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閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
6.5章 都市騒乱 - figlia city crisis -
414/800

414 ▽不法侵入

 鍵穴と、本の図解とを見比べながら、針金の曲がりを調整。


 ゆっくりと穴に差し入れる。

 軽く力を込めて右へ回す。

 わずかな抵抗を感じた。


 多少ずらしてもダメ。

 思い切って回転させてみる。

 すると、針金はぐにゃりとねじ曲がってしまった。


「おのれ……」


 またしても失敗か。

 ナータは廊下にぺたりと座り込む。

 そして、未だ開かないトビラを睨みつけた。


 地下ショップで手に入れた鍵開けの本は、丸暗記するほど読み込んだ。

 あらゆるパターンを試したし、技術的にもほぼ完璧なはずだ。


 なのにどうして、この扉……

 ルーちゃんの部屋の鍵は開かないんだ。


 これがエセ技術書なのか?

 いや、そんなはずはないんだ。

 だって学校の金庫の鍵は開いたもの。


「休んでいても仕方ないわね……もう一回チャレンジよ」


 気合を入れなおし、ナータは再び立ち上がる。

 針金を適度な長さでねじり切って、前日に蝋で型取りした鍵穴の型に合わせて曲げる。


「これだけ苦労させられたんだもの。もし開いたら、ぱんつの一枚でも持って帰ってやるわ」

「そんなもの持って帰ってどうするつもりかね」

「そりゃあ、もちろん履いたりかぶったり口に」


 一ミリのズレもなく、正確な鍵型になった針金。

 もはや芸術作品と言ってもいいほどのそれを鍵穴に差し込む。

 ふと気がついて後ろを振り向くと、ナイスミドルな中年男性と目があった。


「きゃああああっ!」


 カバンを引っ掴み、猛ダッシュで廊下を走り、二段飛ばしで階段を駆け降りた。


 靴を履いている暇はない。

 裸足のまま玄関から飛び出す。

 しかし、頭上から降ってきたナイスミドルに行く手を塞がれた。


 胸板におもいっきり顔を打ちつけ、尻もちをついたナータ。

 男性は微笑み混じりに手を差し伸べてきた。


「おやおや。元気なのは良いが、怪我をしたら大変だ」


 もちろん、このナイスミドルの正体をナータは知っていた。

 ルーチェがいなくなって以来、ずっと家に戻っていなかったので失念していたが、ここは彼女一人の家ではないのだ。


「はじめまして、可愛い泥棒さん。私はアルディメント。ルーチェの父です」


 言い訳は不可能。

 たとえ娘の友だちとはいえ、不法侵入が許されるわけがない。


 逮捕、退学、世間からの軽蔑。

 まだ逃げられる。

 いや顔は見られてしまった。

 じゃあ、いっそのことやっちゃう?


 いろんな思考が頭の中を駆け巡る。

 混乱しているナータに、ルーチェ父はこう言った。


「こんなところで立ち話もなんだから、リビングでお茶でもいかがかな?」




   ※


 テーブルの上にはティーカップ。

 そこからは紅茶の上品な香りが漂ってくる。

 喉はからからに乾いていたが、手をつける気にはなれなかった。


「砂糖は何杯くらいが好みかね?」

「あ、えっと、二杯で」

「そんなものかね。まあ、私たちが変わっているのだろうな」


 アルディメント氏はスプーン山盛りの砂糖を五杯も入れ、紅茶の色がほとんど真白になるくらいのミルクを注いだ。


 父娘そろって甘党なのか。

 まあ、カップの中に砂糖の山を作るルーチェに比べればマシか。


 そんなことはどうでもいい。

 なぜこんなことになった。


 ナータは自問するが、もちろん答えは出ない。

 家主が留守の間に家に忍び込んで、あまつさえ娘の部屋の鍵をこじ開けようとしていたのだ

 衛兵に突き出されても文句は言えない状況である。


 なのに、どうして、こんなふうに顔を突き合わせてお茶を飲んでいるのだろう?


「インヴェルナータさん、でいいんだよね」

「あ、はい!」

「君の話は娘からよく聞いているよ。本当に美人だ。年がいもなく見とれてしまいそうだよ」

「あの……」

「ああ、そんなに緊張せず、自分の家だと思ってリラックスしてくれ」


 そんなことできるわけがないが、ルーチェが自分の事を家族に話していたと聞いて、ナータはつい嬉しくなってしまった。


「お、お父様」

「アルディと呼んでくれて構わないよ」

「いえ、あの……すみませんでした」

「ん?」

「その、泥棒をするつもりはなかったんですけど、勝手に家に入ってしまって……」


 不法侵入は言い訳のしようもない犯罪だ。

 アルディ氏は怒ってはいないようだが、まずは謝るのが筋だろう。


「なあに、気にしないでくれ。毎日のように掃除までしてもらっているんだから、むしろ感謝をしたいくらいだよ」

「え」

「仕事柄どうしても留守がちでね。家政婦代わりと思えば給料を払ってもあげてもいいと思っているよ」

「え、あの。それじゃあたしがここに来てたことは」

「セキュリティだけは厳重にしていてね。敷地内に人が入ると、すぐに職場に警告が来るようになっているんだ。侵入者が怪しい者ならすぐに衛兵が駆け付けるが、娘の友だちならその必要はないだろう。ただ娘の部屋だけは勝手に入ると私が怒られてしまうから絶対に外からでは開かない鍵をかけてあるんだ」


 ナータは椅子から飛び降り、地面に手をついて誠心誠意謝罪した。


「すいませんでした! 毎日勝手に家に入って、本当にすいませんでした!」

「おいおい、止めてくれよ」


 まさか最初からバレていたとは……

 しかも気づかれてることにも気付かず、まだやれると調子に乗ってたなんて。

 もしここが学校の屋上だったなら、今すぐ柵を飛び越えて青空にダイブ(DtB)したい気分だ。


「私は別に犯罪だとも思っていないし、もちろん衛兵に突き出すつもりもない。今日はたまたま帰宅するタイミングが合ったので、少し君とお話しをしたいと思ったのだよ」

「は、はあ」


 顔を上げてアルディ氏を見る。

 彼の表情から邪気は感じられない。

 どこから見ても、人の良さそうなおじ様である。


 不法侵入がバレていたのは焦ったが、考えようによってはチャンスかもしれない。

 ルーチェが戻ってくるまでに、ご家族と親交を温めておく絶好の機会だ。

 ナータは照れ隠しの笑みを浮かべて席に戻った。


「あ、あたしで良ければ、なんなりとお話をさせていただきますワ」

「では、君に会ったら聞きたいと思っていたことがあったんだ」

「なんですか?」


 こうなったら、とことん会話に付き合う覚悟を決めた。

 いただきますを言って紅茶に口をつけ、


「君はうちの娘と付き合っているのかね?」

「ばふぅっ!」


 思いっきり噴き出した。


 紅茶の中身がこぼれて手にかかって死ぬほど熱かったが、なんとかカップを落としてぶちまけるという二次災害だけは防いだ。


「ティッシュなら後ろの棚の上にあるよ」

「げほっ、げっ、すいませっ」


 立ちあがってティッシュを取り、こぼした紅茶をふき取る。


「あ、あの、質問の意味がよくわからなかったんですが……」

「いや、失礼した。質問の仕方が悪かったね」


 悪過ぎだ。

 確かにナータはルーチェのことが好きだ。

 ハッキリ言えば愛しているが、いきなりそんな質問をされるとは思ってもいなかった。


 二人が友人として仲が良いことはクラス中が周知しているが、今の所、そう言う意味でナータの気持ちを知っているのはジルだけである。


 もちろん、本人のルーチェも気づいていない。

 だから、そう、「友だちとして仲がいいのか?」と聞かれただけだ。

 聞き方も紛らわしかったが、そんなふうに受け取ってしまった自分が一番悪い。


 アルディは言葉を少し訂正し、再度ナータに尋ねた。


「君とルーチェは肉体関係を持つほどの仲なのかね?」

「ごぼば!?」


 まるでナータの気持ちに呼応したようにいきなり椅子が割れた。

 半回転して床に頭を打ちつけ、頭上からは紅茶が降ってくる。


「君は面白い特技を持っているね」

「特技じゃないわっ!」


 素早く起き上ってテーブルを叩く。


「あのですね、私はこう見えても女なんですけどっ!」

「見ればわかるよ。君ほど可憐な女性などそうは見かけない」

「お宅の娘さんも女の子ですよね」

「もちろん。小さい頃は一緒に風呂も入っていたしね」


 それは羨ましい……じゃなかった。


「それであたしとルーちゃんがどうしてにくたっ、そういう関係になるんですかっ!」


 口に出そうとしたらものすごく恥ずかしかった。

 真っ赤になるナータに、アルディは温和な笑みを浮かべたまま、


「いやあ、だって君が洗濯機に残っていた娘の○○○を××たり、△に□□だり●りながら★★★で◎◎◎◎とかしてたので、てっきり普段から」

「うわあああああああっ! 脱衣所にまで監視装置がついてるのかこの家はああああっ!」


 今なら死ねると思った。

 いや、死ぬのなら今しかない。

 死による救済しかこの魂が救われる術はないと確信した。

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