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閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
第10章 最後の休息/第三の世界 - looking for my friend -
632/800

632 ◆ウイングユニット

 十分ほどして、ケイタロがひーひー言いながら戻ってきた。

 その手にはやたら馬鹿でかい片刃の剣を持っている。

 右腕で柄を抱え、左腕に水平にした刃を乗せて。


「こっ、こいつでいいですかい?」

「青竜刀ですね。わかりやすくていいです」


 見た目からもわかるように、かなりの重量がありそうだ。

 ……と思ったら、ミサイアは片手であっさりと持ち上げてしまった。

 そのまま彼女はぶんぶんと軽そうに素振りをする。


 意外と重くないのかしら?

 ケイタロは苦労して運んで来たみたいだけど。


「ナータさん。チョーカーの左側にスイッチがあるのわかります?」

「え? ……ああ、これかしら」


 手で首輪に触れてみる。

 そこには小さなレバーみたいなものがあった。

 力を込めると、カチリ、と音がしてスイッチが動いた。


「うわっ」


 すると、あたしの体が微弱な光を放った。

 暗い倉庫の中だからギリギリわかる程度の淡い光。

 光っていると言うよりは、光の粒が周りを取り巻いてるって感じ。


 これって、輝攻戦士……じゃないわよね?


「それじゃ、行きますよー」


 ミサイアが剣を振りかぶる。


「ちょっ――」

「せいっ」


 そのまま、思いっきりあたしに叩きつけた!

 本物の剣なら冗談抜きで真っ二つになるって勢いで!


 けど。


「どうですか?」


 剣はあたしの脇腹で止まっていた。

 確かに軽い衝撃はあった。

 けど、それだけ。

 刃があたしの体を斬り裂くことはなかった。


「……なんともない」

「そのリングを起動させると、体の周りに薄いシールドが張られて、あらゆる衝撃から所有者を守ってくれるんですよ。あまり強力な攻撃は貫通されることもありますけどね」


 うーん。


「ちょっと、その剣貸してくんない?」

「え、いいですけど……」


 もしかしたら、やっぱりハリボテだって可能性も、


「重いから、気をつけてくださいね」

「重いってそんな……うわおっ!?」


 念のため両手で受け取ろうとしたけど、予想を遙かに超える重さだった。

 あたしは思わず剣を床に落っことしてしまった。

 大きな音が建物の中に反響する。


「おいおい、お嬢ちゃん! 骨董品なんだから大事に扱ってくれよ!」

「わ、悪かったわ」


 ハリボテじゃなかったのね……

 っていうか、これを軽々振り回すミサイアって何者!?


「ちなみに、その剣でも私が全力で振れば、たぶんリングの防御は破れますよ」

「あ、はい」


 正直言って舐めてたわ。

 こいつのことは怒らせないようにしよう。




   ※


「さて、次は武装ですね」


 ミサイアはなぜか楽しそうに奥へと歩いて行く。

 ケイタロはいつの間にかいなくなっていた。

 あの重い剣をしまいに戻ったようだ。


「武器なら持ってるけど」


 あたしにはルーちゃんのお父様からもらった光の棒になる筒がある。

 それと一応、ジルから借りた古代神器のグローブも。

 どちらもエヴィルに通用する武器だ。


「それでドラゴンを倒せるんですか?」

「いや……」


 流石にそれは無理でしょうよ。

 っていうか、あんなのどうやって倒すのよ。


「ミドワルトにシャインブレードを作る技術があったのは驚きましたけど、それはあくまで護身用の携帯装備ですよ。魔物が跋扈する世界を安全に旅するにはもっと強力な武装を用意しないと。最低でも射撃武器は必須ですね」

「射撃武器って……弓矢とか?」

「もっと近代的で良いものです」


 肩越しに振り返り、口元に指先を当ててにこりと笑うミサイア。

 なんだか馬鹿にされてるみたいで少しイラッとした。


「あ、これなんてどうでしょう?」


 立ち止まり、近くにあったロッカーを開ける。

 中から取りだしたのは……


「なにこれ」


 よくわからない物体だった。

 何に似てるとかも言えないくらいわからない。


 形状を説明すると、全体的に細長く、上部は丸みがあって先に行くほど尖っている。

 まったく同じモノが二つ、それぞれの外側に古代語が書かれていた。


 色は白を基調に、青と赤のラインが走っている。

 よく見ると色の境ごとに別のパーツがくっついてるみたい。


 無理やり何かに例えるなら……機械マキナの羽?


「なんなの、それ」

ウイング(wing)ユニット(unit)です。背中に装着して高機動飛行をするための兵装で、三種類の形態に使い分けられるマルチスタイルガンも付属してます」

「ごめん、なに言ってるのかよくわからない」


 背中に装着するってどういうことよ。

 まさか、リュックみたいに背負うとか言わないでしょうね


「つけてあげますから、後ろを向いててください」

「はいはい」


 逆らっても仕方ないので、あたしは彼女に背中を向けた。

 きっとまたずしりと重いんだろうなと思っていると、


「はい、装着できましたよ」

「え?」


 重さは全くなかった。

 特に何かが背中にくっついている感じもしない。

 後ろを見てみると、さっきのモノがあたしのすぐ後ろに浮いていた。


「なにこれ、なんで浮いてるの?」

「ナータさんの背中側十センチの座標で空間ロックしてあります。動き回っても外れることはないので安心してください」


 移動してみる。

 次は回転してみる。

 物体は決して離れることなくついてくる。

 冗談で言ったのに、これじゃ本当に羽みたいじゃない!


「いや、これメッチャ恥ずかしいんだけど」

「え? 羽の生えた人間くらい、ミドワルトならたくさんいるでしょ?」

「いねーよ」


 こいつのミドワルトに対する認識はどうなってんのよ。


「使い方は後で説明します。とりあえずこれで決定ですね」

「あんたは武器とかいらないの? 一緒にミドワルトに来るんでしょ?」

「リングは常に装備していますし、私には自分専用の特別な武器がありますから」

「あっそ」


 得意げな顔のミサイアにイラついて、あたしは適当に気のない返事をした。

 そこにちょうどケイタロが戻ってくる。


「選び終わったんですかい?」

「ええ、チョーカー型リングをひとつと、ウイングユニットを一機、借りていくわ」

「それじゃ向こうでサインをお願いしますわ」


 あたしたちはケイタロについて建物隣にある事務所に移動した。

 歩きながら機械マキナの羽を弄ってみるけど、まったく取れる気配はない。

 ほんと、どういう仕組みなのかしら、これ……




   ※


「ここに署名を頼んます」

「はいはい」


 机の上に差し出された紙に、まずミサイアが名前を書き込んだ。


「なにこれ」

「私の本名ですよ」

「名前が共用語? 変なの……っていうか、異世界でも使ってる文字は一緒なのね」

「ミドワルトの文字や言語は日本語がベースですからね。さあ、あなたもサインしてください」


 あたしはペンを受け取って自分の名前を書いた。


「あ、フルネームでお願いします。ちゃんと苗字も書いてくださいね」

「ミョウジってなによ」

「えっと、ファミリーネームって言えばわかります?」

「そんなのあるわけないでしょ。昔の貴族じゃないんだから」

「あれ、そういうものなんですか……?」


 やっぱり文化の違いがあるみたい。

 ミドワルトでは普通、ファミリーネームなんて存在しない。

 名前を縮めて呼ぶ愛称くらいはあるけど、普通に名乗ればそれがフルネームだ。


「どうしよう。インベル=ナータさんってことで大丈夫かしら……」

「あたしに聞かれてもわかんないわよ。どうなの? おっさん」

「好きにしていいですわ。どうせそんなモン、誰もマジメに見とりゃせんですし」

「管理局の人間としては聞き捨てならない発言ですよ、それ」


 とりあえず、受領完了。

 あたしは異世界の武器防具を手に入れた。




   ※


 建物を出て、さっき停めた自動車の所に戻る。

 ドアを開けようとして、あたしは大変なことに気づいた。


「ねえ、羽が邪魔で座れないんだけど」

「あっ」


 ミサイアも気付いていなかったみたい。

 座れないどころか、自動車の中にも入れない。


「当然これ、自由に外せるのよね?」

「えっと……」

「おい」


 ずっとこのままとか、冗談じゃないんだけど?


「じゃ、じゃあ、こうしましょう。今からウイングユニットの使い方を教えるので、ナータはそれを使って自力で飛んできてください」

「あたしはこの羽を外せるかって聞いてんだけど?」

「かっ、管理局に戻れば、固定解除コードが発行できますから!」


 よくわかんないけど、ちゃんと外せるのよね!?

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