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閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
第8章 異界突入 - battle of another world -
502/800

502 光る手の輝術戦士

 炎の翅を翻し上空に逃れる。


 輝攻戦士の機動力はかなりの驚異だ。

 けど、空中でならだいぶ動きが制限される。

 方向転換が効かないから直線的になって見切りやすい。


 ……と、思ったんだけど。


「逃がすか!」


 カリッサさんがものすごいスピードで追いかけてきた。

 あっという間に追いついてきて、背後から攻撃を仕掛けてくる。


「うわっ」


 光る手を私に向ける。

 詠唱なしで閃熱フラルの光を撃ってくる。

 私は急加速して、その攻撃をギリギリでかわした。


 そう言えば輝術師でもあるんだった。

 空を飛べてもおかしくないか。


 意外と侮れない相手かも。

 とりあえず、距離を離さなきゃ。

 得意技が閃熱フラルなら、そんなに射程は長くないはずだし。


 火飛翔イグ・フライングの二回がけで加速し、一気に遠くへ逃げる。

 ある程度の距離が離れたら、こっちから攻撃を仕掛ける。


爆炎フラゴル――」


 攻撃の気配。

 私はとっさに動きを止めた。

 下方向から無数の氷の矢が飛んでくる。

 さっき倒しきれなかった他の輝術師さんたちの攻撃だ。


「わわわっ」


 全力で飛び回ってなんとか回避。

 いつの間にかカリッサさんが近くにいた。

 進路を邪魔するように、彼は私の前に躍り出て……


爆炎弾フラゴル・ボム!」


 触れれば爆発するオレンジ色の光球を放ってくる。

 氷の矢よりこっちの方がずっと危ない!


閃熱陣盾フラル・スクード!」


 私は閃熱の盾を前方に作って対処する。


 目の前で巻き起こる爆発。

 爆風はきっちり防いだ、けど……

 また下から撃ってきた氷の矢がいくつか私の足と腕をかすめた。


 うう、やったな!

 下からの攻撃とか、ほんとうっとおしい!

 手強いのはこの人だけっぽいし、悪いけど先にやっつけさせてもらうよ。


 炎の翅を翻し急降下。

 広場にいる輝術師たちめがけて突っ込んでいく。


火蝶乱舞イグ・ファレーノ!」


 周囲に展開した十七の火蝶を、低空飛行しつつ一つ一つ確実に当てていく。


「ぐわあっ!」

「なんの!」


 中にはさっきみたく上手く避けたり防いだりする人もいる。

 そういう人が多く居る場所をよく見て把握しておく。

 そして、威力の高い攻撃を放つ。


爆炎黒蝶弾フラゴル・ネロファルハ


 火蝶の中にひとつだけ混じっている黒い蝶。

 指を鳴らすと、それは敵の真ん中で爆発した。


「うぎゃあああああっ!」


 広場に小さなクレーターが出来上がる。

 その周囲に倒れるマール王国の輝術師さんたち。

 戦闘不能の人もいたし、さすがに直接ぶつけたりはしない。

 中距離からの爆風でまとめて吹き飛ばしただけ。

 下手に当てたら死んじゃうかもだしね。


 さあ、残った敵はカリッサさんだけだ。

 輝攻戦士と輝術師の力を持った強敵。

 特に恐ろしいのはあの光る手だ。

 油断したら、一撃でやられることもある。


「すさまじい威力だ……だが!」


 カリッサさんが正面から向かってくる。

 仲間をやられて焦ってる様子でもない。


「せいっ!」


 途中で軌道を変え、私の周囲をぐるりと飛びつつ、連続して閃熱フラルの光を撃ってきた。

 私はそれをかわしつつ、反撃の準備として周囲に複数の火蝶を展開する。

 カリッサさんの手から光が消えた。

 いまだ、と思った瞬間――


「えっ」

「油断したな、小娘」


 カリッサさんの背中から、四つの黒い刃が飛び出した。

 そのうちの二つが私の両肩を抉った。


「遠慮無くトドメを刺させてもらうぞ!」


 カリッサさんが輝言を唱える。

 黒い刃は私をがっちり固定して動けない。

 やがて、カリッサさんが詠唱を終え、術を発動させた。


「――氷弾暴風雨(グラ・ストーム)!」


 上空に黒い雲が発生する。

 うわ、フレスの得意だった術だ。


 さらに下方向から氷の矢が飛んできた。

 撃ってきたのはさっきの攻撃でも無事だった輝術師たち。

 どうやら爆風で吹き飛ばした程度じゃ、戦意を奪えなかった人もいるみたい。


 うう、まとめてかかってこいなんて言ったけど、やっぱり無茶だったかも。

 だって、これだけの強敵を()()()()()()()()()()()()()のって、やっぱり難しいよ。


 氷のつぶてが降りそそぐ。

 下からの攻撃と挟み撃ちの形だ。

 前方には光る手を構えたカリッサさん。


 ああもう、知らない!


閃熱陣盾(フラル・スクード)!」


 ちょっと本気出すけど、お願いだから死んじゃわないでよ?

 私は閃熱の盾を前方に張ったまま、強引に黒い刃をひっぺがした。


「なにっ!?」


 肩から血しぶきが舞い上がる。

 カリッサさんは驚きつつも光る手で殴りかかってくる。

 それが当たると同時に、私は閃熱の盾ごと前方へと押し込んだ。


「な……」


 炎の翅を最大出力に。

 私はカリッサさんを運んでいく。


 ばちばちばちっ!

 耳をつんざくような耳障りな音が響く。

 光る手で抵抗するカリッサさんの抵抗の音。

 けどそれは、私の動きを止めることはできない。

 背後の氷の嵐と矢を置き去りに、私はひたすら前へと進んでいく。


「お、おお……っ」

「くらえっ!」


 途中で機動を真下に変える。

 私はカリッサさんもろとも、さっきの爆発で抉った地面へと突っ込んだ。




   ※


 舞い上がる土煙をウェンで払い、私は抉られた地面の縁に立った。


「う、あ……」


 クレーターの中で倒れるカリッサさんを見下ろす。

 すでに彼の輝粒子は完全に消失している。

 両腕は折れて、意識もない。


 や、やりすぎちゃったかな……

 まあ、しんでないし、大丈夫?


 私は後ろを振り向いて、残った輝術師たちを見た。

 できるだけ声を低くして彼らに問いかける。


「まだ、やる?」




   ※


 何も言えずに項垂れる輝術師たち。

 戦意喪失している彼らに背を向け、肩の傷を火霊治癒(イグ・ヒーリング)で治す。

 私はぽかんとしているお偉いさまたちの所へ行って、ぺこりと一礼をした。


「終わりました。認めてもらえましたか?」


 答えはすぐに返ってこない。

 やがて、校長さまが引きつった笑みを浮かべて、私の手を取った。


「さ、さすがは我が国立輝術学校の誇る希代のエリート! よくやってくれましたリュミエール!」

「どうも」


 なんだか引かれてるような雰囲気がするよ。

 私なにか間違っちゃったかな……

 がんばって戦ったのにね。


「……くっ。引き上げる!」


 マール王国の大臣さんは他のえらい人たちを連れ、逃げるように去っていった。

 その後を残った輝術師さんたちが三々五々と続いていく。

 気絶したカリッサさんも運ばれてた。


 この場に残ったのは私とセアンス共和国のひとたちだけ。


「予想外でした。まさかこれほどまでとは……」


 ああ、なんだ。

 驚かれてただけなのね。


「まさにミドワルトを代表する輝術師。貴女は英雄と呼ばれるに相応しい方です」

「いえいえ英雄なんて。先生……大賢者さまには遠く及びませんし」

「比較する対象が間違っています。しかし、聖少女の再来という噂も、あながち誇張ではないようですね。マール海洋王国の精鋭たちは貴女の目にどう映りましたか?」

「えっと、あのカリッサさんって人はけっこう強かったと思いますけど」


 とくにあの光る手はすごいね。

 私の閃熱の剣と似てるけど、無詠唱の飛び道具としても使えるのはちょっとびっくりした。


「その割りには余裕そうでしたわね」

「まあ、先生やヴォルさんに比べれば、全然」


 っていうか旅の途中にも、あれよりすごい人たちといっぱい会ったし。


「マール海洋王国にはその両名ほどに突出した者はいません。だからこそ会議の場で利を得ようと、パケテ氏のような口達者の者が派遣されたのでしょう」

「無理やり代表に選ばれた弱い人がエヴィルの世界なんかに行ったら、何もできずに死んじゃうと思うんですけど」

「文官からすれば将来的に英雄に名を連ねる人材を送り込めさえすれば良いわけです。実際の戦闘は大賢者様や一番星に任せ、後方支援でもさせるつもりだったのでしょう。仮に戦死しても聖少女プリマヴェーラのように名は残りますし」

「それじゃ先生たちに負担をかけることになっちゃう……」

「それほどに両者の力はミドワルトでも突出しているのですよ。他の人間を戦力として数えるのがおこがましいほどに。正直に言えば私も先ほどまで、貴女を単なる数合わせの人員だと思っていました」


 まあ、なんの実績もないし。

 そう思われても仕方ないかな。


「ですが今の戦闘を見て認識を改めました。貴女は大賢者様から頼りにされ、共に戦う仲間として選ばれた、立派な英雄候補なのですね」


 校長さまは力を込めて私の手をぎゅっと握る。


「どうか人類のために力を尽くしていただきたい。我々の未来を頼みましたよ、ルーチェ様」


 うわあ、えらい人にこんなふうに言ってもらえるなんて。

 嬉しいけど、かなりのプレッシャーだよう。

 もちろんできる限りは頑張りますよ。

 自分のために、みんなのために。


「と、ところで、向こうの代表選びはどうなったんでしょうね」

「気になるのなら見に行かれてはいかがでしょう。こちらの後始末はやっておきますよ」

「じゃあ、ごめんなさい。ちょっと見に行ってきます」

「場所はおわかりですか?」

「はい、午前中はそこで先生と戦ってましたから!」

「まあ……」


 私は校長さまに頭を下げ、お姉ちゃんやジュストくんのいる城内闘技場へと向かった。

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