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閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
EX6 五英雄の時代 - five Lights -
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551 ▽円卓会議

 十番星ザトゥルは、仲間を失った時の状況を事細かに説明した。


「その場にいたのは私と十一番星チタン、そして十二番星ネプトーの三人だった」


 その日、彼らは隣国で防衛任務に就いていた。

 拠点を設けて近隣のエヴィルの掃討を行なっていたらしい。


 ところがある日、拠点がケイオスに襲撃されてしまう。


 大抵のケイオスは、先の古城に住み着いていた個体のように、一定の場所に留まる。

 しかし中には積極的に行動し、自ら人間に害を及ぼす者もいるのだ。

 彼らを襲撃したのは後者のタイプのケイオスだったようだ。


 彼らが見たケイオスは金髪の若い少女だった。

 真っ黒な衣装を纏い、すさまじい速度で飛び回る妖魔。

 そいつは強力な雷の輝術を使い、三人をいとも容易く翻弄したと言う。


「あ、あいつは化け物ですよ……どこに逃げても見えない刃が襲ってくるし、遠くにいたと思ったのに気がついたら目の前にいるんだ。あんなの見たことない。普通じゃないんですよ、とんでもないやつだった……」


 説明の途中、十二番星ネプトーが恐怖に顔を引きつらせながら口を挟んだ。

 そのあまりに情けない様子に、先輩の五番星が激高して立ち上がる。


「貴様、その情けない態度はなんだ!」

「だって本当に怖いんですよ! 電撃の音が耳から離れないんだ!」


 こいつはもうダメだ、とノイは思った。

 きっと他の皆も同じように考えただろう。


 ネプトーは現在の星帝十三輝士シュテルンリッターの中では二番目に若い。

 経験豊富な歴戦の先輩たちの中において、今までよくやっていた。

 だが、ここまで心を折られては、この先も同じように戦い続けるのは無理だろう。


 残念ながら、彼は近いうちに除名処分が言い渡されるはずだ。

 本人が望めば通常の輝士団に戻ることくらいは許されるだろう。


「黒衣のケイオスは現在も逃亡中だ。行方は全くわからない」


 沈黙を破り話を引き継いだのは、会議室でも重装鎧を脱がない二番星。

 現在の星帝十三輝士シュテルンリッターはノイを除いて全員男性である。


「そのケイオスの動向は気になるところだが、下手に動いて藪を突くのは得策ではない。体制の立て直しが先決だろう」

「具体的には?」

「それは私が説明しましょう」


 皇帝の横の席で資料を捲っていた文官が言う。

 この文官は会議を円滑に進めるための司会進行役である。

 反対側で筆記を取っている者と同様、会議の内容についての発言権はない。


「話は変わりますが、先日、国境付近にある古城を根城にしていたケイオスが、とある冒険者一向に退治されたという話は、みなさま聞いておられますか?」


 文官は居並ぶ星帝十三輝士シュテルンリッターたちを見回し問いかける。


「どこぞの小僧に人類反撃の一番槍を持って行かれたって話だな」


 逆毛の七番星が小馬鹿にしたように言い、ちらりとノイの方を見た。


 星帝十三輝士シュテルンリッターは決して仲良しの集まりなどではない。

 態度を表には出さないが、中には互いにいがみ合っている者もいる。

 七番星はノイが女でありながらも一番星の座に着いている事を好ましく思っていない人物だった。


 皮肉のつもりだろうか。

 ノイは彼の発言を目も合わせず無視した。

 こんな会議の場で雑魚と口喧嘩などしたくはない。


「その通りです。もちろん、ノイ様に落ち度があったわけではありません。作戦立案段階での不備だったと言えるでしょう」


 むしろ文官のフォローにこそノイは苛立った。

 早く話を進めろと指先で机を叩いてアピールする。


「……こほん。とかく、件の冒険者の正体を知らずに迂闊にギルドを利用した、我々の落ち度でありましょう」

「正体、とは?」


 煌びやかな宝石を随所にちりばめた鎧を纏う六番星が問尋ねる。


「かの冒険者のリーダーの名はアルジェンティオと申します」


 円卓を囲む者の大半が表情を変えた。

 しかし、中にはその名を知らなかった者もいる。

 そのうちの一人である武闘派でならした禿頭の四番星が、隣に座る五番星に尋ねた。


「アルジェンティオって誰だ?」

「……それは、ファーゼブル王国の第一王子と関係が?」


 五番星が長い前髪をかき上げながら応えるより早く、細目の八番星が文官に問い質した。


「間違いなく本人です。かの国に伝わる光王の聖剣の所有も確認されました」

「王子様が冒険者かよ! ファーゼブル王国は自由でいいねえ!」


 オールバックの九番星が手を叩いて豪快に笑う。


「ところが、これはファーゼブル王家の国策らしくてですね。冒険者という形で各国を回る第一王子を、王国が全力を上げてバックアップしているのですよ。主に風評拡大の面ですがね」

「なるほど、ファーゼブル王国は英雄を作り上げようとしているのか」


 重装鎧の二番星の呟きに失笑を漏らす者もいた。

 確かに、長く続いた動乱に世界中が疲弊しているのは事実。

 民衆受けの良い物語を作るのも、ある程度の効果があるかもしれない。


 しかし、貴重な王位継承者を生け贄として矢面に立たせるのはいかがなものだろうか?


「ファーゼブル王国は現王が危篤状態でして。実際の王権は第二王子が持っていると思われます。第一王子が進んで道化を演じているのか、政争に敗れて放逐されたのかはわかりません」

「後者だとしたら、体の良い厄介払いだな」

「あるいは両方かもしれませんよ。第一王子は一年ほど前から偽名で冒険者活動をしていたと聞きましたが、王国がサポートを始めたのは現王が危篤状態になった時期とほぼ重なります。父親である現王に放逐された第一王子を哀れみ、弟である第二王子がせめてもの名誉回復を試みたと見る向きもあるでしょう」

「よその国のお家騒動なんかどうでもいい。それより、何故それをこの場で話す?」


 二番星は苛ついたような態度で文官に文句を言った。

 実際の所、隣国の王子様が何をしようが彼らには関係がない。


 国内の脅威を他家の王族が解決したというのは外聞の良い話ではないが、帝国の信頼が失墜するほどのことでもない。


「第一王子が率いる徒党に、新代エインシャント神国の人間がいます。輝術学校を最年少で卒業した天才少年グレイロード。彼もまた祖国のバックアップを受けています」


 ノイはあの時に高度な飛行輝術を使った少年を思い出した。

 ただ者ではないと思ったが、やはり単なる若年冒険者ではなかったか。


「つまり、ファーゼブル王国と新代エインシャント神国の共同プロジェクトという側面も持つわけですね。貴種流離譚はいつの時代も民衆の興味を引きますから」

「見栄えの良い広告塔と言うわけだ」

「我々が必死に働こうとも、民衆の耳目を集めるのはいつも冒険者ばかりですからね」

「国民の安寧を保つことが我らの使命。市井の評判など気にする必要はない」

「動乱を未だ終結させられぬことに対する批判は甘んじて受けるが、こうも続けば国民とて暗澹とするだろう。民の慰撫のためわかりやすいヒーローを立てることは決して悪くない事だと思う」


 日々前線で命をかける星帝十三輝士シュテルンリッターとしてはあまり面白くないことだが、このような国家主導の明るい話題作りも必要だということには一定の理解を示す者もいた。


「なるほど、此度の招集の理由が見えました。我が国もそのような広告を打とうという提案でしょう」

「左様でございます。無論、作られた英雄が動乱を終わらせるなどとは露ほども思っておりませんが、積極的な問題解決の姿勢を見せねば、諸外国に付け入る隙を与えることにもなりかねませんからね」


 質問に対する文官の答えに、二番星は深くため息を吐いた。


「国民の慰撫よりも、前線に予算を割いて欲しいものだが……」

「いや、儂は必要だと思う。民が不安に沈んだままでは国家に活力がなくなるばかりだ」

「私は反対です。こうしている間にも、我々が抜けた穴を埋めるべく輝士団員たちが死にものぐるいで戦ってくれているのですよ。正直、私はこのような案件で呼ばれたことに怒りさえ感じている」

「貴様、皇帝陛下に招聘された円卓の場ぞ!? その発言はあまりに無礼であろう!」

「どーでもいいよ。俺は面倒なのはゴメンだけど」


 喧々囂々の論戦が始まった。

 星帝十三輝士シュテルンリッターの面々は個性が強く、与えられた権限も大きい。

 そのため、皇帝陛下の御前とはいえ遠慮がなく物を言える人間も多いのだ。


 当の皇帝陛下はその様子を黙って眺めているだけだった。

 一体、陛下は何をお考えになっているのだろう?


 経験上、こういう場合は大抵裏の目的があるものだ。

 ノイはちらりと皇帝陛下の顔色を窺った。

 威厳に溢れた眼光がぎらりと光る。

 視線が交差する。


 ……ああ、そういうことか。


「私からひとついいか?」


 ノイが小さく声を発する。

 それだけで白熱していた猛者たちが水を打ったように静まり返った。

 円卓を囲みながら、これまで一度も発言を行っていない一番星、その発言に注目が集まる。


「ここでウダウダ話し合うよりも、まずはそいつらと会って真意を確かめるべきだろう」


 ファーゼブル第一王子だか知らないが、エヴィルに殺されたらそれまでである。

 ノイたちに先回りしてケイオスを倒したのだから、実力はあるのだろう。

 しかし、実際の所の彼らが何を考えているのかはわからない。


 本当にただの広告塔なのか。

 あるいは本気で動乱を終わらせようと考えているのか。

 そして……それを実行するための、何らかの展望と手段を持っているのか。


 それを勘違いしたまま見当外れな宣伝戦で対抗しても仕方ない。

 この招集は単なる茶番であり、彼らを納得させるための集まりなのだろう。

 皇帝陛下の指令を無言の中に仰せ付かったノイは席を立ち、円卓に背を向けてこう言った。


「もし取るに足らない集団なら、アタシがこの手でぶっ飛ばしてやるよ」

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