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閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
第6章 最強の輝攻戦士 - full moon of the crimson -
313/800

313 妖将先生との模擬戦闘

 無数の雷撃が四方から飛んでくる。


火飛翔イグ・フライング!」


 私は炎の翅を翻し、一番隙間の大きい方角に向かって急加速する。

 ピンチを脱した……と思ったのもつかの間。


「あまい」

「うそっ!?」


 カーディの放った雷撃の矢は、そのすべてが糸で繋がってるみたいに正確に私を追いかけてくる。

 このままじゃまとめて食らっちゃう!


火飛翔イグ・フライングぅ!」


 さらに火飛翔を重ねがけ。

 重りが外れたように体がガクンと軽くなる。

 背中の四枚翅から橙色の軌跡を描いて私は大空を飛ぶ。


 雷の矢の動きが緩慢になる。

 雷といっても輝力を変化させてるものだから、目に見えないほど速いわけじゃない。

 流読みで正確に軌道を見切り、高速機動でその間をすり抜ける。


閃熱陣盾(フラル・スクード)!」


 私は防御の術を置いて、そのまま飛び続ける。

 後ろの方でバチバチと激しい音が鳴った。


 振り返って確認する余裕はない。

 電撃は防げたと信じよう。


 前方の宙空を見る。

 闇夜にうっすらと浮かぶ、黒衣の姿。


 今度はこっちが反撃する番だ!


火蝶乱舞イグ・ファレーノ!」


 無数の火蝶を周囲に展開、そして射出。

 火蝶たちは私よりも速い速度で前方に向かって飛んで行く。


雷撃連矢(トルティ・ツ・ロー)


 指先から複数の雷撃の矢を放つカーディ。

 電撃の矢は次々と火蝶に当たっては撃ち落としていく。


 けれど、すべてを撃ち落とすには数が足りない。

 火蝶のうち二つは雷撃の矢をすり抜け、カーディの背中側に廻った。


 よし当たる――と思った瞬間、カーディの姿がふらりと揺らいだ。


閃熱陣盾(フラル・スクード)爆炎弾(フラゴル・ボム)うっ!」


 私はとっさに防御結界を張る。

 直後、ガキン! と派手な音が目の前で響いた。


 今のはカーディが持つ体験が閃熱の防御結界にぶつかる音だ。

 彼女は音速亡霊(ソニックゴースト)を使って、火蝶を避けつつ一気に私へと接近してきた。


 カーディ相手に接近戦じゃ絶対に勝ち目はない。

 なので私は攻撃を防ぐと同時に自分で作った防御結界に爆風をぶつけた。

 その反動で一気に後ろへ下がる。


 十分に間合いを取ったところで、輝力を放出してブレーキをかける。


 そのまま火蝶を五匹同時に展開。

 術の連続使用になるので数は若干少ない。

 けど、こうしておけば不意の奇襲にも対応できる。


 そのまま五匹の火蝶を伴いながら上昇する。

 カーディはさっきの場所に留まってきょろきょろと左右に首を振っていた。

 爆煙に視界を奪われたせいで、私の姿を見失ったのかもしれない。


 これは、一気に畳み掛けるチャーンス!

 このまま確実に攻撃を当てられる距離へと近づく。

 カーディの頭上へと移動し、真上から一気に急降下を始める。


 まだ遠い、あと少し、もう少し……いまだ!


閃熱フラル――」


 攻撃に移ろうとした、その瞬間。

 周囲に展開していた火蝶の一つが、突然真っ二つに裂けた。


 いけない、これは――

 カーディが顔を上向ける。

 私の目を身ながら、ニヤリと笑う。


 カーディは私を見失ってなんかいなかった。

 わざと隙を晒したように演出したのも彼女の計算。

 私がこうやって、自分から飛び込んでくるのを待ってたんだ。


 殺人遊技場(マーダーアトラクション)

 周囲の空間に不可視の刃を張り巡らせる術。

 近づくものすべてを切り刻む、凶悪なトラップだ。


 何も知らずに近づけば八つ裂きにされてしまう。

 幸いにも周囲に浮かべておいた火蝶のおかげで気づくことができた。

 だけど、私は不覚にもカーディのすぐ近くで動きを止めてしまった。


「終わりだね」


 カーディの右手がバチバチと音を立てる。

 ものすごい威力の電撃が来る。


 あれは閃熱の防御結界でも防ぎきれない。

 今からじゃ迎撃のための高威力の術を使う余裕もない。


 止まっていればただの的。

 周りには見えない刃。

 まさに絶体絶命。


 そんな中、私は迷わず真下へ――

 つまりカーディの方へ向かって飛んだ。


 左わき腹と右肩に衝撃が走る。

 不可視の刃が私の体を斬り裂く。


「おまっ、なにやって……!」


 予想外の動きにカーディが慌てた。

 その一瞬の迷いが命取り。

 一気にケリをつける。


閃熱白刃剣(フラル・スパーダ)っ!」


 真っ白く輝く閃熱の刃が手の中に出現する。


「ちっ!」


 カーディは電撃の術を撃つのを止め、大剣を取り出した。

 至近距離で高威力の術を放って巻き込まれるのを恐れたのかもしれない。


 私の閃熱の剣とカーディの大剣が空中で斬り結ぶ。


 二人の動きが止まる。

 そこにカーディの背中側から四つの火蝶が迫る。

 突撃する前にあらかじめ回り込ませておいたものだ。


「くっ!」

「きゃっ」


 カーディは力任せに私をはじき飛ばす。

 そのまま大剣を振り抜いて火蝶をまとめて薙ぎ払った。


「な――」


 カーディの目が見開かれる。

 どうやら彼女は気がついたみたい。

 夜闇と同じ真っ黒な色で燃える、五つ目の蝶に。


氷陣盾(グラ・シールド)!」


 カーディが氷の防御結界を張る。

 それにぶつかった黒い蝶――爆炎黒蝶弾(フラゴル・ネロファルハ)が大爆発を起こす。


 爆炎が闇夜を明るく染める。

 その光は二人の視界を等しく奪う。


 次の行動が勝負の分かれ目だ。

 私は閃熱の剣を消して待ち構える。

 四つの火蝶を展開し、うち三つをカーディがいるはずの前方の空間に向かわせる。


 残った一匹を奇襲に備え、自分の後ろに待機。

 さあ、そして最後はとっておきの技で――


 え?


 突然の衝撃。

 体が押し潰される。

 前方から何かがぶつかってきた。


「ぐげっ」


 気づいたときには首を掴まれていた。

 目の前には金髪の少女、黒衣の妖将の邪悪な笑み。


「まだまだ甘いね」


 手の中で作り出そうとしていた閃熱の蝶が握り潰され、ぱちんとはじける音と共に掻き消えた。


 チェック・メイト。

 負けたー。




   ※


 模擬戦を終え、私とカーディは並んで地上へと降りていく。


「相手の動きの先を読もうとするのはいいけれど、そればかりに気を取られて正面の守りが薄くなったら意味がない。互いに視界が効かない状態では無理をせず、一度仕切り直すことを覚えろ」

「う、うん」


 いつものダメ出しお説教タイム。

 と、カーディはいきなり声を荒げた。


「それより、さっきのアレは何考えてる! わたしが殺人遊技場(マーダーアトラクション)を展開していると気付いていながら突っ込んでくるなんて、一体どういうつもりだ!? いくら痛みを感じないからって首が飛べば死ぬんだぞ!」

「ひっ。ご、ごめんなさいっ」


 カーディに言われてはじめて、自分がやったことを思い出してゾッとする。

 現在、私のわき腹と肩は衣服ごとざっくりと破れ、どぼどぼと血が流れている。


 クスリのおかげで全く痛くないんだけど、放っておいたらまずいだろうなあ……


「メガネを分離するから、治療してもらって。それとも自分でやる?」

「あ、うん。ちょっと練習もしてみたいから。半分だけやる」


 私は特に出血の酷いわき腹を抑えながら、ゆっくりと地上に降りていった。

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