492 ▽マーブル模様の空の下
その部屋には明かりがなかった。
小さく開いた窓から差し込む赤紫色の光。
それだけが部屋の中の様子をおぼろげに映し出す。
巨大な玉座があった。
腰掛ける者の足下に光が射す。
その人物は全身に鋼鉄の鎧を着込んでいるようだった。
鎧には一切の切れ目がなく、全体が異様に浅黒い。
体躯は巨大であった。
暗闇に紛れ全容を伺い知ることはできない。
しかし間違いなく、並の大人が見上げるほどに大きい。
一言で言えば異様。
あるいは、異形。
「……いよいよ、か」
玉座の人物が呟く。
その声はまるで闇の中から生まれたかのよう。
およそ生物の発するものとは思えない、無機質な響きであった。
玉座から立ち上がる。
歩くたびガチャガチャと音が鳴る。
金属同士が触れあっているような不快な音だ。
窓枠に立ち、外の景色を眺める。
「間もなく機は熟す……しかし、ヒトは最後の抵抗を試みるだろう」
窓の外に見えるのは、どこまでも続く夜の海のような深淵の森。
そして、決して混ざり合わさることのない、赤と黒と紫のマーブル模様の空。
巨大なシルエットは人ではなかった。
鎧に見えたのは、異様な形に盛り上がった筋肉。
頭には巨大な角が生え、眼窩には黒と赤の光が宿っている。
「終わらせよう。今度こそ、我が手ですべてを……」




