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閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
第9章 反逆 - rebellion of light -
615/800

615 遠距離砲撃作戦

 私は指をパチンと鳴らした。


 天まで届くほどの炎の渦が一瞬で消失。

 後に残ったのは、焼け焦げた何もない荒野だけ。

 三万強のエヴィルたちはそこにいた痕跡すら残さず全滅した。


「やったね!」


 私はスーちゃんの方を振り向いてピースをしてみせる。

 けれど彼女はなぜか険しい顔で私を見ていた。


「あ、あれ、どしたの?」

「お前は誰だ」

「ルーちゃんですけど……」


 なんでそんな変な質問するんだろう。

 私はルーチェだよ。


「ふむ……」

「な、なに?」

「この馬鹿っぽい顔は確かにいつものルーチェだな」

「ねえなんでいま私の事ばかって言ったのか説明して?」

「あいつらを一体残らず焼き尽くした時、お前はどう思った?」


 どうと言われても。


「別になんとも」

「歓喜に打ち震えたり、虐殺の愉悦に絶頂しそうになったりしてないか?」

「しないよ!」


 悪魔か私は!


「じゃあ、逆に罪悪感や良心の呵責は?」

「それもないけど……」


 だって、あいつらは敵だし。

 やらなきゃブルーサが壊滅してたもんね。


「裏人格に乗っ取られたり、魔王の血の重圧に耐えきれず狂ったりしたわけじゃなさそうだな」

「してないよ。なんでいきなりそんなこと疑ってるの」

「いや、理解してないならいいんだ」


 なんかばかにされてる気がするよ。

 訳知り顔で説明しないのは良くないと思います。


「ルーチェ」

「はい……あ、名前で呼んでくれた!」

あたしは何があろうと、お前の味方だからな」

「? よくわからないけど、ありがとう」


 変なスーちゃん。

 でもちょっと嬉しかったよ。


「ともあれ、お前はこの地方を攻めている魔王軍の主力部隊を全滅させたわけだ」


 スーちゃんは腕を組んで神妙な顔で言った。


「この情報はすぐに夜将に伝わるだろう。これからは積極的にお前を狙ってくるはずだ」

「やっぱり? でも、今ならどれだけの敵が来ても負ける気がしないよ!」

「夜将を甘く見るな。あいつは勝つためなら何でもするやつだ。正面から挑んで被害が大きいと見れば、寝込みを狙うか、知りあいを人質に取ろうとする。お前の感知能力があれば戦っていくことは可能だが、今後はゆっくり休息を取る余裕もなくなるぞ」


 うっ……

 それは嫌だなあ。


「軍を相手にするってのはそういうことだ。どんなに強くても、ひとりでやれることには限界がある。だからまずは頼れる仲間を探すことから――」

「あ、だったらさ」


 私はスーちゃんの言葉を遮って、思いついたアイディアを提案してみた。


「これから敵の本拠地に乗り込んで、やられる前にやっつけちゃおう」




   ※


 閃熱フラルの翼を広げ、私は夜空を斬り裂きながら全速力で飛ぶ。

 どうやっているのか、私にぴったりくっついて飛んでいるスーちゃんが聞いてきた。


「輝力はまだまだ余裕があるんだな?」

「うん、ほとんど減ってないくらいだよ」

「ならザコは相手にならないだろう。問題は夜将を倒せるかどうかだな」

「やっぱ強いんだよね?」


 魔王直属の五人の将のひとり、夜将リリティシア。

 以前にビシャスワルトで見たときは、どうにもならない相手だと思った。


「将には強さの序列がある。立場は同じでも、それぞれがまるで別モノだと思っていい」

「夜将は何番目くらいに強いの?」

「三位。ちなみにお前たちが倒したエビルロードは四位だ」


 長時間の死闘の末になんとか勝てたエビルロード。

 それも人類最強の五人で挑んでようやくって感じだった。


 あの怪物よりも強いのか……


「魔王の力に目覚めたお前は確かに以前とは比べものにならないほど強くなった。だが、夜将と正面からやり合うのはやめておけ。特にあの手で掴まれたら最後、あっという間に八つ裂きにされるぞ」


 やっぱ相当恐ろしい相手みたい。

 けどね。


「大丈夫だよ。私には必勝法があるんだから」

「神話で学んだ戦術と新しい術か」

「うん。説明しておく?」

「いや、いい。あたしはお前を信じるよ。念のため夜将のデータは送っておこう」


 私は全力で飛びながら、スーちゃんから送られてくる敵の情報を受け取った。




   ※


 夜将が居を構える城の近くまでやってきた。

 と言っても、まだここからは三十キロくらい先だけど。


 新式流読みで敵の総数を確認。

 馬鹿でかいお城とその城下町に、十万近いエヴィルがいる。


 その中に人間がいる気配はない。

 数キロ離れた場所にまとめて集められている。

 そちらには何百かのエヴィルが紛れ込んでいるみたいだ。


「夜将のミドワルト人に対する蔑視は凄まじいからな。自分の近くには絶対に置いておきたくないんだろう。離れた場所にあるのは人間牧場ってところか」

「それは好都合だね」


 夜将の周りに人間がいないなら、思いっきり攻撃できる。


「で、こんな遠くからどうするつもりだ?」

「もちろん、ここから攻撃するんだよ」


 敵の城にいるのは夜将リリティシアだけじゃない。

 空を飛んで周囲を見張っているエヴィルや狙撃台に控えているエヴィルもいる。


 迂闊に近づけば猛攻撃を食らってしまう。

 けど、この距離なら簡単に反撃はできない。

 私がここに居ることもたぶんまだ気付かれてない


「何よりとんでもないのはその情報収集能力だな」

「流読みは得意なんだよね、前から」

「で、お前の蝶はそんなに遠くまで届くのか?」


 普通にやったらもちろん無理だ。

 一〇〇メートル圏内なら自由に作り出して撃ち出すことは可能。

 だけど実験してみたところ、自在にコントロールできる距離は五キロ先くらいまでだった。

 さっきみたいに空から落とすならともかく、遠くに向けて撃つのはどうしても射程に限界がある。


「そこでこれだよ……加速輝蝶弾ジャロファルハ!」


 黄色い蝶を一つ、目の前に浮かべる。

 八色の蝶のその六。

 新しい術だ。


「見ててね」


 私は足元に落ちていたこぶし大の岩を拾い上げる。

 それを上向けた掌に載せ、黄色の蝶をゆっくりと近づける。


 びゅばっ!

 どがーん!


 黄色い蝶が触れた瞬間、石はものすごい勢いで加速。

 近くにあった大岩を木っ端微塵に粉砕した。


「触れたものを超加速する術だよ。速さは物体の大きさによって変わるんだけど、これくらいの石なら初速は音の速さの五倍弱ってところかな」

「それはいいけどお前、手首から先まで吹き飛んでるぞ」

「すぐ治すから大丈夫」


 私はちぎれた手を閃熱霊治癒フラル・ヒーリングで治療してから改めて攻撃の準備に取りかかった。


 まずは司令桃蝶弾ローゼオファルハを七つほど作る。

 さすがに輝力ががくんと減ったけど、まだまだ余力はたっぷりある。


 桃色蝶ローゼオちゃんのうち五つを大きく弧状に配置。

 それぞれに一二九ずつの爆炎黒蝶団ネロファルハを作らせる。

 私自身も周囲に一二九の黒蝶を展開……もっといけるかな?


 一〇〇メートル圏内に二五七の黒蝶を配置。

 今のところ、これが一度に同時展開できる限界数みたい。


 その状態で今度は疾風蒼蝶弾アズロファルハの準備。

 桃色蝶ローゼオちゃんは各三つずつ。

 私は六つまでいける。


 巻き起こした風を通り道(砲身)にして照準補佐。

 細かい狙いは流読みでつける。


 最後に加速黄蝶弾ジャロファルハを私が六つ、桃色蝶ローゼオちゃんが三つ用意。

 風の通り道の反対側、斜め四五度から黒蝶に触れさせ――


 発射!


 秒速二キロで射出された黒蝶が三〇キロ先の敵城へ向かって飛んでいく。

 着弾するのを待たずに次の蒼蝶と黄蝶の準備を開始。

 続けて次を六連発(桃蝶ちゃんは三連発)発射。


 四発目を撃つ前には、黒蝶が標的にぶつかって爆発する音が聞こえてきた。


「空襲の次は砲撃か。せっかくの神話映像なのに、お前は変な所ばかり見てるな」

「でも、役に立つでしょ?」


 もちろん、これだけで倒せるほど楽な相手だとは思ってない。

 一方的に攻撃できる今のうちに、できるだけダメージを与えたい。


 さあ、まだまだ!

 どんどん撃つよ!

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