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閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
第2章 盗賊団 - black stranger & silver prince -
45/800

45 嫌なヤツ!

 少年は拳を握って男に突き出した。


「なんだ、その剣は飾りか――」


 男が口を開いた瞬間、少年は地面を蹴った。

 疾風のように駆け少年の拳が男の顔にめりこむ。


 直撃。

 男が地面に尻餅を突いた。

 その姿を確認するまでもなく少年はあっけにとられている他の二人を手招きで挑発する。

 あからさまにバカにされた男たちは怒りもあらわに少年に飛び掛かった。


「ナメんなオラァ!」

「簀巻きにして沈めてやんよ!」


 乱闘が始まった。

 いくらなんでも三対一なんて……という心配は一瞬のこと。

 少年は男たちの攻撃を避ける。避ける。避ける。

 桁違いに素早い動きで完全に翻弄していた。


「このガキ、ちょこまかと!」


 背の低い男が叫ぶ。

 と同時に少年の姿が視界から消えた。

 次の瞬間、別の男が前のめりに倒れる。

 背後に回った少年の裏拳が後頭部に炸裂した。


 少年はさらに身を翻し……うわっ。

 豪快に足を振り下ろした。

 倒れた男の後頭部に。


 さらにトドメの一撃とばかりに背中にパンチ。

 低いうめき声を上げて男は目をむいて気絶した。

 背骨折れた? 

 い、いくらなんでも、ひどくない?


「よっ」


 呆気に取られている背の低い男。

 その背中に少年が飛び掛り容赦のない蹴りを浴びせる。

 男は一瞬速く正気に戻って紙一重で蹴りをかわした。

 けれど少年はその動きに合わせて体を倒れ込ませながら男の腕を掴んだ。


 そのまま力任せに地面に倒れ込む。

 男の腕は間接とは逆の方向に曲がったまま――

 ボギリ。嫌な音がした。


「ぎゃあっ!」


 少年は叫ぶ男の顔面を躊躇なく蹴り付ける。

 そのまま男は動かなくなった。


「なるほど拳法使いか……ガキとは言え侮れんな」


 バンダナの男が少年との間合いを測りつつ近づく。

 落ち着いた口調とは裏腹に額には脂汗が滲んでいる。

 男は腰にぶら提げていた剣を抜いた。

 大きな両刃の剣。

 武器に詳しくない私にも本物だとわかる。

 野次馬の中から悲鳴が上がる。


「だが元王宮輝士である俺を他の二人と同じと思うなよ」

「勘違いしてんなよ。そっちに合わせてやったんだよ」


 少年が苛立たしげな声を上げる。

 刃を向けられて恐れたわけでも元王宮輝士という相手の素性に驚いたわけでもなさそうだ。

 単純に自慢げな言葉が気に障ったのか、少年は鞘ごと剣を腰の紐から外して左手で鍔元を握り締める。


「ほざけ。剣術で俺に勝てると思うなよ」


 二人がゆっくりと互いの距離を詰める。

 少年はまだ剣を抜かない。

 元王宮輝士という男は剣を構えたまま油断なく少年に視線を向けている。

 私は息を飲んだ。

 見物人も黙って二人の様子を遠巻きに見ていた。


 カキン。

 乾いた音が響いた。

 瞬きするほどの一瞬。

 ダッシュで相手との距離を詰めた少年がすれ違いざまに剣を抜き放った。

 その一撃が敵の武器を半ばから絶ち折った。


「な……」

「――っ」


 小声で何かを呟きながら身を翻し呆然とする男のこめかみを柄で打ち付ける。

 自称元王宮輝士の男が地面に倒れ込むのに合わせて少年はトドメの蹴りを顔面にお見舞いした。

 口から泡を吹き自称元王宮輝士の男は完全に気を失ったようだ。


 すごい、強い。


 わずか十秒程度の出来事だった。

 少年はあっという間に彼より二周りは大きい男三人を打ち倒してしまった。

 その圧倒的な強さと私のピンチに現れたタイミング。

 まるで隔絶街で私を助けてくれた時のジュストくんを思い出させる。

 けどこの人……


「は、威張ってた割にはたいしたことねえの」


 倒れた敵のお腹を足蹴にしながら剣を鞘に戻す。

 圧倒的に強いくせにまったく手加減が無い。

 しかも闘い方メチャクチャ。

 どっちかって言うと相手が気の毒になるくらい。


 少年は地面にへたりこんでいる私を見ようともせず背を向けた。

 私は慌てて立ち上がって少年の背に声をかけた。


「あ、あのっ」


 呼んでも振り返えってくれない。

 私は慌てて駆け寄り黒髪の下の背中を軽く叩いた。


「たっ、助けてくれてありがとうございましたっ」


 ぺこり。

 何であれ助けてもらったのは事実。

 前みたいにタイミングを逃してしまう前にちゃんとお礼を言っておかないと。

 顔を上げると今度こそ少年が振り返った。

 近くで見ると思ったより幼い、結構カワイイ顔立ちだ。

 剣士らしく引き締めた表情がかすかに緩む。ゆっくりと唇が開いて――


「ばぁか」


 ……え?


「自分の力もわきまえずに勝てない相手にケンカ売ってんじゃねーよ」


 にくらしい表情で素っ気なく言い放つ。

 ちょ、ちょっとちょっと。

 呆気に取られている私の脇をすり抜けて何人かの野次馬が集まってきた。


「おいやるなボウズ!」

「強えじゃねえか。あんた旅の剣士さんかい?」

「よくやってくれたよ。あいつらにはみんな迷惑してたんだ」


 口々にはやし立てる野次馬たち。

 けれど少年の対応は冷たかった。


「お前らもうるせーよ。あれくらいの事でいちいち騒ぐな」


 少年の冷たい反応に騒いでいた野次馬たちは一斉に静まり返った。


「大体お前らが情けねーからあんな馬鹿どもが調子に乗るんだろ」

「ちょ、ちょっとあなた……」

「これだけ人数がいてあんなチンピラ共も追い払えねーのかよ。おかげで余計な体力使っちまったぜ」


 この子……

 悪い奴らが暴れているのを見かねて助けに来てくれたってわけじゃなかったらしい。

 本人の言ったとおり道の真ん中で騒いでいるのがジャマなだけ……


「メシ前に余計な運動したくなかったのによ。それとも礼に何か食わせてくれんのか?」


 少年の目線は私とほとんど同じくらい。

 どう見ても同じ年か年下なのにずいぶんと偉そうにものを言う。


「……いま一文無しなんです」


 助けてもらったらお礼をするのは筋だといっても、騙されて有り金をすべて盗まれてしまった私にはその術がない。

 だからせめて誠意を込めてお礼の言葉を言ったのにさ。


「じゃあいいよ。邪魔だからさっさと家に帰れ」


 むか。


「な、なによっ。そういう言い方はないでしょ」


 いくら助けてもらった恩があるっていってもさすがに言いすぎだと思う!


「オマエみたいなガキははっきり言わねーと何度も同じこと繰り返すだろ。いいか、これに懲りたら二度とバカなマネすんじゃねーぞ」


 た、確かにこんなことこれで何回目かわかんないけどっ。


「ガキってなによっ。あなただって子どもじゃない」

「ああ? オレはもう十六だ」

「ほーらやっぱり! 私の方が年上だもんね! 私は十七なんだから!」

「は? 嘘つけ。見えねーよ」

「ば、ばか!」


 あ、言っちゃった。

 けどこの子が悪いんだもん!


「恩人に向ってバカだと?」

「た、助けたんじゃないんでしょ。勝手に暴れただけだって言ったんじゃない」

「結果的に助かったのはオレのおかげだろ。元はといえばお前がやつらに絡んだのが悪いんじゃねーか」

「違うし! 小さい子がいじめられてたから助けようとしたんだし!」

「それで自分が狙わてちゃ世話ねえよ。弱いんだからもっと考えて行動しろ」

「弱くないもんっ。私、本当はすごく強いんだから。あなたが余計なことしなかったら今頃あの人たちをやっつけてたんだからっ」

「じゃあ見せてみろよ。その強さってヤツを」

「わ、私は無意味な暴力は振るわないんだっ」

「はいはい。言ってろ」


 まったく信じてない! 

 いや無理もないけどさ……


「それにあなたやりすぎだよっ。気絶した相手にしつこくぶったり蹴ったりしてさ! むしろあの人たちが可哀想! あやまれ、私を襲った人にあやまれ!」

「……お前ちゃんと考えて喋ってるか?」


 ああっ、バカにしてるっ!

 うう……自分でも言ってて訳わかんなくなってきたぞ。

 私が言葉に詰まっていると少年はこれでもかというくらいに憎たらしい顔でバカにしてきた。


「ばーか、ばーか」

「がるるるる……」


 なによやっぱり子どもじゃないっ。

 なんなのこの子。


「あの、もし」


 横から恰幅のいいおじさんが私たちの間に入ってきた。


「なんだよ」


 少年はぞんざいにそちらを振り向く。


「わたくしそこの角の食堂を経営しています。もしよろしければ息子を助けていただいたお礼をさせていただきたいのですが」


 おじさんの服の裾をぎゅっと掴んでいる少年がいる。

 さっき男たちに囲まれていた子だった。

 赤くなった目を擦っているけれどどこも怪我はないみたい。


「狼雷団には皆困り果てていたのです。息子だけでなくあなたは町の恩人です」


 そうお礼を言ったおじさんは男の子ともども深く頭を下げた。


「食堂? メシでも食わせてくれんのか?」

「お望みでしたら。できる限りのおもてなしをさせていただきます」

「そりゃいいや!」


 少年は掌を帰したように上機嫌になった。

 おじさんは満足そうに頷き私の方を見た。


「もしよろしければそちらの方もどうぞ。危険を顧みずに息子のために飛び出してくださったこと、とても感謝しています」

「結構です!」


 せっかくのお誘いだけどこいつと一緒に食事なんかしたくない。


「なんだよ食わなきゃいつまで経ってもガキのままだぞ」

「うるさい、ばか!」


 いちいち悪口言うな! 

 怒る私を鼻で笑うと少年はさっさと食堂の方へ歩いていってしまった。

 なんて勝手なヤツ!

 ふん、いいもん。どうせ私は何もできませんでしたからね!


「すみません。本当にありがとうございました」


 おじさんは最後にもう一度私にお礼を言って急いで少年の後を追いかけて行った。

 服を掴んでいた子もキョロキョロと私と父親を見比べて結局は後に続く。

 けれど去っていく間際、


「おねえちゃん……ありがと」


 ぺこりと頭を下げて頼りなさげに微笑んだんだ。

 はうぅ、カワイイっ。その笑顔が最高のお礼だよ。


「なんだやっぱり腹減ってるのか?」


 ……それと引き換えコイツのいやみったらしいこと!

 すでにかなりの距離が離れているのに大声でそんなことを言う。


 私は言い返してやった。


「ばぁか!」

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