表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
8.5章 侵略されし世界 - war of the remaining knight -
579/800

579 ▽sleeping beauty

 橙色に染まった空の下。

 その少年は道なき道を足早に駆けていた。

 右手に持ったバスケットには、山で摘んだ大量の薬草が入っている。


 やがて、小さな古ぼけた小屋に辿り着いた。

 少年は辺りを探るように左右をきょろきょろ見回す。

 誰にも見られていないことを確認すると、ゆっくりと扉を開けた。


「ただいま。アグィラ、シスネ」

「おにいちゃん、おかえりなさい!」


 小屋の中には壮年男性と幼い少女がいた。

 シスネと呼ばれた女の子は、帰宅した少年に笑顔で飛びついた。

 少年――パロマは自分の胸に顔を埋めるシスネの頭を撫でながら、壮年男性に話しかける。


「アグィラ、薬草いっぱい採れたよ。あの人の様子は?」

「相変わらずだ。死んだように眠ったままだよ」


 壮年男性アグィラは無精ヒゲを撫でながら奥の扉に視線を向けた。

 彼が腰掛けている横のテーブルには何かの機械(マキナ)部品が転がっている。

 アグィラはそれを片付け、受け取った薬草を煎じるため、すり鉢を棚から取り出した。


 適量の水を混ぜてすりつぶし、薬湯を作る。

 満足な食料が得られない今、健康への備えはいくらあっても足りない。

 彼らが住むマール海洋王国もまた、魔王軍の襲撃によって激戦地となっているのだから。


 パロマは作業をするアグィラを横目に、妹を伴って奥の部屋へと入った。


 部屋にはベッドがあった。

 そこにひとりの少女が眠っている。

 

 彼女のことは一年ほど前にパロマが近くの茂みの中で見つけた。

 息があるのを確認し、アグィラに運んでもらったのだが、未だに目を覚まさない。


「姉ちゃん、いい加減に起きろよー」


 伸び続ける()()()()は、彼女が生きている証拠でもある。

 ただ眠っているわけではないようで、何も食べていないのに衰弱する様子はない。

 ()()()()が言うには『輝力枯渇の自然治癒』を行っている最中とのことだが、パロマにはよくわからない。


「シスネ」

「うん」


 濡れた布を妹に渡す。

 彼女は眠れる少女の寝間着を脱がせ、身体を拭き始めた。

 パロマはその間、窓から外の景色を眺めていた。


 まだ昼前なのに、空は夕暮れのように薄暗い。

 あの日以来、もうずっと青空は見ていない。


 発見した時に彼女が着ていたのは、とても立派な術師服だった。

 もしかしたら、彼女は名のある輝術師かもしれない。


 もし目を覚ましたら、魔王軍から僕たちを守ってくれるかもしれない。


 そんな打算もないわけではないが、パロマは純粋に彼女が目覚める時を待っていた。


 それは純粋な好奇心から。


 眠っていてもこんなに美しいなら、起きた時にはどれほど素晴らしい人なのだろう……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ