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閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
EX6 五英雄の時代 - five Lights -
553/800

553 ▽残った『最強』二人

 いつの間にか懐に入られていた事に気付いたのは、ノイが攻撃を放った直後だった。


閃熱掌フラル・カノン!」


 がら空きのボディに、白熱する掌が叩き込まれる。


 輝攻戦士に匹敵する肉体強化。

 三階層輝術を三連続で使用する輝力要領。

 おそらく輝言の高速詠唱も取得しているに違いない。


 その上でド派手な術を囮に使い、三階層で最も強力だが射程の短い術をゼロ距離で叩き込むため、わざわざ危険を覚悟で飛び込んで来やがったのだ。


 グレイロードとか言ったか?

 天才輝術師は伊達じゃないようだ。

 相手がノイでなければ確実にやられていただろう。

 輝術師としての実力は星輝士の三番星を超えるかもしれない。


 だが。


「やってくれるじゃないの」


 ノイは少年の腕を掴んだ。

 閃熱掌フラル・カノンには三階層とは思えないほどの威力がある。

 空気中での減衰率が激しく、飛び道具としては使いづらいが、至近距離で当てれば鋼鉄の鎧すら貫く。


 ノイが身に纏う炎のごとき輝粒子。

 普段はダダ漏れなため、それほどの密度はない。

 だが、自らの意志で一箇所に集中すれば、絶大な防御力を得られる。


 攻撃を受けた部位に輝粒子を集中させ、ノイは閃熱掌フラル・カノンを受けきった。


「くっ、離せ……!」


 少年は動けない。

 こいつは危険な相手だ。

 可哀想だが、眠ってもらうとしよう。


 ノイは振り上げた右腕に力を込めた。

 少年は早口で何事か呟く。

 輝言だった。


炎獣召喚イグビスト!」


 少年の背後から狼のような形をした炎が飛び出した。

 ノイは少年を蹴り飛ばし、その反動で大きく距離を取る。


「フッ!」


 炎の獣が迫ってくる。

 それを素早く両手で受け止め、気合を込めて握り潰す。


「うわっ、あれでもダメか!」


 蹴り飛ばされた少年が頭を押さえ立ち上がる。

 まさか連携の最後に四階層の輝術を組み込んでくるとは。

 とんでもない輝力とセンス、本当に人間かと疑いたくなるほどだ。


「おりゃあっ!」


 そこにアルジェンティオが突っ込んでくる。

 ノイは剣を拳で払って、カウンターの蹴りを叩き込む。

 アルジェンティオは身を逸らして攻撃を避け、さらなる斬撃を繰り出す。


 拳と剣の打ち合いになり、両者共にはじき飛ばされる。


 アルジェンティオは後ろに飛んで距離をとる。

 先ほどと比べ、明らかに動きが俊敏になっていた。


 戦闘の中で少しずつテンションを上げていくタイプのようだ

 とは言え、まだまだノイが圧倒されるほどではない。


「やっぱ連携しなきゃ勝てねえか」

「うむ、ミドワルト最強の輝士は伊達ではないようだ」

「面倒だけど、ここは協力しようぜ」


 アルジェンティオが正面で剣を構える。

 ダイスとグレイロードが左右から挟むよう移動する。

 隠す気のない彼らの相談を聞いて、ノイは口元をにやりと歪めた。


「力を合わせれば勝てるつもりか?」

「やってみなきゃわからねえだろ」


 生意気に言い返してくる少年輝術師。

 直後、グレイロードは輝言の詠唱を開始した。


 発動を阻止すべく飛び込むが、割って入った中年剣士に阻まれる。

 グレイロードが圧縮言語で唱えた術は五秒ほどで完成した。


真暗黒空間デネバリス・スパディウム


 周囲が真っ暗になった。


 自分がどちらを向いているのかもわからない。

 足下にあるはずの地面が見えない。

 己の輪郭すらハッキリしない。


 まるで悪夢の中に放り出された気分だった。

 輝攻戦士化が解除されたわけでもないのに、輝粒子の光すら見えない。


 感覚を狂わされたわけではないだろう。

 周囲が完全な闇に包まれたのである。

 ならば相手も条件は同じはずだ。


 意識を集中すれば、なんとなく敵の位置はわかる。

 高位の輝術師が得意とする『流読み』という名の技術である。

 特に強烈な輝粒子を放っているアルジェンティオの居場所はバレバレだ。


「いくぜ、ちゃんと援護しろよ!」


 アルジェンティオの声。 

 しかし、彼に答える者はない。

 他の二人は完全に闇に紛れている。


 なるほどこれは厄介な戦法だ。

 彼らの自信も頷ける。

 だが。


「舐めるなよ、小僧ども」


 お前達が強いのはわかった。

 ケイオスを倒すだけの実力もあるのだろう。

 だが、星帝十三輝士シュテルンリッター一番星、『血まみれ』ノイモーントは、まだまだ全力を出してはいないぞ。




   ※


「しゃぁっ!」


 闇に向かって足を伸ばす。

 爪先に確かな手応えを感じた。


「ぐ……っ」


 少年の呻き声が聞こえる。

 その直後、ようやく闇が晴れ光が戻った。

 術者であるグレイロードが気を失ったのである。


「はぁ、はぁ……」


 肩で息をしながら、改めて自分の体を見る。


 ノイはすでに満身創痍になっていた。

 その身にいくつもの刀傷を受け『血まみれ』の渾名に相応しき姿となっている。

 もっとも、この名の由来は本来なら、敵の返り血を浴びた状態のことを指すものなのだが。


 明るくなった周囲を改めて見回す。

 アルジェンティオとダイスはすでに倒れていた。


 本当に手強い相手だった。


 闇の中でアルジェンティオが矢面に立ち、互いに相手の気配を頼りに攻防を交わす。

 そこにグレイロードとダイスが横から援護をしてくる。


 特に輝攻戦士ではないダイスの気配が読めず、何度も接近を許してしまった。

 グレイロードも的確な射撃でここぞというタイミングに邪魔をしてくる。


 かといって、周りを警戒しすぎればアルジェンティオに押し切られる。

 王子の圧倒的な力と、サポート二人の超絶技量があってこそできる、完璧な連携だった。


 しかし、ノイはそれを圧倒的な力ではねのけた。

 文字通り肉を切らせて骨を断つ戦法で、まずは防御の薄いダイスを沈める。

 次に輝術攻撃は無視して食らい続けながら、強引に突っ込んでアルジェンティオを打ち倒した。


 あとは逃げ回るグレイロードの攻撃に耐えつつ、確実に捉えて始末するだけ。

 ダメージを無視した戦術を選んだので予想以上に傷ついたが、とにかく三人は倒した。


 残るはあと一人。

 ピーチブロンド(桃色の髪)の少女だけ。

 常に警戒はしていたが、結局他のやつらが倒れるまで何もしてこなかった。


 彼女は闘技場の反対側にさっきと変わらぬ姿で立っている。


「さあ、後はあなただけよ」


 体力こそ消耗しているが、輝力も気力も充実している。

 残った少女がどれほどの力を持っていようが、叩き潰す自信はある。


 少女は武器を持っていない。

 まさか、拳法使いではないだろう。

 ただの輝術師の相手は得意中の得意である。


 詠唱に時間が掛かる高位輝術は輝言を唱え終わる前に潰す。

 低位の輝術はそもそも輝粒子だけで耐えられるから通用しない。

 多少の行動阻害をものともしないノイが一対一で負ける道理はない。


 ふと、違和感を覚えた。

 あまりに客席が静かなのである。


 闘技場を取り囲むように階段状になった客席。

 そこにはいくつもの得体の知れない穴が空いていた。


 椅子はなぎ倒され、瓦礫が散乱している。

 その中心点には必ず人が倒れている。


 ノイたちの戦いを野次馬気分で眺めていた、二番星以下の星帝十三輝士シュテルンリッターたち。

 それが……


「全滅!?」


 その数は十一人。

 ノイと欠番の十一番星を除く星輝士の全員だ。

 他の国ならばどこに行っても最強の輝士の座を得られるだろう、二番星や三番星までも。


 ある者はうつぶせに、ある者は仰向けに倒れ、全員が例外なく意識を失っている。


「あなたがやったの?」


 ノイはピーチブロンドの少女に問いかけた。

 彼女は質問に答えず、ノイの目を見返しながら言う。


「すみませんが、こんなところで処刑されるわけにはいかなんです」


 最初、彼女が何を言っているのかよくわからなかった。

 少し考えて、衛兵が彼女たちをしょっ引いた経緯を思い出す。


「ああ。そういえば、犯罪者って名目で連れて来させたんだったわね」


 血の気が多くて物わかりがいいアルジェンティオがやる気だったから、たいした説明もなく戦闘を開始してしまったが、これでは確かに公開処刑をしようとしていると取られてもおかしくない。


 彼女からすれば、保身のため戦うのは当然。

 ならば周りにいる星帝十三輝士も逃れられない敵だ。


 だからといって、こんな事になるなんて思うわけがない。

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