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閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
EX5 親友 - luce che illumina l'inverno -
382/800

382 ◆中等学校時代

 翌朝からは、新しい土地での生活が待っていた。


 新しい両親は普通に良い人だった。

 当たり前だけど、新しい学校は知らない子ばかり。

 上流階級の子が多かったフィリア市と違って、悪そうな子もいっぱいいた。


 そんな中、あたしは不思議とうまくやれていた。

 ルーちゃんとの出会いを経て、他人と接することに迷いがなくなったんだろう。


 あたしは積極的に友だちを作っていった。

 不良っぽい子や、運動部系の子たちとも仲良くなった。

 他の輝工都市アジールから来たあたしを、差別するような子は誰もいなかった。


 毎日が驚きの連続だった。

 友達と一緒に毎日遊びまわった。

 イケナイことや、悪いこともたくさんした。

 最初の夏休みが来る頃、あたしはすっかりここでの生活に慣れていた。




   ※


「ねえねえ、二組の○○君と、六組の××君、どっちがカッコイイと思う?」


 中等学校ともなれば、異性に対する感心も強くなる。

 初等学校の頃は、まだ男の子と付き合っていた娘の方が少数派だった。

 なので以前は、そういった話に参加しなくても、不自然に思われることはなかったんだけど……


「インヴェはどーなのよ? 気になる男子とかいないの?」


 あたしの新しい学校での呼び名だ。

 特に気に入ってるわけじゃないけど、否定するほど嫌でもない。


「えー? いるわけないじゃん」


 こういった話をふられると、あたしはいつも苦笑いで誤魔化した。

 周りの娘たちは理想が高いだの、実は影で年上の男性と付き合っているだの、勝手な推測をしていたみたい。


 へんな噂を広められても困るので、仕方なく、


「前の街に、今も好きな人がいるの」


 と言っておいた。

 友だちは興味津々で質問攻めにしてきた。

 だけど、あたしは絶対にそれ以上教えようとしなかった。

 好きな相手が女の子だなんて、言っても信じてもらえないだろうし。


 最初の夏休みに入った。

 あたしは長期休暇を利用して、フィリア市に行こうと思っていた。

 都市間輝動馬車に乗れば一日で行けるし、一週間くらい滞在する予定を立てていた。

 だけど。


「もう、あなたは私たちの娘なの! いつまでも昔の事を引きずるのはやめなさい!」


 新しい親は、あたしがフィリア市へ行くことを絶対に許さなかった。

 その理由は未だによく分からない。


 ひょっとしたら、あたしがそのまま帰って来なくなることを恐れてたのかもしれない。


 今だから、そうやって冷静に考えることはできる。

 だけど、当時のあたしにとって、それは完全に逆効果だった。


 あたしの心はこの件をきっかけに、次第に新しい親たちから離れていった。

 ちょっとしたことで、彼女たちと衝突することが多くなった。

 それでも出て行けと言われたことは一度もなかった。




   ※


 家庭内の折り合いが悪くなるにつれ、あたしは荒れ始めた。

 夜、家に帰るのが嫌で、遅くまで友だちと遊びまわった。


 危険なことも何度かあった。

 カツアゲされそうになったこともある。

 ムカつく男にヤラれそうになったこともある。

 怖いオネエサマ達にヤキを入れられたこともあった。


 初めてのケンカもした。

 原因はハッキリと覚えていない。

 たぶん、些細な理由だったと思う。

 よその学校の不良女と肩がぶつかったとか、そんな理由。


 殴られたから殴り返しただけ。

 怪我をして帰ってきたあたしは、親にも殴られた。

 さすがに殴り返しはしなかったけど、これ以降、まともに口を利くことはなくなった。


 それからあたしは、クラスの悪い娘たちとグループを組んで、夜の街を彷徨い始めた。

 隔絶街を拠点にする少年グループは無数にあり、日ごと好き勝手に騒ぎまくる。

 このフィリオ市の負の名物に、あたしはのめりこんだ。


 本気のケンカも何度もした。

 殺されるかもと思ったこともあった。

 あたしは完全に、不良と呼ばれる人間になっていた。


「あんたたち、今晩こそはケリつけるからね!」

「うおおおおおおおおっ!」


 あたしの所属するレディースグループ、氷女兎ひめと。 

 リーダーの合図をきっかけに、メンバーたちは甲高い鬨の声を上げた。

 あたしは端の方で壁にもたれ掛かり、熱狂する彼女たちを冷めた目で見ていた。


「よっ、元気ないじゃん?」


 友人が声をかけてくる。

 あたしをグループに誘った娘だ。


「別に。大声出すような気分じゃねーだけだよ」

「にしても協調ってもんがあるだろ。斜に構えてると、またヤキ入れられんぞ?」

「なんだぁ? 冬の女王が春の日かぁ?」


 下品な冗談を言いながら、一学年上の先輩が話しに入ってくる。


「そんなんじゃねーっすよ。ヤルときは全力でヤりますから、心配しないでください」

「マジで頼むぜ? お前のおかげもあってここんところ氷女兎は負け無しで来てんだ。この勢いのまま今夜は怪則悪帝かいそくあくてぃのカス共をミナゴロシにすんだからな」

「まかしといてくださいよ。軟弱なヤロウ共なんかにゃ負けませんから」


 睨みつければ凍りつくような瞳。

 そんなものをあたしは持っているらしい。

 ケンカの前、薄く笑うあたしの目が怖いのだそうだ。

 いつしかあたしは「冬の女王」とあだ名される、隔絶街の有名人になっていた。


 ぶっちゃけダサイ二つ名だと思う。

 けど、別に代わりの通り名が欲しい訳でもない。

 ある程度、名が売れることで、無駄なケンカをしなくても済むのはありがたい。

 正直、痛いのは嫌いだ。


 氷女兎はライバルを打ち倒し、隔絶街最大のグループになった。

 あたしはその特攻隊長として毎日ケンカに明け暮れた。

 もはや新しい家には明け方に寝に帰るだけ。

 二年生になっても、この生活は続いた。




   ※


 二年生の二学期。

 最初の進路指導があった。

 そこで、あたしは希望の糸を見つけた。


「外部受験……?」

「ええ、このまま働き始めるより、その方があなたにとっていいと思うの。インヴェルナータさん、飲み込みは早いんだし、もうちょっと真面目に勉強すれば――」

「あぁ!?」

「ひっ! ご、ごめんなさい!」


 大声を出すと、教師は悲鳴を上げて震え上がった。

 別にバカにされたことを怒ったわけじゃない。

 先生が推薦したのは、近所の高等学校。

 そのずっと下にある文字を発見して、思わず叫んだだけだ。


 それはフィリア市にある、聞き覚えのある名前の学校。

 ルーちゃんが憧れ、いつか通いたいって言っていた高等学校。

 そこは主に、富豪層や旧貴族のお嬢様が通う、超一流の進学校だ。

 けど、成績次第では、身分を問わずにどんな人間でも入学できるらしい。


 しかも寮が付属している。

 そこから通うことができる。


「南フィリア学園か……」


 その学校に入学できれば、またあの街に戻れる。

 また、あの子と肩を並べて登校できる。

 僅かに見えた希望の光。

 だけど。


「あ、あの。そっちは凄く難しい学校だから、こっちの方がいいと思うんだけど……」

「難しいって、どんくらいよ?」

「えっと、具体的には……」


 希望は見えたものの、目の前に立ちはだかる壁は異常に高かった。

 上流階級以外、一般枠で募集している外部入学者は、僅かに一〇人だけ。

 南フィリア学園は全国的に極めて人気が高く、倍率は五〇〇倍近くにもなると言う。


 あたしの通っている中等学校は普通の市立。

 ハッキリ言って、それほど優秀な学校じゃない。

 しかも、今のあたしの成績は中の下っていうところだ。


 元からあまり勉強好きじゃない上に、入学してからずっと遊びまわっていた。

 そんなあたしが南フィリア学園に入るなんて、はっきり言って雲を掴むような話だ。


「はっ、ばかばかしい」

「あ、あのっ、まだ話は……」


 現実を受け入れる。

 何を夢見てるんだと、自嘲しながら指導室を出た。

 明日になれば想いは冷めていだろう。

 そう考えて諦めようとした。


「あたしなんかが、お嬢様学校なんて」


 だけど、翌日になっても、その次の日になっても……

 あたしの想いは諦めることを許さなかった。

 望みはまったく消えなかった。


 ある日、あたしは改めて、自分から先生に話しかけた。

 ケンカで先陣を切るよりずっと勇気が必要だった。


「先生、頼みたいことがあるんだけ……あるんですけど」


 あたしは決めた。

 どんなに難しくても、がんばって勉強する。

 そしてその高等学校、南フィリア学園に入ってやろう。


 そして、またルーちゃんと同じ街に住むんだ。

 同じ学校に通って、一緒にあそぶんだ。


 雲を掴んでやろうと思った。

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