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閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
EX4 偉大なる天輝士 - grande cavaliere -
358/800

358 ▽チャンピオンの意地

「くっ!」


 ヴェルデは剣を縦に構え、飛び込んできた女輝士を迎え撃つ。


 一撃、二撃。

 重く、速い、紛れもない輝攻戦士の攻撃だ。

 三撃目をかろうじて防いだ直後に、ベレッツァの輝力が途切れた。


 しかし、ヴェルデも反撃に移る余裕はない。

 最後の攻撃はこちらの体勢を大きく崩す大振りの一撃だった。 

 輝攻戦士の三連続攻撃後のわずかな隙を、みごとにカバーした形である。


 ベレッツァは距離をとって消耗した輝力を回復させる。

 この若き女輝士は、輝攻戦士としての闘い方を熟知している。

 見切れないほどの動きではないが、この歳でこれだけの使い手が存在するとは……


 ヴェルデ自身、輝攻戦士の力を扱いこなすまで、文字通り血反吐を吐くほどの修練を積んだ。

 それを思えばこのベレッツァがただ者でないことはよくわかる。

 家柄、才能、環境……そのすべてに恵まれたのだろう。


 だが、負けるわけにはいかない。


「うおおっ!」


 今度はヴェルデの方から仕掛けた。

 女相手ということはしばし忘れ、全力で剣を叩きつける。

 並み居る挑戦者たちを悉く圧倒してきた、重戦車と呼ばれる怒涛の連撃を。


 二つの刃がぶつかり合う。

 甲高い音が闘技場の上に響く。

 予想通り、ベレッツァは攻撃を受け止めた。

 おそらく三撃目の後の隙を狙うつもりだろうが……


「うおおおおお!」

「く……」


 ヴェルデの攻撃は三撃目では止まらない。

 通常の輝攻戦士ならば、そこで輝力が途切れてしまう。

 しかし、ヴェルデはあえて二回目で輝力の放出を止めているのだ。


 輝力を纏わない通常攻撃。

 その直後、即座に剣に輝力を込める。

 タイミングをずらしつつ、通常攻撃と輝力を込めた攻撃を交互に打つ。


 理屈は簡単だが、誰にでもできるような技術ではない。

 攻撃を繰り出しながらの輝力コントロールは相当なセンスと修練が必要だ。


 平和な時代、ヴェルデはエヴィルではなく、同じ輝攻戦士と戦うことが多かった。

 これは対輝攻戦士のためにあみ出した、チャンピオンならではの技なのだ。 

 

 このパターンに入ると、相手は防御に徹するしかない。

 迂闊に反撃しようものなら武器を引いた瞬間、先にこちらが斬撃を叩き込む。


 ひたすら攻撃を受け続けていれば、そのうち相手は疲弊する。

 必ずどこかで隙が生じて防御を崩す。

 だが……


「くうう!」


 十度、十一度、十二度……

 剣を振る度に焦りが募るのはヴェルデの方だった。

 この重戦車の攻撃をここまで耐えるとは、何という精神力なのだ。

 ――ならば!


 ヴェルデは口の中で小さく輝言を唱えた。

 剣戟の音にかき消され、その声は相手の耳には届かない。


 多少痛いかもしれんが、恨むなよ。


 十七度目の攻撃を繰り出すと同時に、ヴェルデは唱えていた輝術を解き放つ。


水龍砲(アク・カノーネ)ッ!」

火晶楯(イグ・クリスタッロ)!」


 突然現れた水の塊が、荒れ狂う激流となって敵を闘技場の端まで弾き飛ばす……はずだった。


 超硬度の金属が砕けたような音。

 眩い光が目を灼き、ヴェルデの視界を奪う。

 とっさに後方に飛んだのは事態を理解したからではなく、一種の防衛本能だった。


 ……何が起きた?


 大きく距離を離して剣を構えるヴェルデ。

 その目に映ったのは、五体無事なベレッツァの姿。

 さっきまで打ち合っていた場所から、自分と同じだけの距離を取っている。


「信じられぬ、なんという娘だ……」


 今の一瞬に起こったことを理解し、ヴェルデは戦慄する。


 あの娘も輝術を使ったのだ。

 恐らくはイグ系列の術だったのだろう。

 ヴェルデが使った(アク)系列の術と、ベレッツァの(イグ)系列の術がぶつかり合い、互いに打ち消しあった。


 こちらの攻撃を防ぎつつ、ベレッツァも輝言を唱えていたのだ。

 剣戟の音に紛れて詠唱が聞こえなかったのはお互い様というわけである。

 新米どころか歴戦の輝士の如き戦闘勘だ。


 しかも、双方の輝術の威力は全くの互角だった。

 どちらに対する余波もなく、両者ともダメージは受けていない。


 ともかく一旦仕切り直しである。

 必勝パターンが破られた以上、慎重に敵の能力を見極めなくてはならない。


 天輝士になる前、ヴェルデは相手によって戦術を変えて闘うタイプの輝士だった。

 余計なプライドは捨てて確実に勝ちを狙いに行こう。

 そう考えを切り替えた直後。


 ベレッツァが飛び込んできた。


 地面を強く蹴り、輝力を放出しながらの低空飛行で距離を詰める、輝攻戦士の基本戦術。

 反応が遅れたため、下手に避けようとすれば確実にやられる。

 こちらも正面から受け止めるしかない。


「来い……!」


 ヴェルデが剣を構え、攻撃を受ける直前。

 ベレッツァが小声で何かを呟いていることに気付く。

 それが輝言であると理解したのは、既に術が発動した後だった。


風掌(ウェン・ラフィ)!」

「うおっ!?」


 完全に虚を突かれた形になった。

 強烈な突風がヴェルデの体を襲う。


「ぐっ……」


 ヴェルデは足に輝力を集中してなんとか踏み留まる。

 この輝術、どうやら殺傷能力はないようだ。

 こちらの体勢を崩すのが目的だろう。


 見事な奇襲だったが、目論見が外れたな。

 この風に耐えたら即座に反撃する。

 すでに輝言は唱えている。


 風が弱まってきた。

 ベレッツァは中途半端な距離で足を止めている。

 こちらが踏み留まったため、攻めるか引くか迷っているのだろう。


水龍(アク・カノー)――!」


 ヴェルデが反撃の輝術を放とうとしたその瞬間、周囲の気温が急激に上昇した。


火炎風(イグ・トルナード)


 灼熱の炎がヴェルデの体を包む。

 一体、いつの間に輝言を唱えていた!?

 まったく予想外の連続攻撃に驚愕するヴェルデ。

 ふと、先ほど彼女が第二の選別で披露した術を思い出した。


 ……術の性質変化か!


 最初の突風は確実に攻撃を当てるための第一波。

 本命は動きを封じた後で変化させた炎の術だったのだ。


「ぐぐぐ……っ!」


 その技術もさることながら、全身の輝力を防御に回してなお耐えがたいこの炎の威力。

 ベレッツァは輝攻戦士としてだけでなく、輝術師としての実力も計り知れない。

 果たして耐えることができるか――


「っ!」


 炎が揺らいだ。

 その中から美しき女剣士が現れる。

 疾風のごとき斬撃が、ヴェルデのがら空きの腹を狙っていた。


 考えるより先に体が動いた。

 ありったけの輝力を集中。

 剣の柄で防御する。


 間一髪で女剣士の攻撃を食い止めたが――


光舞桜吹雪(フィオーレ・ディ・チリエージョ)


 光の花びらが舞った。

 これは、第二の選別で見せた……

 鋼鉄すら切り刻む彼女のオリジナル輝術!


「バ、バカなっ!」

閃熱果実(フラル・フルッタ)!」


 性質変化の合図を唱える。

 光の花びらが超高熱の光に変わる。


「うおおおおおおおおおっ!?」


 ヴェルデは武器にすべての輝力を集中させていた。

 身に纏っていた輝粒子は、なすすべもなく消し飛ばされる。

 完全に無防備になったヴェルデの体を、ズタズタに切り刻むはずの、閃熱の花吹雪は――


光花(ル・プリム)


 女輝士の声に反応し、無害なただの光に戻った。


 ヴェルデはその場で膝をついた。

 目の前に銀色の刃が突きつけられる。

 顔を上げると、気迫に満ちた美しき女輝士と視線が交わった。


 剣を振りながら、こうも連続で輝術を唱えるとは――


 輝粒子はすでに破られた。

 これ以上の戦闘は不可能である。


 ここまでやられては認めるしかない。

 次世代の若き女輝士が、自分を王者の座から引きずり降ろしたことを。


「私の、負けだ」


 一種の清々しささえ感じながら、ヴェルデは自らの敗北を宣言した。

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