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閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
第8章 異界突入 - battle of another world -
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516 秘密の抜け道

「ぷはっ!」


 外に出ると、思いっきり息を吸い込んだ。

 しばらく呼吸を整える。

 ぜーはー。


 落ち着いたら周りを見回す。

 さっきと同じ泉の前に立っていた。


「あ、あれ?」


 水の中に入ったはずなのに、身体はまったく濡れてない。

 側には先生とカーディが立っていて、ヴォルさんは私の手を握っている。


 どういうこと?

 この数秒間が幻だったような、奇妙な感覚に襲われる。


 ざぱーっ。

 泉の中から光が飛び出した。

 光はやがて人の形になって輝きを失う。


 ジュストくんがそこにいた。


「う、ここは……?」

「全員、転移成功したようですね」


 声がした方を振り向く。

 泉の上にさっきの女性とよく似た顔の人が立っていた。

 ただし、さっきの人は衣装が薄紫だったけど、こっちは黄緑色で統一されている。


「ようこそいらっしゃいました。話は伝わっておりますので、どうぞお気をつけて」


 ああ、そうか。

 似たような場所に移動したんだ。

 転移先も同じような小部屋だったから混乱したんだね。


「助かった。ありがとう」


 先生は泉の女性にお礼を言って、さっきと似たドアから部屋の外に出る。

 他の三人もそれに続き、最後になった私は、なんとなく後ろを振り返ってみた。


「どうぞお気をつけて」


 同じ言葉をくり返す黄緑色の女性。

 改めて見れば、その姿はまるで精巧な人形みたい。


「ありがとうございました」


 ぺこりと頭を下げると、彼女はうっすらと微笑んだような気がした。


「王を守る五つの側近に気をつけて」


 最後にそんな言葉をもらい、私たちは泉の部屋を後にした。




   ※


 部屋の外には向こう側にあった大量のエヴィルストーンはなかった。

 ここでようやく違う場所に来たんだって実感する。


 右上を見上げる。

 さっき降ってきたのと同じ、果てしない階段が上へ上へと続いていた。


 え……これ、今度は登るの?

 ものすごく疲れそうだけど、飛んでもいいかな?

 でも、ジュストくんは輝攻戦士にならなきゃ辛いよね……


「ねえ、輝力わける?」


 尋ねると、ジュストくんは首を横に振った。


「大丈夫。今の僕にはこれがあるから」


 彼が手に持っているのは、英雄王さまからもらった剣。

 やっぱり、それって輝攻化武具の一種なんだ。


 ジュストくんが強くなるのは嬉しいことだけど、役立てることが減ったみたいで、なんかちょっぴり寂しいかも。


「二人とも無駄な力は使うな。俺がまとめて全員運ぶ」


 先生が輝言を唱える。

 すると、足下に小さな光の膜が現れた。


風床飛翔(フィーヴァル・フライング)

「わわっ」


 私たちを乗せた光の膜が斜め方向に上昇を開始する。

 五人を乗せても光の膜は破れることはない。

 不安定さに振り落とされることもない。


 これ、前に借りた空飛ぶ絨毯に似ている。

 こんなのまで輝術で作れちゃうんだ。

 先生はやっぱりすごいなあ。


 私たちはあっという間に最上段まで辿り着いた。

 その先は真っ暗で、階段が途中で途切れているように見える。

 先生はその直前で光の膜を消して、いきなり! 落ちる! 踏み外す! 


「うわーっ!」

「ルー!」

「おっと」


 ジュストくんとヴォルさんに両方から手を掴まれ、なんとか転げ落ちずに済んだ。


「大丈夫だった?」

「世話の焼ける娘ね」

「あ、ありがとうございます……」


 別にいいけど、他の二人は私なんか見向きもしない。

 先生は真っ暗な空間の頭上に手を伸ばしていた。


 そこには左右の壁と同じ真っ黒な天井がある。

 持ち上げると、天井が少しずつズレて、光が差し込んでくる。


 その向こうには外の景色が拡がっていた。


 出てきた場所は、転移前のような建物の中じゃなかった。

 マーブル模様の空がまず目に入り、周囲を見渡すと剥き出しの岩場が見える。


 先生が動かしたのは、周囲の岩とまったく同じ形の、風景と同化したような地面の蓋だった。

 元に戻してしまうとここに階段があるなんてことはまったくわからない。


「ここはどこなんですか?」


 ざっと周りを見渡してみる。

 ひたすら何もない岩場が拡がるばかり。

 遠くには峻険な岩山が壁のようにそびえ立っている。


 その向こうに何があるかはまったくわからない。

 登るにしても、道どころかとっかかりすらない。


 歩いて登ることはできないけど、飛んで越えることはできると思う。

 けど、どれだけ高くまで飛べばいいのか……


「この岩山の向こうに、エヴィルの王の居城がある」


 先生が言う。

 全員に緊張が走った。

 この向こうに、エヴィルの王さまがいる……


 魔動乱の原因。

 ウォスゲートを開いたやつ。

 私たちのミドワルトを混乱に陥れた悪の総大将が。


 二度と争いをくり返さないため、今度こそ私たちが、そいつをやっつけなきゃいけない。


「これを越えていくんですか?」

「それは無理だ。城の周囲は監視が厳しい。目立てばすぐ数千体のエヴィルに囲まれるぞ」


 数千って。

 いくら先生やヴォルさんが強くても、かなり無茶な数字だ。


「アタシは構わないけど? 全部ぶっ飛ばせばいいじゃない」


 ヴォルさんが腕を鳴らしながら頼もしいことを言う。


「雑魚を相手にする必要はない、先は長いんだから無駄な消耗は抑えろ。俺たちが狙うのはあくまでエヴィルの王だけだ」


 うんうん。

 これは先生に賛成ですね。

 そんな風に戦えるのなんてヴォルさんくらいだもんね。


「エヴィルの王にはどうやって近づけばいいんですか?」


 ジュストくんが当然の疑問を口にした。


 ミドワルトで例えてみよう。

 まずは誰にも気付かれずに白の聖城に入り込む。

 そして王さま、もしくはグレイロード先生をこっそりと暗殺する。

 私たちがやろうとしてるのは、そういうこと。


 ……お手上げじゃない!


 いや、そもそも無理だったんだよ。

 五人でエヴィルの世界に乗り込むなんて。

 だって、この世界は周りの生き物すべてが敵なんだし。


 小鬼人族みたく、正体がバレなきゃ襲ってこないひともいたけど……

 エヴィルの王さまの周囲を守っているのなんて、超強いケイオスばっかだよね?

 さて、先生には何か良いアイディアがあるんでしょうか。


「心配はいらん。こっちに来い」


 先生は岩山に右手をついて歩き始める。

 私たちは顔を見合わせた後、黙ってその後ろに続く。

 しばらく進んだ先で、岩山の一画に大きな裂け目があった。

 裂け目はかなり奥深くまで続いていて中は洞窟になっているらしい。


「この道は王の居城へと続いている。王本人ですら知らない、秘密の抜け道だ」

「エヴィルの王さますら知らないって……なんで先生がそんな道を知ってるんですか?」

「以前にも来たことがあるんだよ」


 あ、魔動乱の時か。

 十五年も前のこと、良く覚えてるなあ。

 とりあえず、これで敵の本拠地までは安全にたどり着けるらしい。




   ※


 先生を先頭に私たちは洞窟の奥へと入っていく。

 なんか、景色に違和感があった。

 なんだろう?


 ……ああ、わかった。

 (ライテル)を使ってないのに明るいんだ。


 さっきの転移の泉へと続く階段もそうだった。

 光源もないのに、何故か周囲の景色がはっきりと見える。


 理屈はわからないけど、これはビシャスワルトでは当たり前なのかも知れない。

 差や尖った石にさえ気をつければ、外を歩いているのとかわらない。

 これなららくちん、らくちん。


 とか思った直後。


「うわーっ!」


 急に足下の地面が崩れた!

 私は慌てて火飛翔(イグ・フライング)で浮き上がる。

 どきどき脈打つ胸を抑えながら、なんとなく下を見てゾッとする。


 下には鋭く尖った槍のようなものがずらっと並んでいた。

 たしかな光源がない分、そのシルエットはくっきりはっきりわかる。

 もし、あと一秒ほど炎の翅を拡げるのが遅かったら、確実に全身穴だらけになってたよ。


 秘密の抜け道……

 一筋縄じゃ行かないみたい。

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