504 反攻作戦の朝
翌朝……
「元気ぜんかい!」
ものすごく目覚めの良い朝だった。
まだ暗いうちに起きて、部屋に備え付けのシャワーを浴びた。
輝師服に着替えて、髪を整えて、軽くストレッチなんかしちゃったりして。
昨日悩んだのがバカみたいに思えるくらい調子が良い。
ばけもの上等!
私は聖少女さまの再来だもんね。
この力で世界を、みんなを、友だちを守るんだ!
今日は人類の存亡を賭けた反攻作戦の日。
でも、味方にはグレイロード先生もヴォルさんもいる。
ジュストくんも一緒だし、私は気合いもやる気も十分だぞ!
たかぶってきた。
体操とかもしちゃうぞ。
それ、いち、に、いち、に。
コンコン。
ノックの音。
「ルー、起きてる?」
「あ、はい!」
ジュストくんだ。
「昨日はゴメン、一晩寝て頭を冷やしたよ。僕はもう迷わない。今日は精一杯がんばろう」
「うん!」
彼も昨日の暗さはもう感じられない。
元気になったみたいで、よかったよかった。
ところで、なにか謝られるようなことされたっけ?
まあ、やっぱりキチンと寝て気持ちを整えるのは、大事ってことだね!
「グレイロード様が支度できたら城門の前に来いって」
「わかった。すぐ行くから、ちょっと待って」
※
ジュストくんと一緒に城門前へ。
いきなり反対方向へ行こうとした彼の腕を掴んで廊下を歩く。
「おう、未来の英雄様!」
「今日はがんばってくださいよ!」
「あはは。ありがとうございます」
途中で大勢の兵士さんたちと出くわして、結局みんなで一緒に行くことに。
城門前は人でごった返していた。
輝士さまやら、音楽隊やら、見物の人々やら。
足の踏み場もないっていうか、ほとんどパレード状態だよ。
この中から先生を探すのは大変だぁ……
っていうか、なんでこんなことになってんの?
「人類に再び暗黒の時代が訪れるのを阻止するための一大作戦だからね。次世代の英雄を送り出す式典と思えば、こんな風に盛り上がるのも仕方ないよ」
「お祭り気分なのね」
孤独に旅立つよりはずっと良いですよね。
「さあ、まずはグレイロード様を探さなきゃ」
「ねえジュストくん。ところで、反攻作戦って具体的にどうするのかって知ってる? エヴィルの世界に行くとは聞いてるけど、私それ以外に知らないんだけど」
「具体的な手段は僕も聞いていない。けど、前の五英雄は『白銀の鳥』に乗ってウォスゲートを越えたって話を聞いたことがあるよ」
「鳥?」
どういうことだろう。
すごい大きな鳥の背中に乗って行くのかな。
人が乗れるようなでっかい鳥って、もはやエヴィルじゃないの?
旅の途中で戦ったドラゴンを思い出してゾッとする。
あんなのだったらすっごく嫌だなあ。
「ジュスティツァ様にリュミエール様。こんな所にいらっしゃいましたか」
身なりの良い輝士さまに声をかけられた。
「主賓席を用意してあります。さあ、どうぞこちらへ」
輝士さまに先導され進む。
人混みが勝手に掻き分けられるのが面白い。
私たちがやって来たのは、建物の二階くらいの高さがある、特設ステージだった。
階段を登るとテーブルがあった。
そこには色とりどりの豪華な料理が並んでいる。
特設ステージにはヴォルさんと、それから青い全身鎧を身に纏った人がいた。
「おっそーい。主役なんだから遅れんなよー」
私に気付いたヴォルさんが手を振った。
焼けたお肉とソースの良い匂いが漂ってくる。
「自由に食べて良いってさ。ルーちゃんも遠慮なくどうぞ」
なぜか料理を勧めてくるヴォルさん。
彼女は両手に骨付き肉をもって口の中に頬張っていた。
美味しそうだけど、朝っぱらからこれは、ちょっと重いかも……
でも朝ごはんまだだし。
軽くお腹に入れておこうかな。
いただきます。
もぐもぐもぐ……
このケーキおいしいね!
「あ、私にも紅茶ください」
「かしこまりました。砂糖はお入れしますか?」
「五十杯ほど入れて下さい」
「かしこまり……えっ」
メイドさんに食後の飲み物を頼んでから、まだ食べているヴォルさんに質問する。
「ところで、この料理はなんなんですか?」
「出立前の慰安会だって。これからお偉方の挨拶やら市民有志の催し物やらが始まるからさ。ほら、そこから下のステージが見えるわよ」
ステージの端はバルコニーみたいなでっぱりがあった。
そこから煌びやかな輝光灯に照らされた下の舞台が見下ろせる形になってる。
部隊の向こうは広場になっていて、立錐の余地もないほどの群衆で埋め尽くされていた。
「出発前の私たちを良い気分で送りだそうとしてくれてるんですね!」
「実際のところは新代エインシャント神国の見栄だろうけどね。世界の命運を賭けて戦う英雄なんだから、黙って送り出すわけにも行かないでしょ」
ヴォルさんとそんな話をしていると、どこからかジジッ……という音がした。
『愛すべき神民たちよ。私は今日、諸君らの盛大な見送りを受けて再び戦場へと旅立てることを、心より嬉しくに思う!』
あ、先生の声だ。
下で拡声器を使ってなんか喋ってる。
「アイツも大変よねえ。命を賭けた戦いの前だっていうのに、あちこちのご機嫌取りしなくちゃいけなくってさ……偉くなんてなるもんじゃないわ」
「え、もしかして私も何か挨拶とかしなくちゃいけないの?」
「アタシたちの紹介は各国の来賓が勝手にやってくれるから黙って座ってればいいわよ。たまにそこから顔を見せたり、最後のパレードでちょっと手を振るくらいでいいって」
それを聞いて一安心。
こんな大勢の前で喋れなんて言われたら、緊張して何言っちゃうかわからないしね。
ジュストくんは食事に手をつけず、武具の手入れをしている。
愛用のチェーンメイルに綻びがないか確かめてるみたい。
その向こうには青い鎧の人がいる。
彼は何をするでもなくジッと黙って座っていた。
料理には一切手をつけていない……というか、兜が邪魔で食事できないのかな?
あの人もきっと、反攻作戦に参加するメンバーなんだよね。
たぶんマール王国の輝士さまだと思うんだけど……
知らない人だけど、肩を並べて戦うんだし。
仲良くなっておいた方が良いね。
挨拶しておこっと。
「あの、私、ルーチェって言います。今日は一緒に頑張りましょうね!」
できる限り明るい声で話しかける。
青い鎧の輝士さまはちらりとこっちを見た。
けど、それだけ。
一言も返してくれない。
どうしよう、無視されちゃったよ……
ヴォルさんは食事に夢中だし、なんだろうこの気まずさ。
いいや、もう、お腹いっぱい食べて忘れよう。
おいしそうなデザートもあるしね。
プリン、ドーナツ、ワッフル、アップルパイ、チョコレートケーキ……
さすがVIP待遇、どれもとろけるような美味しさだよ……
「まだまだありますので、どうぞ遠慮せずに召し上がって下さいね。ここにないものでも、ご希望のものがございましたら、可能な限りお持ち致します」
丁寧な物腰のメイドさんが優しそうな笑顔で言ってくれる。
「あ、じゃあ山盛りの砂糖とハチミツをジョッキで」
「かしこまりまし……えっ」




