322 黒衣の妖将VS一番星
先に仕掛けたのはカーディだった。
神速の必殺技、音速亡霊。
すれ違いざまに斬り付けつつ、彼女は相手の背後に回る。
攻撃を受けたヴォルモーントさんの輝粒子がわずかに揺らいだ。
「さすがに簡単には仕留められないか」
けど、ダメージは全くなさそうだ。
カーディを振り向き、悪鬼のように笑う。
ヴォルモーントさんは真っ赤な尾を引いて飛んだ。
その軌道が途中で九十度折れ曲がって真上へ向かう。
甲高い音が上の方で響く。
二人は遙か上空でぶつかり合った。
かと思うと、次の瞬間には地上に降りて土煙を上げている。
カーディが体より大きな大剣を振る。
ヴォルモーントさんはそれを片手で弾く。
ヴォルモーントさんが踏み込んでカーディに殴りかかる。
カーディは音速亡霊で遠くへ逃れる。
カーディが遠くから雷撃矢で牽制。
ヴォルモーントさんは建物の影に逃れてそれを防ぐ。
ヴォルモーントさんが地面を蹴って一気に距離を詰める。
カーディは近くの路地に入ったかと思うと、ぐるっと回り込んで後ろから斬りつける。
とんでもない超スピード同士の対決だ。
その動きはどっちも二重輝攻戦士以上。
私にも流読みを使って目で追うのがやっとだった。
「どうした、以前より弱くなったんじゃないのか!?」
闇の中にカーディの挑発する声が響く。
ヴォルモーントさんも速いけど、カーディはさらに輪をかけて速い。
彼女の動きは前に帝都アイゼンで私と戦った時とは全く別物だった。
たぶん、最近の実戦訓練の時もぜんぜん本気なんか出してなかったんだ。
この数ヶ月間、輝力を蓄えることで、以前の強さを取り戻しかけてるのかもしれない。
「ちっ……」
輝術と剣術を駆使し、適度に距離をとって戦うカーディ。
それに対するヴォルモーントさんは、ひたすら接近して殴ろうとするだけ。
街壁の外でエヴィルの大群を相手にした時みたいな、圧倒的なパワーは出せない。
そりゃ、あんな派手な攻撃は街中じゃ使えないよね。
あっという間に辺り一面が瓦礫になっちゃうもの。
カーディが市街地で彼女を誘ったのはこのためなんだ。
言ってみれば、街を人質にとったみたいなもの。
さすが最強のケイオス!
卑怯だね!
それでも、ヴォルモーントさんが放つ威圧感は相当なものだ。
カーディは絶対に足を止めないし、隙の多い大技を使うつもりもないみたい。
万が一にも殴られたらタダじゃ済まないから、小技で少しずつ相手の体力を削ぎつつ……
あっ。
「くっ!」
カーディがヴォルモーントさんの拳を食らった。
当たる直前に氷陣盾を張ったけれど、何の障害にもならない。
盛大に吹き飛ばされ、その体は背後の建物を貫いてさらに向こうの壁に叩きつけられる。
ほとんどラッキーパンチみたいな一撃だったけど、形勢逆転するには十分だった。
「終わりだ、黒衣の妖将!」
倒れたままのカーディに、ヴォルモーントさんが襲いかかる。
いけない、このままじゃカーディがやられる!
「閃熱白蝶弾!」
そう思ったら思わず手が出た。
私の手から生まれた白い蝶が闇を切り裂いて飛ぶ。
それはカーディの目の前で止まり、閃熱の光となってヴォルモーントさんを襲う。
「っ!?」
彼女はとっさにそれを腕でガードする。
……閃熱を素手で防いだ?
何この人、やばくない?
足を止めてヴォルモーントさんがこちらを向く。
鋭い視線で私を睨み付ける。
ひえっ、殺されるっ!
「オマエ」
「ご、ごめんなさい!」
まさに蛇に睨まれた蛙状態。
私は思わず謝ってしまった。
「見たこともない輝術を使うのね。しかも単詠唱……いや、無詠唱か。オマエもケイオスなの?」
ち、違うっ。
「わ、私はフェイントライツのルーチェですっ」
「フェイントライツ……?」
あ、あれ、知らない?
議会でお会いしたのに、覚えてない?
こ、これはいよいよヤバイぞっ。
攻撃した上、ケイオスだって勘違いされたら……
間違いなくころされる!
そ、そうだっ。
「ケイオスじゃなくて、天然輝術師ですっ。ほら、五英雄のプリマヴェーラと同じの」
「プリマヴェーラ、ですって……」
ヴォルモーントさんの目つきが変わる。
周囲の空気が沸騰したような気がした。
怒ってる?
な、なんで?
嘘ついてると思われた?
「オマエ……」
「隙ありだ」
カーディが動いた。
倒れた状態から、不意打ちの音速亡霊。
ヴォルモーントさんのお腹に大剣が突き刺さる。
や、やった!
さすがにあの人でも、体を貫かれたんじゃひとたまりも……
え?
ヴォルモーントさんの体が赤く染まる。
比喩とかじゃなく、全身がただの赤一色になる。
かと思ったら、弾けるように彼女の体は掻き消えた。
カーディが上を見る。
背の高い廃墟、その屋上。
ヴォルモーントさんは月を背に立っていた。
な、なにいまの。
瞬間移動?
超高速移動?
まるでカーディの音速亡霊みたい。
貫かれたはずの彼女の腹部には傷一つついてない。
まるで、さっき攻撃が当たったのが嘘だったかのよう。
「――――に行く」
ヴォルモーントさんが何かを呟いた。
けど、私にはよく聞き取れない。
彼女はくるりと後ろを振り向く。
そのままどこかへ飛び立っていってしまう。
ひょっとして、逃げた?
「た、助かったぁ……」
あまりの安堵に腰が抜ける。
近くにあった手ごろな箱にお尻をつけて一息。
すると。
ぽかり。
頭を叩かれた!
「なにする!」
「余計なマネをしないでいいの」
助けてあげたのに殴るなんてどういうつもりなのかっ。
しかも音速亡霊まで使って!
「ケイオスを助けるために星輝士に攻撃するなんて、本当に殺されても文句は言えないんだよ」
あ、やっぱり?
「けど、もう少しでカーディがやられて……」
「わたしを甘く見ないで。危なかったのは間違いないけど、まだまだ戦えたよ」
やっぱり危なかったんじゃないかぁ。
あれ、けどなんか引っかかる言い方だな。
「勝てたとは言わないの?」
「あのまま続けてたらやられてたかもね」
あっさりと認めたよ。
あのカーディがだよ。
「やっぱあいつは強いね。大規模攻撃を封じてこっちのペースに持ち込めば、もう少しくらいやれるかと思ったけど」
星輝士一番星、ヴォルモーントさん。
彼女はカーディが全力で戦って、それでも敵わない相手なんだ。
しかも、ヴォルモーントさんは本気を出していない。
全力の彼女は五〇〇を超えるエヴィルすら数分で全滅させる。
「もし勝ててたら、カーディはあの人をころすつもりだったの?」
「まさか。そんなつもりはないし、勝てるとも思ってないよ。あいつだって自分が殺されるくらいなら街の被害なんか気にせず全力を出すだろうし」
「じゃあ、何のためにわざわざおびき寄せてまで……」
「確かめたかったんだよ。あいつの腕がさび付いてないかどうかをね」
言ってる意味がよくわからないよ。
「つまり、どういうこと? カーディはあの人の何を知りたいの?」
「気にならない? あいつほどのヒトが、なんでこんな街にわざわざ留まってるのかさ」
それは私も思った。
彼女はシュタール帝国の星輝士だ。
なのにどうして、全く関係ないセアンス共和国の輝工都市を守っているのか。
彼女が本当に人類最強の輝攻戦士なら、私たちと同じように魔動乱の再来を阻止するため、新代エインシャント神国に向かっていてもおかしくないと思うんだけど……
「……わかんないね」
「ま、すぐにわかるよ。今日はもうホテルへ帰ろう」
結局、カーディが何がしたかったのかよくわからなかった。
けど戻って休むのは大賛成。
眠いし、疲れたし。
こんな所にいつまでもいたくないよ。




