316 警察団
「どうしてそんな大量のエヴィルストーンが余ってるんだろうね」
帰りはさすがに面倒なので、乗合輝動馬車を使うことにした。
停留所で次の輝動馬車を待ちながら、私は何気なくジュストくんに話題を振ってみる。
ちなみにラインさんは残りのエヴィルストーンを持ったまま、ひとりで買い物に出かけてしまった。
荷物をホテルに預けてからにすれば良いのに……
パクレットの町長さんは「この輝工都市アンデュスは現在、外部と連絡すら取れない状態にある」って言っていた。
けど、実際にやって来てみれば都市の内部はどう見ても平和そのもの。
オマケに街中にはエヴィルストーンが大量に出回っている。
よく考えればものすごく変な話だと思う。
「近くにエヴィルの巣窟があること関係あるんじゃないかな」
「次々とエヴィルをやっつけて、エヴィルストーンを稼いでいるってこと?」
「そう考えれば議会が大量にエヴィルストーンを仕入れているっていう話も納得できるね」
確かにそうだけれど……
ここまで見てきた感じでは、それほどの規模の輝士団や輝術師団がいるとも思えない。
輝士の国もあるシュタール帝国の帝都アイゼンですら、価格が暴落するほどのエヴィルストーンが余っているなんて話は聞かなかった。
「けど、たびたび残存エヴィルの襲撃を受けているのに、こんなに落ち着いてられる?」
「確かに……もしそうなら、輝士団は常に厳戒態勢で、街中がピリピリした空気になってるだろうなあ」
しょっちゅうエヴィルと戦っているにしては、街全体に緊張感がなさ過ぎる。
いつ城壁を越えて敵が進入してくるかわからないのに街壁に見張りのひとりもいない。
国境付近のエヴィルの多さに比べて、このアンデュスは不自然と言えるほどに平和だった。
私も輝工都市育ちだからわかる。
街壁に囲まれた中で生活していると、外の世界の脅威は実感し辛い。
けど私の住んでいたフィリア市も、普段から近隣の町村に輝士を派遣していたらしい。
周りの町村を守るのは輝工都市の役目でもある。
ましてや、いまは世界中が残存エヴィルの活性化で慌ただしくなってる時だ。
どことも連絡を取らず、輝工都市だけが平和でいるのは、変を通り越して異常にも思える。
「なにか、このアンデュスには秘密が――」
ジュストくんが何かを言おうとした瞬間。
突然、見知らぬ男の人が彼の背中に体当たりを仕掛けてきた。
「うわっ!」
「ジュストくん!?」
重い荷物を持っていたため、よろけて膝を突くジュストくん。
ぶつかってきた男は彼が落としたエヴィルストーンをひっつかむと、そのまま奪って逃走した。
「ど、どろぼう!」
男は人ごみに紛れて逃げていく。
「くそっ」
ジュストくんが立ち上がって追いかけようとする。
けど、重い荷物を持っているのですぐには走り出せない。
「ジュストくんはここにいて!」
エヴィルストーンを置いていって、違う人に盗まれたら目も当てられない。
私は逃げた男の気配を流読みではっきりと捉えている。
ドロボウくらい、私ひとりでもなんとかなるよ!
※
「その人ドロボウです、捕まえて!」
大声で叫びながら男を追いかける。
完全に気配をロックオンしたから見失うこともない。
それと、周りからは気づかれない程度に気力で脚力を強化してある。
周囲の人が協力してくれれば、輝術を使わなくても捕まえられるはずだ。
「く、くそっ!」
男は振り返り、苦々しげな表情で睨んでくる。
と、路地裏から四、五人、別の男が飛び出してきた。
彼らは男と同じような身なりをしていて、手には武器を持っている。
「オラァ! 見世物じゃねえぞ!」
彼らは周囲を威嚇すると、エヴィルストーンを持った男を取り囲んだ。
そのまま固まってしばらく一緒に走っていたかと思うと、今度は散り散りに逃げ始める。
どうやらドロボウの仲間みたいだ。
真っ直ぐ逃げる最初の男は手に何も持っていない。
盗んだエヴィルストーンは仲間に渡したらしく、すでに誰が持っているのかわからない。
あーもう、面倒くさい!
こうなったらまとめて輝術でやっつけちゃおうか――なんて思った時。
「そこまでだ!」
ドロボウたちの逃げ道を塞ぐように武装した集団が立ちはだかった。
彼らはみなおそろいの青っぽい鎧姿に、紺色の平べったい帽子を被っている。
素早く散開すると、瞬く間に逃げたドロボウたちを捕まえては地面に押さえつけていった。
「大人しくお縄につけ!」
「ちっ、ちくしょう……」
衛兵……
いや、輝士?
腰には長い剣を下げている。
次々とドロボウたちを組み伏せていく青鎧の集団。
後ろの方には輝攻戦士らしき人も控えている。
どうみても盗人たちに逃げ場はない。
「今日という今日は許さないからな! しばらくシャバには出られねえぞ!」
「すんません、すんません! 本当にもうしませんから……ぐぼっ!?」
「お前ら、そう言って何回同じ事を繰り返してんだ!」
ドロボウたちは見ていてかわいそうになるくらいボコボコに痛めつけられていた。
そんな中、一人の輝士が小走りで私のいる方にやってくる。
盗まれた私たちのエヴィルストーンを持って。
「これはお嬢さんの持ち物でしょうか?」
「あ、ありがとうございます。おかげで助かりました」
「なんの、街の治安維持が我々警察団の仕事ですから」
ケイサツダン?
輝士団か衛兵じゃないのかな。
「ほら、キリキリ歩け!」
「ひーんっ」
青い鎧の輝士たちは盗人たちを拘束してどこかへ連れて行く。
呆然とその姿を眺めていると、遅れてやってきたジュストくんが私に声をかける。
「ルー、無事か!?」
「あ、うん。なんともないよ」
「盗まれたエヴィルストーンは?」
「あの人たちが取り返してくれた」
私はケイサツと名乗った輝士たちの背中を指差した。
「衛兵……いや、輝士団か?」
「たぶん。輝攻戦士っぽい人もいたから」
「治安維持活動にしては、やけに大げさだな」
私もそう思った。
たかが盗人相手に、輝攻戦士まで出てくるなんて――
※
「警察団、ですか」
買い物に出かけていたラインさんが私たちに少し遅れてホテルに戻って来る。
エヴィルストーンだけでも重いのに、大量の食べ物を買い混んで。
「いいじゃないですか。これだけ街が平和なのも治安がしっかりしているからでしょう」
昼間っから盗人が出る街が平和かなぁ。
あの人たちって、絶対に隔絶街の住人だと思う。
わざわざ繁華街に出てくるなんて、いろいろ不満があるのかもしれない。
そういえば宝石買取屋の人も、最近は格差が拡大してるとかなんとか言ってたし。
夕方になったので、議会へ行ってみることにする……
けど。
カーディは行方知れず。
フレスさんはまだ帰って来ていない。
ビッツさんは一度戻ってきたけど、大量の本を持ったまま客室に籠もってしまった。
ラインさんは疲れていて出かける体力も残ってなさそう。
ジュストくんは修行をしに街の外に行ってしまった。
あらら、一人で行くしかないか。
自室に戻って町長さんに渡された包みを持ってくる。
何気なく窓の外を眺めると、夕焼けに照らされた美しい街並みが目に映った。
フィリア市の自然と調和した美しさとは少し違う。
綺麗に配置された建物には一風変わった人工的な美しさがあった。
遠く城壁の向こうに映える山々の稜線は、私たちが通ってきたグラース地方かな?
……ん?
ふと、城壁の向こうに、奇妙な感覚を覚えた。
目を擦ってもう一度見直してみる。
やっぱり何かがおかしい。
ぐにゃぐにゃと空間が歪んで見える。
その周囲の色が暗くなっている。
――まさか。
包みを置いて一階に降りる。
と、なぜかロビーにジュストくんがいた。
「どうしたの? 修行に行ったんじゃなかったの?」
ひょっとして道に迷って帰ってきたのかな。
「そのつもりだったんだけど、街の外に出してもらえなかったんだ」
ジュストくんが言うには、城門にも警察団と呼ばれる人たちがいたらしい。
街の外に出ることは厳しく制限されていて、いくら頼んでも出してもらえなかったとのこと。
あれ、中に入るのはあんなに簡単だったのに。
出るのはフリーパスじゃないの?
ううん、今はそれより!
「あ、あの。大変なことが――」
その時、大きなサイレンの音が響いた。
続いて街頭の音声拡大機から、機械を通した女の人の声が響いた
『近隣にエヴィルの大群を確認。繰り返します、近隣にエヴィルの大群を確認。安全確認が取れるまで、市民のみなさんはできるだけ外出を控えてください』




