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閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
第8章 異界突入 - battle of another world -
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495 優雅な船旅

 ベラお姉ちゃんの本名はベレッツァ。

 うちの隣に住んでいた、二つ年上のお姉さん。


 輝士さまの家系で、お爺さんもご両親も元輝士団。

 去年、南フィリア学園を卒業して、今年から……って、もう去年か。

 だいたい一年くらい前から、王都エテルノで正式な輝士として王宮に勤めてる。


 学生時代の成績は学年トップ。

 剣闘部ではナータよりもさらにすごい。

 三年連続で二国大会優勝を果たした伝説級の人。


 輝士になるために生まれてきたような、すごい人物なのです。

 でも私にとっては、優しくて頼りになる、大好きな隣のお姉ちゃん!


「いま暇なの? ゆっくり話できる? よかったらお茶でも飲みながら話そうよ!」

「一応、仕事中なんだが……護衛対象と親睦を深めるのは任務を逸脱しているとは言わないだろう。是非ともご相伴に預かろう」


 遠回しな言い方だけど「いいよ」ってことだよね。


「わーい。それじゃ、どうぞっ」

「お邪魔する。ああ、鎧は脱がせてもらうぞ」


 鉄仮面を外した後も、ベラお姉ちゃんは全身に鋼鉄の鎧を身に纏ったままだった。

 よくあんな重そうなもの着て歩けるなあ。


「あ、良ければ手伝いますが……」


 遠慮がちに尋ねるジュストくん。

 そんな彼をベラお姉ちゃんは睨みつける。


「結構だ。余計な真似はするな」

「は、はい……」


 あ、あれ?


 お姉ちゃんは器用に一人で鎧を外していく。

 地面に置いた感じから、かなり重いのは間違いない。

 確かにこれじゃ、一人で着るのも脱ぐのもすごく難しそう。


 でも、鎧とはいえ、女の子の着替えを男の人が手伝うのは良くないね。

 だからお姉ちゃんはジュストくんを睨んだんだよね。

 マナーの問題だよね。


「さて……」


 身軽になったお姉ちゃんは改めてジュストくんの方を向いた。


「そこのお前、鎧を武具保管室に運んでおけ」


 あれ。


「え、あ、はい」

「それが終わったら、船長室に行って護衛任務の引き継ぎ連絡しろ。それから貴様の担当は上階甲板だ。ゲスト扱いとは言え王国所属の見習い輝士、休んでいる暇があると思うなよ?」

「……ええと」

「返事はどうした、見習い輝士!」

「はい! 了解しました!」


 ジュストくんはお姉ちゃんが脱いだ鎧をまとめると、そのまま重そうな鎧を両腕に抱え、慌てて部屋から出て行った。


 あれぇ……?

 ジュストくんも一緒にお茶したいと思ってたんだけどなぁ。


「さて、邪魔者もいなくなったことだし、ルーチェの話を聞きながらゆっくりさせてもらおうかな」


 振り向いたお姉ちゃんはいつもの優しい表情。

 一瞬前までの鬼上官の気配は微塵も残ってなかった。


 そりゃ、ジュストくんは、見習い輝士かもしれないけど……

 英雄王さまの息子で、護衛対象だって言ってたのに。


 お姉ちゃん、ジュストくんのこと、嫌いってわけじゃないよね?




   ※


 船旅はつづくよどこまでも。

 この船に乗っておよそ五日が過ぎました。

 豪華な客室で、のほほん優雅に過ごすのもそろそろ飽きてきた。


 通路を歩いていると、給仕さんたちが「まもなく新代エインシャント神国に到着する」って話しているのが聞こえてきた。


「もうすぐ到着するんですか?」

「ええ。明日の昼前には到着する予定ですわ」


 給仕メイドさんはニッコリ微笑みながら言った


 船は大陸近くの近海をずーっと海岸線沿いに航海していた。

 陸地の景色を見てれば、どれくらいの速さで進んでいるのかもよくわかる。


 王都エテルノを出航した船はしばらく陸地から離れ、途中の島で補給をしてから遠洋を横断。

 その後は再び陸地に接近し、ミドワルト大陸南部を西周りでぐるっと巡った。

 マール海洋王国の領土を過ぎたら北上してプロスパー島へ。


 途中で航海士さんに聞いたところ、そんな感じのルートを通っているらしい。


 船室でじっとしてるのもつまらないので、いろいろと歩き回ってみた。

 船の中は広く、遊技場なんかもあってビックリしたよ。

 いろんな人とも仲良くなったしね。


 ただ、どこに行ってもVIP待遇なのは、ちょっと居心地悪かったけど……

 みんなとってもいい人ばっかりだったのはよかったね。


 あ、でも。

 セアンス共和国からの客人っていう設定は、みんな口には出さないけど嘘ってわかってるみたい。

 私はベラお姉ちゃんの知り合いってことで良くしてもらってる部分が大きい。


 あとこれは全然知らなかったんだけど、ベラお姉ちゃん、なんかすごいことになってるみたいだよ。


 偉大なる天輝士(グランデカバリエレ)、だっけ?

 ファーゼブル王国における最高の輝士の称号。

 それに任命された後は、輝士団から独立した部隊を設立して、大活躍してたんだって。


 でも、久しぶりにゆっくりお話したお姉ちゃんは、昔とぜんぜん変わってなかった。


 一日に一時間くらいは一緒にお茶したりゆっくり時間を取れる。

 けど航海中は基本的に輝士のお仕事であちこち駆け回って忙しいみたい。

 いろんな人に呼ばれては会議に参加したり、風話室で誰かと連絡を取り合ったりしてた。


 お仕事の邪魔はしちゃいけない。

 私は大人しく船の中を見て回って時間を潰した。

 ともあれ、明日の午後には新代エインシャント神国に着くわけで。


 空飛ぶ絨毯ほどデタラメに速くはないけど、たった六日で到着しちゃうとかさ。

 なんなんだろうね。

 私たちの半年間の旅は何だったんだろうって考えちゃうよね。

 まあエヴィルと戦ったり、いろいろ寄り道もしてたのも時間がかかった理由だけど。


 ところで、この数日間ぜんぜんジュストくんを見かけないんだけど、どこに行ったんだろ?

 なんだかベラお姉ちゃんにかなりの量の仕事を頼まれてたっぽいけど。


「あ」


 とか考えながら歩いていたら、前方にジュストくんの姿が見えた。

 重そうな箱を二つ抱えながら歩いてる。


「おーい」

「あ、ルー」


 ジュストくんも私に気付いたみたい。

 箱を持ったままこっちに近づいてくる。


「お仕事中?」

「うん。後はこれを倉庫に運んだら終わりだけど」

「手伝うよ」

「重いし、大丈夫だよ」

「いいから」


 重ねた箱の小さい方を手にとって、ジュストくんの隣に並んだ。

 う、意外と重い……


「ありがとう」

「ど、どういたしまして」


 そのまま二人で荷物を倉庫まで運んだ。

 ジュストくんはこの後は特に用もないみたい。

 なので、屋外テラスにでも誘ってみることにしたよ。

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