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閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
6.5章 都市騒乱 - figlia city crisis -
423/800

423 ▽市庁舎占拠

 少年たちが市役所を占拠してから、二時間ほどが過ぎた頃。

 六階建ての建物の屋上に一人の輝攻戦士が降り立った。


 レガンテである。

 フィリア市で反乱が起こったという情報を聞いた彼は、元老院の爺共の制止を振り切って王宮を抜けだし、飛翔の術を使って文字通りに飛んで戻ってきたのだ。


 カギのかかった屋上ドアを強引に蹴破って建物の中に侵入する。


「おっ。団長どの、ご苦労さまです!」

「フォルテはどこだ」


 歪な敬礼をしてくる少年の一人を捕まえ、フォルテの居場所を聞き出す。


「な、なんなんすか。隊長ならそこの部屋にいますよ」


 市長室と書かれたその部屋に飛び込むなり、レガンテは怒りの声を上げた。


「フォルテ! これはどういうことだ!?」

「あっ、レガンテさん! 待ってましたよ!」


 本来は市長の机があるべき場所には、少年たちに持ち込まれた、どでかいソファが鎮座していた。


 そこでフォルテは偉そうにふんぞり返っていた。

 彼はレガンテの顔を見るなり、満面の笑みを浮かべて立ち上がった。


「どうぞレガンテさん……じゃなかった、王様っ。今はこんな席しか用意できませんけどっ」


 慇懃に頭を下げ、自分が今まで座っていたソファを勧めてくる。

 レガンテは彼の胸倉を掴み上げた。


「質問に答えろ、なぜ勝手にこんなマネをした!」


 こんな事とは、もちろん市役所の占拠である。


「いやいや! 勝手に行動を起こしたのはごめんなさい! でも、レガンテさんを出し抜く気なんて、これっぽっちもありませんから! おれたちは単に露払いをさせてもらっただけですよ。新たなフィリア王国の王様は、レガンテさんに決まってますからっ」

「王国……だと……?」

「はいっ。フィリア市を独立させて、王様になるのが夢だったんですよね? いやあ、おれ驚いちゃいましたよ。まさかそんなすごい計画を練っていたなんて。あ、おれは大臣にしてもらえれば、それで満足ですから」


 馬鹿な。

 そんな革命の真似事が成功するはずがない。


 フィリア市は輝工都市アジールにしては内向きの衛兵隊が弱い。

 内側から混乱に陥らせれば、一時的に市政を麻痺させることはできるだろう。


 だが、すぐに王都から輝士団がやってくる。

 あっという間に武力鎮圧されるに決まっている。


 廊下ですれ違った少年たちの態度を見るに、フォルテだけでなく他のやつらも、同じようにフィリア市独立計画とかいうふざけた妄言を信じているようだ。


 一体誰がこんな事を……

 と考えて、答えは一つしかない事に気づく。


 レティだ。

 彼女がフォルテたちにこんなマネをさせた。

 都合の良いことに、レガンテが王宮に呼び出され、留守の間を狙って。

 だとすると、元老院に召喚されたのも彼女の差し金か。


 彼女はレガンテの真の目的を知っていたはずだ。

 協力の見返りとして、フィリア市を与えると約束をしていた。

 利害一致したことですっかり安心していたが、完全に出し抜かれた形になった。


 だが、なぜ彼女はこんな事をさせた?

 このタイミングの蜂起は互いにとってなんの利点もない。

 このままではフィリア市を支配するどころか、数時間後にはすべての手駒を失うだけだ。


 輝鋼札と呼ばれるカードはレティの力で作ったものである。

 なので、他人に分け与えられる力の絶対量は最初から決まっている。

 フォルテのような輝攻戦士と同等の力を持つ兵士を、無限に作り出せるわけではないのだ。


「まだ安心するのは早いよ、フォルテ君」


 部屋の隅で壁により掛かっていたターニャ。

 彼女は少しも慌てた様子なくこちらに近づいてくる。


「次は独立を認めない王都が輝士団を送り込んでくる。つまり、ここからが本番だよ。レガンテ国王陛下のもとで、みんなが心を一つにして戦わなきゃ勝ち目はない。大変だけど頑張ろう。戴冠の儀や任官式は自由を勝ち取った後でゆっくりやればいいよ」

「ターニャ、お前……!」


 以前からその兆候は見られたが、この少女は完全に頭のネジが飛んでいる。

 ターニャは他の少年たちと違って現状を正しく理解しているのだろう。

 その上でフォルテを煽り、レガンテの退路を塞ごうとしている。


 流れに逆らえば、このまま飲み込まれ、すべて台無しになるぞと。


「レティの差し金か。それとも、お前自身が何かを企んでいるのか」

「国王陛下の仰っている意味が理解できかねます。私は陛下の崇高なる理想に共感し、フォルテ君と一緒に新王国にこの命を賭けると誓っていますわ」


 ターニャは悠然と微笑んだ。

 フォルテが頼もしそうに彼女を見上げ頷いた。


「それに、今は絶好のチャンスなんですよ。独立阻止にはグローリア部隊が先行してやって来るでしょう。今代の天輝士を倒し、彼女が所有する王家に伝わる魔剣を奪えば、新たな王朝を建てる際の正当性を喧伝できます。この戦争がただの反乱ではなく内部分裂によるものだと知れば、大国に不満を持つ周辺諸国も我らに付く可能性は高いでしょう」


 この少女はそこまで計算して……

 いや、内情を知っているのか。


 ターニャの言うことにも一理ある。

 というか反乱が周知の事実となった今、危険な賭けだがそれしかない。

 もっとも、彼女の言うように上手くいく保障など、どこにも存在しないのだが……


 もはや後には引けない。

 覚悟を決めるしかなかった。


「わかった。ならば王として、諸君らに告ぐ。ただちに敵を迎え撃つための戦闘準備をしろ。人質は一カ所に集めておけ。我らはこれよりファーゼブル輝士団を迎え撃つ!」

『お、おおおーっ!』


 レガンテが号令をかけると、廊下から室内の様子を見ていた少年たちが怒号のような歓声を上げた。


 この年になってガキども相手に王様ごっことは。

 なぜ、こんな事になってしまったのだ……?




   ※


 嘘だろう……?

 最初に報告を受けた時、ベラはそれを信じられなかった。


 遠征から戻るなりベラは喚問室に呼び出された。

 そして元老院の老人たちから直々にフィリア市の暴徒鎮圧命令を受けた。


 暴動の首謀者はあのレガンテだと言う。


 半信半疑のままグローリア部隊を率いて出撃した。

 フィリア市に近づいたところで、エヴィルの大集団に出くわした。


 そいつらがベラたちを無視してフィリア市に向かっているのを見て、ようやく事態が飲み込めた。


 この事件の裏にはケイオスがいる。

 恐らくはすでにフィリア市に入り込んでいるのだろう。

 そのケイオスがレガンテと協力し、人心を誑かして反乱を起こさせたのだ。


 レガンテが騙されているだけなのか、何らかの事情があって手を貸しているのかはわからない。

 だが、ベラにとってもフィリア市は愛すべき故郷の一つである。

 放っておくことなどできるわけがない。


 すぐにでも街に突入したいが、街を取り囲むエヴィルの集団がそれを妨げている。


 結界が内側から破壊されるのを待っているのだろうか?

 もし暴徒たちが結界を破ってしまえば、フィリア市にこの大群から街を守れる軍備はない。

 王都から輝士団の本隊が応援に駆けつけたとしても、街の被害を食い止めるのは容易ではないだろう。


「くっ……」


 ベラは歯噛みする。

 RC900のアクセルを思いっきり空ぶかしする。

 そして意を決し、クラッチを握り締め、ギアを一速に入れた。


「おいおい隊長さん。何をするつもりだい」


 アビッソが軽い感じで声をかけてくる。

 その口調に反し、彼の表情にも焦りが見えた。


「決まっている。こいつらを突破して、フィリア市内に入るんだ」

「そいつは無茶ってもんだぜ。みろよこの大群。途中で事故るか、立ち往生して囲まれるのがオチだ」

「黙って見ているわけにはいかないだろう……!」


 簡単に殲滅できる数ではない。

 しかし状況は一分一秒を争うのだ。

 こいつらを突破する以外に、街の中に入る方法はない。


「やれやれ……」


 アビッソは呆れたようにため息を吐き、輝動二輪から降りた。


 まさか、怖じ気づいたのか?

 一時撤退などと進言するつもりなら、怒鳴りつけてやろうと思ったが……


 ベラの予想は外れた。

 彼は意外な提案をする。


「なあ隊長さん。あんた、飛んでみる覚悟はあるか?」

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