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閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
EX4 偉大なる天輝士 - grande cavaliere -
362/800

362 ▽即興の連携

 だが、どうすればいい?

 すでに武器は捨ててしまった。

 拾うそぶりを見せれば、ブルは陛下の喉を掻っ切るだろう。


 奇襲を行おうにも会場内は弓手によって監視されている。

 せめて、協力者の位置と人数さえわかれば……


「で、伝説の剣は観覧席脇の小部屋にある!」


 最も観覧質に近い位置にいるロイヤルガードが叫んだ。


「選別会の終了後、任命の儀で陛下が御使用になるため……」

「言うでないっ!」


 これまで黙っていた国王陛下が声を張り上げた。

 ロイヤルガードは歯を食いしばり、涙を浮かべながら真っ直ぐ陛下の目を見返した。


「陛下の命には代えられません……」


 君主の命と、国の伝統。

 どちらも輝士にとっては重い。

 ましてや国王直属のロイヤルガード。

 果たしてどれだけの葛藤があったことだろうか。


「そうか。やはりここにあったのか」


 ブルはニヤリと笑みを浮かべた。

 その表情にベラはどこか違和感を覚えた。

 それは何ということのない、微細な感覚であるが……


 一つの考えが脳裏に浮かぶ。

 それは次第に形となり、ある仮説にたどり着いた。


「おい、そこのロイヤルガード。お前が行って取ってこい。逆らったら、わかっているな?」

「わ、わかった……」


 刃を持つブルの手に力が篭った……ように見える。

 ロイヤルガードの男は支持された小部屋に入り、一降りの剣を持ってきた。


 チャンスがあるとすれば、このタイミングの他にない。

 だが問題が二つある。


 一つは、会場のどこかにいる協力者の動向が読めないこと。

 一人だけならまだしも、複数、十人以上いる場合は、行動を起こす余地すらない。


 さすがに協力者はさほど多くないとは思う。

 だが、楽観視は絶対にいけない。

 万が一にも失敗は許されない。


 二つ目の問題点は、レガンテとアビッソ。

 この二人の協力を得られるかどうかだ。


 レガンテはともかく、アビッソが協力してくれるだろうか?

 このような危機的状況で、新米の小娘の考えた作戦を素直に聞くとは思えない。


 だが、時間がない。

 このままでは千載一遇のチャンスを見逃すことになる。

 一か八か協力を願い出ようと口を開きかけた時、なんとアビッソの方から話しかけてきた。


「ロイヤルガードが横を通る時、俺が注意をひきつける」

「え……」

「その隙に君が陛下を救出してくれ。隙あらば輝攻戦士化して一気に飛び込むんだ」


 それはベラが彼に頼もうと思っていた行動そのものだった。

 ブルの隙を作り、とにかくまずは陛下を救出する。

 予定した立場とは逆であるが……


「頼めるか?」

「ああ、任せろ」


 最初に動いた者は会場内の協力者に狙われる。

 つまり最も危険の多い役目である。


 アビッソもそれはわかっているのだ。

 だから自ずとその役割を買って出てくれた。

 陰気そうな見た目と裏腹に強い正義感を持っている。


「会場に潜んでいる協力者は恐らく三人だ」


 今度はレガンテの声が耳を打つ。


「さっき矢を放ったやつは真後ろの密集地帯に紛れている。それと左右観客席の最上段に一人ずつ。こちらはかなり距離が離れているな。こいつらの狙撃は俺が命に変えても阻止してやるよ」

「それは確かなのか?」

「間違いない」


 一体どうやってわかったんだ?

 疑問はあるが、現状を考えれば彼の言葉は信用に値するだろう。

 適当な判断で失敗が許される状況ではない。

 彼も責任を持って発言しているはずだ。


「了解した。そちらは任せる」

「あとは敵の注意を……本当に信用していいのだろうな?」


 レガンテがアビッソに疑いの眼差しを向ける。

 作戦の成否はアビッソの働きにかかっていると言っていい。


「この状況で冗談を言うつもりはない」


 アビッソは迷いなく頷いた。

 本人がこう言う以上、今は疑っても仕方がない。

 互いの力量を知らない同士、三人が力を合わせるには、相手の言葉を信頼する他ないのだ。


「陛下の救出は頼むぞ」


 レガンテが言う。

 ベラは頷き、アビッソを見た。

 彼は一瞬だけこちらに視線を向ける。

 そして、輝言を唱え始めた。

 チャンスは一度だけ。




   ※


 伝説の剣を持ったロイヤルガードが特別観覧室へと続く階段を上る。

 彼がブルの目の前に来た、その瞬間。


眩光(ビム・ダズリングル)!」


 アビッソが輝術を使用。

 彼の掌から光線が発生する。

 真っ直ぐ伸びた光が特別観覧席を直射する。


「うおっ!? な、なんだ!?」


 殺傷能力のない目くらましの術である。

 これだけの光量、相手は確実に視界を奪われる。

 食らった本人も何が起きているのかわからなくなるだろう。

 輝攻戦士相手にたいした効果は見込めないが、確実に数秒は動きを止められる。


 同時にアビッソは特別観覧席へと向かって走った。

 あえて輝攻戦士化せず、囮として敵の注意を引き付けるために。


 その隙にベラは輝攻戦士化する。

 捨てた剣を素早く拾い、闘技場外周を大きく迂回するように回り込む。


 矢を射る風切音が聞こえた。

 少し遅れてレガンテの声が響く。


風障壁ウェン・シールド!」


 舞い上がった突風がベラを狙った矢を弾く。

 レガンテが輝術で護ってくれたのだ。


 アビッソが放った光が消える。

 その時にはすでにベラは横の窓から特別観覧室に飛び込んでいた。


「ちくしょう、ナメたマネをっ!」


 目の前には背を向けたブル。

 まずは一気に反逆者を仕留める。

 ベラは敵の背中に疾風のごとき突きを放った。

 が、


「させん!」

「なっ?」


 横から誰かがぶつかってきた。

 予想外の奇襲にベラは足を止めてしまう。


 それは最初に倒されたと思ったロイヤルガードの一人だった。

 まさか、倒されたフリをしていただけだったのか?

 こいつも協力者だったとは――


火矢(イグ・ロー)!」

「うぎゃあっ!」


 即座にベラは作戦を切り替えた。

 輝言を唱え、裏切りの者ロイヤルガードを倒す。

 だが、その時にはすでにブルは視界を取り戻していた。


「貴様ァ……よくも警告を無視したなァ!」


 ブルが怒りの形相でこちらを振り返る。

 人質はまだその腕の中だ。


「もう許さん、国王陛下は殺す!」

「やめろ!」


 ブルはその手に持った刃を振り上げる。

 ベラは即座に飛び出した。

 しかし間に合わない。

 この距離では――


「あ、がっ」

「そこまでだ」


 だが、反逆者の凶刃は陛下を害することはなかった。

 ブルの腕は背後から伸びた手に掴まれ、振り上げた状態で止まっている。


 ベラは目を見張った。

 ブルの背後にいたのは青髪の輝士、アビッソ。

 しかも彼の周囲には輝攻戦士の証である輝粒子が舞っている。


「はな、せっ!」


 ブルは力任せに掴まれた腕を振りほどこうとする。

 しかしアビッソの体はびくともしない。


「があっ!」


 仕方なくブルは陛下を離した。

 武器を左手に持ち替え、アビッソを斬りつけようとする。

 ところが、剣がアビッソのいた空間を薙いだ時、すでに彼は背後に廻っていた。


「遅いよ、準チャンピオン」

「な……」


 同じ輝攻戦士でも、格が違う――

 アビッソの動きはベラの知覚すら越えていた。

 見たところ彼はまだ若く、ベラと比べても三つか四つしか変わらないだろう。


 いったい彼は何者なんだ?

 そんなことを考えながらも、ベラはブルが見せた隙を見逃さなかった。

 陛下がブルの手から離れた瞬間、ふたりの間に飛び込み、国王陛下をその背に庇う。

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