あたしはこの場から逃走すべく、機械マキナの羽から光を放出して飛び立った。


『待て! 逃げるな!』

「誰が待つか!」


 すでに翠色の女はどこにもいない。

 空飛ぶ輝動二輪はまっすぐにあたしを追ってきた。

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