262 フェイントライツの洞窟攻略
「うりゃあ!」
掛け声と共に、一閃。
ダイの輝攻化武具ゼファーソードが、金色の体毛に全身を覆われた『アルクトス』の巨体を切り裂く。
強固な皮膚を持つ動物型エヴィルは、通常の武器ではまず倒せない。
けれど、輝攻化武具の力を引き出して輝攻戦士になったダイにかかれば、まるで食卓のお肉をさばくように、あっさりと両断されてしまう。
だけど……
「ばか、先行しすぎっ!」
ダイは思いっきり敵の密集地帯のど真ん中に飛び込んでしまった。
その背後から、別のアルクトスが迫る。
凶悪な爪がダイの背中に迫る。
「せいっ!」
その進路を塞ぐようにジュストくんが立ち塞がった。
袈裟切り、横薙ぎ、突きと、流れるような三連撃を繰り出す。
打ち倒されたアルクトスは、淡く輝く黄色いエヴィルストーンに姿を変えた。
最初からやる気まんまんのダイ。
実戦になれば途端に熱くなるジュストくん。
二人の輝攻戦士の連携があれば、並のエヴィルじゃ相手にもならない。
互いを信じあった連携ができるから、ダイもどんどん先に進んで行けるんだろう。
続いて、後続の敵がうぞうぞと大群で姿を現した。
猫くらいの大きさの巨大なアリのエヴィルだ。
「『ミュルメークス』だ、気をつけろ!」
一匹あたりはそれほど強いエヴィルじゃない。
けどミュルメークスの恐ろしさは、その集団攻撃にある。
下手に近づいて攻撃しようものなら、あっというまに取り囲まれてしまう。
そうなったら最期。
一分もかからず骨だけにされちゃう。
ジュストくんとダイもそれはよくわかっている。
二人は飛び退いて後ろに下がり、代わりにビッツさんが前に出た。
「頼んだぞ」
その言葉は私たちに向けてじゃない。
彼の服から翅を持った小さな人間が飛び出す。
ビッツさんが飼いならしている、フェリキタスという極小のエヴィルだ。
別名を『妖精』という。
ビッツの使う武器はダイやジュストくんのような剣じゃない。
火槍という、穴の空いた細長い筒のような射撃武器だ。
それを構えると、やや上の方に狙いを定める。
銃身に妖精が取り付く。
「鋼鉄の雨をその身に受けよ!」
やたらとカッコいい掛け声と共に引き金を引く。
妖精の力を受けた弾丸が撃ち出された。
弾丸は空中で光り輝き、無数の細かい粒になってミュルメークスの群れを襲う。
細かい粒が雨となってミュルメークスの体を貫いた。
いくつもの赤いエヴィルストーンが地面に転がる。
それは驚異的な威力で鉄の弾丸を飛ばす射撃武器。
ビッツさんは火槍と呼んでいるけど、このまえ訪れた町の職人さんは『マスケット』とか言っていた。
普通、一度の射撃で撃ち出せる弾丸は一発だけ。
けれど、ビッツさんは特殊な加工をした弾丸を使い、さらに妖精の力を借りることで、まるで輝術のような攻撃を行うことができる。
妖精の力を使って戦う彼のような人をフェリーテイマーと呼ぶ。
「天に帰り、安らかに眠れ……」
謎の言葉で余韻をかみ締めるビッツさん。
そこに、生き残っていたミュルメークス四匹が迫る。
ビッツさんは別に油断しているわけじゃない。
すぐさま接近戦に切り替えようと、腰から剣を抜く。
が、ミュルメークスは彼に襲い掛かる直前、横からの攻撃を受けて弾き飛ばされた。
「えいっ、氷連矢っ」
ミュルメークスを撃ち貫いたのは、フレスさんが作り出した無数の氷の矢だった。
彼女はいつも冷静に戦局を見て他のみんなを的確にフォローしてくれる。
「ゆ、油断は禁物です」
「油断ではなく接近戦で仕留めるつもりだったのだ。助けは無用だったぞ」
「え、そ、そうでしたか……ごめんなさい」
「喋ってる場合か、来るぞ!」
言い争っているビッツさんとフレスさんを怒鳴りつけるダイ。
前方に視線を向けると、巨大な岩の固まりがドスドスと音を立てて向かってきていた。
いくつかの岩石を適当にくっつけたような、奇怪な姿をしたエヴィルだった。
「『メガピトラー』か。面倒くさい奴が出てきやがった」
こいつはかなりの耐久性があって、下手な攻撃はまるで通用しない。
この前に戦った時はダイとジュストくんの二人がかりでもかなり苦戦していたくらいだ。
メガピトラーは両腕をぐるぐると振り回し、周囲の壁を削り取りながらこちらに近づいている。
よぉし、今度は私の番だ!
最近編み出したばっかりの必殺技を使っちゃうからね!
このエヴィルは攻撃力と防御力はすさまじいけれど、動きは鈍い。
私はギリギリまで敵の正面で待ち構え、ゆっくりと意識を集中し始めた。
掌が光を放ち始める。
描いたイメージを形にして放つ。
「閃熱白刃剣っ!」
私の手の中に、超高熱の刃が生まれた。
それと同時に背中から輝力を放出して飛翔する。
メガピトラーの顔の横を通り抜けざま、閃熱の刃を振った。
私の攻撃は敵の頭部をあっさりと切断した。
どんなに硬いボディを持とうが、閃熱なら簡単に貫ける。
常に剣の形を保つこの術は、減衰することなく常に最大の威力を発揮できる。
その分、消耗は激しいんだけど……
本当はもっと安全に遠くから攻撃できる閃熱の術もあるんだけどね。
この術は相手に接近しなきゃいけないから、あまり使う機会がない。
せっかくなので、試してみました。
「やった!」
頭部を失ってバランスを崩すメガピトラー。
そこにダイが飛び込んでいく。
「おおおおおっ!」
気合とともに振り下ろした剣が、残った胴体を縦に両断した。
狙ったわけじゃないけど、見事な連携の完成だった。
やったね!
敵をやっつけたダイがこちらに向かってくる。
ハイタッチしようと手を挙げる私。
ダイも手を上げる。
その手は私の手をするっと避け……
頭をひっぱたかれた!
「なにをする!」
「オレが倒そうとしてたのに、邪魔するんじゃねーよ」
なにやら不満そうな様子のダイ。
どうやらメガピトラーと一対一で戦いたかったらしい。
そりゃ前回はあんだけ苦戦して、次こそはーって燃えてたのも知ってるけどさ。
今はゆっくり戦ってる場合じゃないでしょ!
普通に戦ってたらやっつけるまでにすごい時間かかるし!
「がるるるる……」
「ほら、遊んでないで」
ダイの服を掴んで唸っていると、ジュストくんに怒られた。
確かに、こんなお子様と遊んでる場合じゃない。
私はダイの背に舌を出してそっぽを向いた。
「これから先も戦いは続くんだから、無駄な体力を使わないようにしないと」
「はい、ごめんなさい」
私たちは最深部にいるはずのケイオスを目指し、さらに洞窟の奥へと進んで行った。
※
迫り来るエヴィルを蹴散らし、入り組んだ迷宮を進むことさらに二時間。
私たちはようやく最深部らしき場所までたどり着いた。
異様に広い空間が目の前に現れる。
しかも、このフロアはまるで昼間のように明るい。
この炭鉱は本来の用途に使われなくなって久しい。
当然ながら道中は明かりもなく、私の蛍光で闇を照らしつつ進んでいたんだけど……
頭上を見上げると、小型の太陽のような眩しい光の球が浮いていた。
光の球の下に、洞窟には不釣合いな黄金の玉座があった。
そこに肩肘をついて座っている人影がいる。
「よくぞここまでたどり着いた、愚かなるヒトどもよ」
ぱっと見の印象は大きな人。
けれどその頭部は不自然に長い。
なにより、全身が真っ白な体毛で覆われている。
いわゆる獣人族というやつだ。
この周辺のエヴィルを統括する、意思を持った上級エヴィル。
洞窟の最深部に居座り、この周辺地域のエヴィルに指令を出している者。
またの呼び名を、ケイオス。
「我が同胞を次々と打ち滅ぼしているヒトどもの噂は聞いていた。それが『フェイントライツ』を名乗る集団であることもな」
私たちは彼の話に耳を傾けるフリをしながら、いつでも戦闘に入れるよう陣形を整える。
「だが、ここまでだ。同胞の仇とは言わぬが、誇り高きケイオスの一員として、この『深淵の鬼人』ベルバウスが貴様らフェイントライツを蹴散らしてくれるわ!」
ベルバウスと名乗ったケイオスが玉座から立ち上がる。
その周囲を舞う禍々しい輝力は一般の輝攻戦士が発する輝粒子とは比べ物にならない密度だ。
こいつが、この洞窟の大ボスだ!




