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閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
第6章 最強の輝攻戦士 - full moon of the crimson -
333/800

333 口封じ

 ダサヨアッタが消滅する。

 それと同時に眩い光が辺りを包んだ。

 目を開けていられないほど眩しくて、思わず目を瞑ってしまう。


「ん……」


 しばらくして視界が戻ってきた時、私たちはアンデュスに戻ってきていた。


 ジャラジャラジャラジャラとやかましい音が響く。

 ものすごい数のエヴィルストーンがあたり一面に散らばっていた。

 閉鎖空間でやっつけたエヴィルが変化した宝石が、ぜんぶこっちにやって来たみたい。


 これ、売ったらどれくらいになるんだろう……

 なんてことを考えていると。


「急がなくちゃ」


 隣ではヴォルモーントさんが真剣な顔で空を見上げ、今にも飛びだそうしていた。


「ど、どこへ?」

「決まってるじゃない。残り二箇所の襲撃地点よ」


 私が途中で輝士団の人たちに任せてしまった南部。

 それから、ジュストくんたちが向かってるはずの北部。

 その二箇所での戦闘は、まだ終わっていないかもしれない。


 けど。


「慌てなくても大丈夫ですよ。みんなも戦ってくれてるんですから」


 輝士団には輝攻戦士もいる。

 ジュストくんとフレスさんもいる。

 ラインさんやビッツさんも、どこかで戦っているかもしれない。


「エヴィルだけならいい。けどケイオスの相手は他のヤツらじゃキツいわ」

「え、でもあいつはもうやっつけたし……」

「北の襲撃地点にも一匹混じってた。ここにもさっきのやつがいたし、他の場所にもいるかもしれない」


 た、大変だ!

 ヴォルモーントさんが強かったせいで、ダサヨアッタはあっさりやっつけたよう見える。

 けれど、実際には閃熱白蝶弾フラル・ビアンファルハでダメージを与えられないくらいの強敵だった。

 あのレベルの敵がいるんじゃ普通の輝攻戦士がいてもちょっと厳しいかも……


「わ、私は南部に向かいますっ」


 急いで助けに行かないと。


 と、思ったそのとき。

 高速で飛んでくる何かが見えた。

 なんだあれ、こっちに近づいてるみたい。


 それはみるみる間に大きくなって……、


「ぶっ!」


 そのままの勢いで近くの地面に着地した。

 舗装された道路を抉り、物凄い量の砂と埃が舞う。


「けほ、けほ」


 手を振って埃を払う。

 ゆっくりと開けていく視界。

 その先には見慣れた姿があった。


「あ、ジュストくん!」

「敵はっ!?」


 二重輝攻戦士(デュアルストライクナイト)モードの彼はあたりを見回し、周囲に転がるのが無数のエヴィルストーンだけだと気づくと、ホッと安堵のため息を漏らした。


「もう全滅させたのか。凄いエヴィルストーンの数だな……」

「あ、えっと。北部のエヴィルは?」

「とっくに片付いたよ。輝士団の援護があったおかげですぐに終わった。ここに来る前、南部にも寄ったけど、そっちももう大丈夫だ」

「ケイオスとか現れなかった?」

「二体いたけど、どちらも倒したよ」


 さすがジュストくん。

 心配する必要もなかったみたい。


 えっと、襲撃してきたエヴィルは全部やっつけたってことかな?

 じゃあもう、私たちが急いで他の場所に向かう必要もないんだよね。


 戦いが終わったと知ったヴォルモーントさんは勢いを削がれたらしく、その場に突っ立ったまま、


「なあ、アンタ……」


 ジュストくんに話しかける。

 えっと、まさかケンカとかしないよね?


 ジュストくんも黙って彼女に視線を向ける。

 ヴォルモーントさんが何かを言おうとした、その時。

 通りの方からドドドド、と派手な音が聞こえてきた。

 私がここに来るときに追い越した輝士団だ。


「セアンス輝士団ただいま参上! 敵はいずこか!?」


 隊長らしい輝攻戦士の人が大声で叫ぶ。

 えっと、今さらやっと到着?

 終わった後でご苦労様。 


 ヴォルモーントさんは言いかけた言葉を止め、やれやれって感じで肩をすくめた。




   ※


『すべてのエヴィルの消滅が確認されました! 戦いに参加したみなさん、ご苦労様でした!』


 四箇所あった襲撃地点、そのすべてのエヴィルが全滅したとの放送が流れる。


 街中のあちこちから人々の盛大な歓声が沸き上がる。

 ヴォルモーントさんが一人で戦っていた頃には見られなかった光景だ。


 私はその光景を空から眺めていた。

 ジュストくんの話では、今回の件の人間側の首謀者……

 つまり、産業奨励派の議員たちは現在、議会に軟禁されているらしい。


 人間がエヴィルと手を組んでいた。

 これは今までになかったような大事件だ。

 彼らがエヴィルとどんな繋がりがあったのか、絶対に聞き出さなくちゃならない。


 私は先行するヴォルモーントさんの後を追いかけるように飛ぶ。

 ジュストくんは小刻みにジャンプし、屋根から屋根へと飛び移って移動していた。


 議会の前にやってきた。

 そこには人だかりができていた。

 集まってるのは輝士団の人たちで、なにやら騒ぎになっているみたい。


「見張りはしっかり立てていたんです」

「気がついたら、すでに中はこんな惨状で……」


 何があったのかな?

 私は話を聞こうと彼らに近づく。

 と、輝士たちの中にビッツさんの姿を発見した。


「ビッツさん!」

「ああ、ルーチェか」

「何があったんですか?」

「軟禁していた議員たちが変死したそうだ。その責任の所在について話し合っているらしい」

「変死?」


 ヴォルモーントさんが輝士たちを掻き分けて議会の中に入っていく。

 私はそれを追おうとして、ビッツさんに腕を掴まれた。


「見ないほうがいい」


 ビッツさんが首を振る。

 私は素直に彼の言うとおりにした。

 人が死ぬのは何度か見ているけれど、慣れたいとは思わない。


「どういうことです? 何があったんですか?」


 ジュストくんが近くの輝士を掴まえて尋ねる。


「それが全くわからない。裏口も含め見張りはしっかりと立っていた。どこからも侵入された形跡はなく、室内の様子も監視させていたが、交代するわずかな時間に議員達は殺されてしまったそうだ」

「念のため言っておくけど、わたしじゃないよ」


 いつの間に現れたのか、幼少カーディが傍に立っていた。

 見張りに悟らせずに内部に侵入し、気づかれないうちに複数の人を殺す。

 妖将カーディならできるかもしれないけれど、彼女にそんなことする理由はない。


 どっちにしろ、昼間の彼女は本来の力を出せないし。


「じゃあ、一体誰が何のために……」

「ケイオス側の口封じだろうね」


 カーディが「当然でしょ?」って感じの顔で言う。


「今回の事件には複数のケイオスが関わっていた。どちらが話を持ちかけたのかは知らないけど、ヒトとケイオスの利害が一致して手を組んだんだ。作戦が失敗に終わったからには首謀者であるケイオスが人間の協力者を生かしておく理由はない」


 口封じ……

 余計なことを喋らせたくないから、ころす。

 首謀者っていうのは、ダサヨアッタが言っていた仲間のことだろうか。

 それが何者で、何を企んでいたのか、今となっては議員たちから聞くこともできない。


「ともあれ、これで一件落着だ。今後この街は変わっていくだろう。あとはここに住むヒト次第だけどね」


 カーディの言うとおり、私たちにできることは終わった。

 釈然としない結末ではあるけれど……

 とりあえず危機は去ったんだ。


 ――?


 違和感。

 それは、普段ならもっとはっきりと感じられていただろうもの。

 多数のエヴィルに囲まれて、感覚がマヒしていたからか、気づくのが遅れた。


「近くにエヴィルが残ってる!」


 私の声に周りの輝士たちが反応する。

 ジュストくんが剣を抜き、ビッツさんが火槍を構える。


「どこだ?」

「ちょっと待って、いま調べてみる」


 私は目を閉じる。

 意識の網を周囲に張り巡らせる。


 ――みつけた!




   ※


 私が飛んで先行する。

 ジュストくんたちがそれに続く。

 議会の壁を曲がったところに、じめじめした中庭がある。


 そこにエヴィルはいた。


 紫色の肌と角。

 普通の人間と比べ、明らかに邪悪な姿形。

 少し小さめだけど、間違いなく妖魔型エヴィル、ラルウァだ。


 こんな所に隠れてたなんて。

 こいつは小さくても中級エヴィルだ。

 一般市民の前に姿を現したら大変なことになる。


 急いで退治しないと。


閃熱白蝶弾(フラル・ビアンファルハ)っ!」


 人差し指を立て、指先に輝力を集中。

 真っ白な閃熱の火蝶を作る。


 事件がうやむやになった鬱憤もあって、わざと強力な術を選んだ。

 超高熱の光となって撃ち出された、超高熱の光。

 それは中庭の隅に蹲る小型ラルウァに、


 ――命中する、その瞬間。


 私は、見た。

 攻撃が当たる直前。

 こちらを振り向いたラルウァの瞳が。

 確かに、はっきりと、怯えの色を宿していたのを。


 閃熱の光に貫かれ、小型ラルウァはエヴィルストーンに変わった。


「おお、やりましたな!」

「さすがフェイントライツの桃色天使さま!」


 後からやってきた輝士たちの声が、ものすごく遠くから響いているような気がした。

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