348 ◆史上最年少の一番星
夜中の一時過ぎに行われる非公式御前試合。
その内容は前代未聞の輝攻戦士たちによるバトルロイヤル。
輝工都市外の平原でその話を聞いた時点で、星輝士に立候補する人数は半数以下に減ったらしい。
参加者は現星輝士であるプルート以外の十二人。
他には五年以上王宮に務めているベテラン輝攻戦士が七人。
そして、さっき輝攻戦士になったばかりのアタシを含めた二〇人だけ。
それでも闘場の大きさを考えれば人数は多い。
なので半分ずつのグループに分かれることになった。
アタシと同じグループの中には因縁の二番星ゾンネもいた。
「先に言っておくが、この模擬戦はあくまで選別の参考として行うだけじゃ。負けたからといって即座に星輝士の選から漏れるということではない」
プルートが全員の前で説明する。
そもそも、選別で模擬戦を行うこと自体が異常なのだ。
星輝士にはそれぞれの戦闘スタイルごとに得手不得手がある。
強さはもちろん重要だが、上から順番に強さ順で決まるわけでもない
だからこれは、選別を建前にした単なる余興。
もちろん、プルートがアタシの意見を受け入れてくれた理由はちゃんとある。
「しかし試合内容次第では一足先に確定で選出されることもある。全力で己の技を振るうように」
プルートはアタシのために舞台を用意してくれた。
新米輝攻戦士が誰の目にも納得いく方法で力を見せつける機会を。
「では、始めよ!」
アタシは全力で暴れた。
迸る輝力を破壊の力に変えて踊る。
自分以外の九人が倒れるまで、一分もかからなかった。
※
圧倒的な戦闘力を見せ付けたアタシは、誰からも文句なしで一番星に選ばれた。
力が星輝士の全てでないとはいえ、ここまでの実力があれば反対する人間もいない。
それ以外の部分は後々見せていけばいい。
このバトルロイヤルではアタシ以外の人間は選出されなかった。
今回の選出基準はプルートに一任されており、二番星以下は従来の方法で選ばれたようだ。
結果、一番星がプルートからアタシに変わっただけで、ほとんどメンバーに変動はなかったらしい。
歴代最年少、しかも異例とも言えるバトルロイヤルを経て星輝士に選ばれたアタシは、一時期国中の話題となった。
けど、実際に星輝士になってみれば、毎日の任務は退屈そのものだった。
ある程度自分で仕事を選べるとはいえ、平時にすることといえば要所の警備や要人の護衛くらい。
一般の輝士に稽古をつけるって仕事もあるけどアタシにはちょっと難しい。
もっぱら二番星ゾンネや五番星のザトゥルのおっさんがやっていた。
「そんなに暇なら、修行のひとつでもして技を磨いたらどうじゃ」
引退してからプルートは急激に体を崩した。
今ではほとんどベッドから動けなくなっている。
どうやら以前からかなりの病気を患っていたらしい。
アタシという後釜に相応しい人間が現れるまで無理して頑張っていたのだ。
「修行ったって、どうやればいいのよ」
アタシの戦闘スタイルは輝力を放出して暴れるだけだ。
訓練室で全力を出せば王宮が崩壊するし、外でやればただの自然破壊にしかならない。
自分の力に自惚れて修行が必要ないと言ってるわけじゃなく、より強くなるための訓練の方法が思いつかないのだ。
「そうじゃな、必殺技の一つでも考えてみたらどうじゃ?」
「必殺技ぁ?」
「おぬしの場合は防御や奇襲に使える技がよいな。よし、わしのとっておきを教えてやろう」
アタシはプルートからとっておきの秘術を教えてもらった。
それを自分なりに改良し、自分の戦闘スタイルに合わせる。
ついでにそれを攻撃にも応用してみた。
そしたら帝都の北側に聳えていたシュタール三山のひとつが崩壊した。
「誰がそれ以上の破壊力を追求しろと言った。おぬしはこの国を破壊するつもりか」
「あはは。やり過ぎちゃった、ごめーん」
「まったく、わずか十八の小娘が末恐ろしいことじゃわい。もはやおぬしを止められる人間など、このミドワルト広しと言えども、ノイモーントか五英雄の大賢者くらいしかおらんじゃろうな。過ちを犯さないよう祈るだけじゃ」
「心配しなくても、この力を振るう相手は決まってるわよ」
アタシはこの時にはすでに、魔動乱が再び起こる可能性を知らされていた。
打倒すべきエヴィルの王の存在を思えば、際限なく自分を鍛えるのに余念はない。
自分こそが母さんの跡を継いで、次代の英雄と呼ばれるだろうことに、疑いを持っていなかった。
そして、あの日がやって来た。
※
星輝士になって一年が過ぎた頃。
八大霊場で大人しくしていた残存エヴィルが、一斉に人間に牙を剥いた。
エヴィルたちは付近の町村を無視し、シュタールに四つある輝工都市を目指してそれぞれ進軍した。
各輝工都市防衛のため、即座に星輝士が派遣された。
そんな中、アタシはなぜか皇帝陛下直々に待機命令を受けていた。
ある程度行動の決定権を持つ星輝士と言えども、皇帝陛下の勅命に逆らうことはできない。
全く意見を言えないわけでもないけど、よっぽどの理由がない限りは反抗しない方が懸命だ。
闘いに行きたい気持ちを抑え、ウズウズしながら待ち続けていると、王宮から派遣されてきた兵士がアタシに任務を告げた。
「ヴォルモーント殿に『黒衣の妖将』を打倒していただきたい」
魔動乱を生き延びた最強のケイオス。
そいつはシュタール南方にある八大霊場の一つに住んでいる。
今はどう動くかわからないが、万が一そいつが暴れたらとんでもない被害が予想される。
なので、先手を打って退治してしまえという命令だった。
星輝士とはいえ、たった一人でエヴィルの巣窟に向かうのは無理がある。
防衛に専念すべき商況で、戦力を割くような勅命が発せられたのも不自然だ。
ひょっとしたら、アタシをよく思わない何者かの手が回っていたのかもしれない。
けど、アタシは喜んでその命令を受けた。
相手は最強のケイオス。
自分でも未だ底が知れないこの力。
力を試すのに、これ以上の相手はいない。
かくして、アタシは他の星輝士が輝工都市の防衛に向かう中、たった一人でエヴィルの巣窟へと乗り込むことになった。
シュタール南方の八大霊場、死霊峡へ。
※
「星輝士ばんざーい!」
「ヴォルモーント様ばんざーい!」
黒衣の妖将を打倒し、帝都へ凱旋する。
アタシは沿道に並ぶ市民たちから万雷の拍手を持って迎えられた。
「よくぞやってくれた。お前は我らの誇りだ」
輝工都市防衛に死力を尽くした他の星輝士たちさえ、アタシへの賞賛を惜しまなかった。
五英雄でさえ倒すことができなかった最強のケイオス、黒衣の妖将を退治したことはそれほどの偉業なのだった。
ついでに死霊峡の残存エヴィルも三〇〇体ばかし蹴散らしてきた。
まあ、これはどうでもいいことだが。
「最強って言われてたわりには、たいしたことなかったけどね」
「あなたが強すぎるんですよ。まあ、長い間エヴィルしかいない場所に閉じこもっていたせいで、弱体化していたのかもしれませんが」
黒衣の妖将は相手の輝力を奪う力を持っていたらしい。
ひょっとしたら、それがやつの力の源泉だったのかもしれない。
ともあれ、アタシが伝説級のケイオスを倒したという事実は揺るがない。
アタシは闘うために生まれてきた。
母さんがアタシに受け継がせてくれたこの力。
それは、この時のためにあったんだ。
……まあ、実はこの時、黒衣の妖将はまだ完全に滅んでいなかったんだけど。
さすがに肉体を八つ裂きにしたのに、精神だけで生きてるなんて誰も思わないじゃない?




