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閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
第7章 旅の終わり - divine kingdom -
451/800

451 再び、白の聖城へ

 翌朝。

 目が覚めて部屋の窓を開ける。

 ジュストくんが裏庭で素振りをしているのが見えた。


 熱心だなぁ。

 きっと今日のテストも気合い入っているんだろうな。

 私も昨日は結局すぐに寝付けたし、寂しさも引きずってはいない。

 ちょっぴりホームシックになっちゃっただけ。


 ……なんだけど、やっぱり試験はちょっと嫌。

 でも、ジュストくんがあんな真剣なのに、私だけ行かないわけにもいかないだろうなあ。

 まあ白の生徒は他にもいっぱいいるみたいだし、結果として認められなかったら仕方ないよね?


 我ながらずいぶんといい加減な気持ちで旅してきたって思う。

 半年間もかけてミドワルトを横断したのに着いた途端にやる気なくすなんて。

 逆に考えれば、仲間と過ごす旅の日々そのものが楽しかったってことなんだろうな。


 よおし、気合いを入れて、あとちょっとがんばろう!


「いってらっしゃい」


 ごはんを食べて、身だしなみを整えて、いよいよ出発。

 今日は一緒に行けないフレスがホテルのロビーで見送ってくれた。


「いってきます。一緒に連れていけなくてゴメンね」

「いいえ。今日は一人で神都を探索してみますから、ルーチェさんもテストがんばってくださいね」


 彼女の純粋な応援の言葉に、私は苦笑いする。


「できるだけがんばるよ」


 準備を整えたジュストくんがやってきた。


「お待たせ」


 ジュストくんは高揚感に満ちあふれ、瞳は爛々と輝いている。

 いつものチェーンメイルや左手のガードもぴかぴかに磨いてあった。


「男が女の子より準備に時間をかけるってどうなの?」

「ごめんごめん」


 フレスが呆れたように突っかかると、ジュストくんはさわやかに謝った。


「遅くなって悪かったね、ルー」

「ううん、私はだいじょうぶだよ」


 ジュストくんは今日のテストに対して、私なんかよりずっと真摯に向き合っているからね。


「それじゃ、行こうか」

「うん」


 私たちはフレスに手を振ってホテルを後にする。

 目的の場所は東の方を見ればここからでもハッキリと頭を覗かせる。

 巨大な白亜の宮殿、神都の中心。

 白の聖城へ。




   ※


「どうぞ、こちらへ」


 跳ね橋を渡って門番の人に話しかける。

 昨日もらった数字の紙を見せると、あっさりと中に入れてもらえた。

 巨大なロビーの隅っこにある、無駄に豪華な椅子に腰掛けて、しばらく待つ。


 黒いタキシードに身を包んだ若い男性が迎えにやってきた。


「お待たせいたしました。白の生徒、ジュスティツァ様とルーチェ様でございますね?」

「はい」

「では、こちらに」


 その人について廊下を歩く。

 道幅はとても広く、廊下っていうより縦にものすごく長い広間って感じ。

 そのわりに彫刻だとか絵画だとか、そういう飾りっ気は全くなくて、等間隔にドアと輝光灯が並んでるだけで殺風景。

 壁面や床の石はのぞき込めば顔が映るくらい綺麗に磨かれている。


 全体的に真っ白な空間。

 さすが白の聖城。

 っていうか。


「どれくらい歩くんですか?」


 たぶんもう、五分以上歩いてるんだけど……

 ひたすら変わらない景色もあって、そろそろ疲れてきた。


「まもなくです。こちらへ」


 そして男の人はあるドアの前で止まった。

 これまでいくつも通り過ぎた他のドアとほとんど変わらない木製の戸。

 特に何も書いてないけど、これだけ部屋がある中からどうやって見分けてるんだろう。

 もしかして歩きながら数えてたのかな。


 私たちは言われるまま部屋の中に入る。

 中は想像していたような個室じゃなかった。


 ものすごく広い部屋だ。

 中には三十人くらいの人がいる。

 座って本を読んでいる人もいれば、武器の手入れをしている人もいる。


 ほとんどは二十代くらいの若い人。

 だけど醸し出す空気は誰もがそれぞれ独特。

 この人たちが何物なのか、説明なしでもすぐにわかる。


「白の生徒の方々には、ここでしばらく待機していただきます」


 タキシードさんがそう言って扉を閉めた。

 やっぱり、ここにいる人たちはみんな白の生徒なんだ。


「えっと、どうしよっか」

「ビクビクしていてもしかたないよ。しばらく待たせてもらおう」


 ジュストくんは落ち着いた様子で近くの長椅子に腰掛けたので、私も隣に座る。


 とくにすることもないし、なんだかおしゃべりをするような雰囲気でもない。

 ぶらぶらと足を動かしたりしながら時間が過ぎるのを待つ。


 そう言えば彼と二人っきりになるのって久しぶり。

 みんないなくなっちゃったからなぁ。

 もうホテルに戻っても、仲間はフレスしか残ってないし。


 何となくまたしんみりした気分になっていると、見覚えのある人物に話しかけられた。


「ちっ、なんだ。懲りもせず来やがったのか」


 顔を上げると、スチームの嫌らしく歪んだ顔が飛び込んできた。

 うわあ、そういえばコイツがいること忘れてたよ。

 そりゃいるよね、白の生徒なんだもん。


「身の程をわきまえないやつは早死にするだけだって学べなかったのか? 弱いやつは大人しく隅で震えているのが似合ってるんだよ。愚か者をしっかり教育してやれなかったのは実に残念だ」

「ちょっ……」


 あまりの暴言に抗議しようとした私を、ジュストくんが手で制する。


「身の程をわきまえない愚か者がどっちか、すぐにわかるさ」

「吠えたな。クソガキが」


 スチームは露骨に嫌そうな顔をして、


「試験の内容次第だが……その言葉、きっと後悔することになるぜ」


 舌打ちを残して去って行く。

 ぷぷっ、負け惜しみにしか聞こえないね!


「あんなやつと揉める必要はないよ」


 さすがジュストくん。

 嫌なやつにも冷静に対処できるってすごい。


「止めてくれてありがとう」

「ううん。それより今はテストに集中しなきゃ」


 そのテストっていうのもどんなものかわからないんだよね。

 あの先生が考えることなら、一筋縄じゃいかないだろうけど……


 その後は私たちに話しかけてくる人もいなかった。

 というか、喋っている人自体ほとんどいない。

 やっぱりみんな緊張しているみたい。


 例外といえば、あちこちをウロウロしながら、近くの人に話しかけては無視され続けているスチームくらい。

 何やってんだろあいつ。


 というか、二人組なのって私たちくらいで、後は個人で来てる人ばっかりみたい。

 みんながみんな、周りすべては敵だっていうような雰囲気を出している。


 そして、一時間くらい経った頃。

 さっきのタキシードの人が軽鎧を来た若い男の人を伴って戻って来た。


「全員が集まりました。移動しますので、ついてきてください」


 つまり、あの軽鎧の人が最後の白の生徒みたい。

 ……あれ。そのわりには、少なくない?


 ひい、ふう、みい。

 この部屋にいるのは、全部で三十人とちょっと。

 私の番号がちょうど五十番だから、あと二十人はいないとおかしいはずなのに。

 そもそも白の生徒って一〇〇人くらいいるって言ってなかったっけ?


 タキシードさんの後に続いて廊下に出て行く白の生徒たち。

 私たちはドアに近い所に座っていたんだけど、出口に人が殺到しちゃったので、人が減るのを待ってから立ち上がった。


「なあおい」


 と、最後に残ったスチームが話しかけてきた。


「無視して行こう、ルー」


 ジュストくんはさっさと廊下に出てしまった。

 私も黙ってその後に続く。


「不思議に思わねえか? あんたらの番号は五十近いのに、ここに集まった白の生徒が三十二人しかいないってことがよ」

「別に」


 私は歩きながら目も合わせずに短く答えた。

 本当はちょっと気になったけど、こいつと話すと嫌な気分になるし。


 スチームは構わずしゃべり続ける。


「昨日も言ったがテストはもう始まってるんだよ。最初にこの神都に着いたときから、自主選別っていう名の蹴落とし合いがな」

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