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閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
4.5章 旅の道中 その2 - evils behaviour -
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251 ▽邪教信徒

「何をする気だ、小娘――あがっ!?」


 フレスに気が向いたトーア。

 その一瞬の隙に、ジュストの拳が顔面を打った。


「よそ見するなよ」

「小僧が……っ!」


 トーアは憎悪の表情でジュストを睨みつける。


「そんなに死にたいなら、望み通りにしてくれる!」


 怒声と共に風衝剣を振り下ろす。

 その一撃をジュストは易々とかわした。


 彼の体にはまだ強化の術の効果が残っている。

 とはいえ、武器を持たずに戦い続けるのは不可能だ。

 フレスはゼファーソードの所まで辿り着いたが、ジュストに渡すにはあまりに距離が離れている。


 だからフレスは、輝術を応用することにした。


「――氷鋭槍(グラ・スピアー)!」


 氷の槍の発生と全く同じ形でゼファーソードを持つ。

 そのまま術を発動すると、氷が剣を覆った。

 そして、普段と同じように射出。

 フレスはその攻撃をジュストに当てるつもりで放った。


 凍り付いた輝攻化武具が二人の近くの地面に突き刺さる。

 激突の衝撃で柄部分の氷がはがれ落ちた。


「よし、これで!」


 ジュストはトーアの斬撃を避けつつ、地面を転がってゼファーソードに近づいた。

 そして、彼はついにそれを手にする。


 ジュストの体が淡い光の粒に包まれた。

 さっきの輝強化(シャイナップ)とは比べものにならない光量。


 これこそが輝攻戦士の証、輝粒子だ。


「うおおおおおっ!」

「ぬんっ!?」


 ジュストは下からすくい上げるような斬撃を繰り出す。

 トーアは振りかぶった剣を叩きつけるように打ち下ろしそれに対抗する。


 金属同士が触れあう、鋭くも軽い音が響いた。

 ジュストは剣を振り抜いた格好のまま止まっている。


 そして、やや前屈みの姿勢になったトーアの手には……

 何もなかった。


 風衝剣が宙を舞っていた。

 高く、目視することも難しいほどの高空に。

 回転しながら再び重力に引かれ、放物線を描いて遠くの森の中に消えていく。


 何が起こったのかわからず呆然とするトーア。

 その首筋に、ゼファーソードの切っ先が突きつけられた。


「ま、まいった……」


 トーアは両手を挙げて降参の意を示す。

 ジュストはすぐには剣を降ろさない。

 数秒間そのまま硬直が続いた。


「ふう……」


 やがてジュストは剣を降ろし、大きくため息を吐いた。

 輝攻戦士状態を解除した。

 その瞬間。


「馬鹿め、やはりガキか!」


 降参したはずのトーアがジュストに飛びかかる。

 彼の手から、無理矢理ゼファーソードを奪い取ろうとする。


「あきらめの悪い!」

「なんとでも言え! これさえあれば――がっ!?」


 掴み合いは一瞬で終わった。

 ジュストの肩越しに跳んできた細長い物体が、トーアの顔面に直撃したのだ。


 地面に落ちたそれをよく見れば、ゼファーソードの鞘である。

 顔面を強く打ちつけ、仰向けに倒れるトーア。

 今度こそジュストは容赦しなかった。


「はあっ!」


 思いっきり足を振り下ろし、トーアの膝を踏み抜く。

 骨の割れる嫌な音。


「ぐ、が……」


 トーアは目を見開いて悶えていた。

 ジュストを助けて鞘を投げたのはダイだった。

 やはり、吹き飛ばされた程度でダウンするような少年ではない。


「物足りねえけど、借りは返したってことにしてやるよ。だから早く武器をよこせ」

「それはいいけど、今の鞘、ちょっとズレてたら僕に当たってたんだけど。あとフレスも、さっきのあれ何? 僕を殺す気?」


 ジュストは氷の槍に乗せてゼファーソードを飛ばしたことを言っているのだろう。

 確かにあれがジュストに直撃しないという保証はなかった。

 が、フレスは知らん顔で空を見上げて誤魔化す。


 フレスは自分の輝術の命中率がとても低い事をはっきりと自覚している。

 だからいっそのこと、ジュストに当てるつもりで撃っただけ。

 そしたら見事にズレて地面に突き刺さってくれた。

 結果オーライだからいいじゃない。


「はい、ありがと」

「おう」


 ジュストがダイにゼファーソードを返す

 彼はそれを鞘に収め、いつものように腰に装着した。


「ククク……」


 ジュストの足元でトーアが不気味な笑い声を上げた。

 足はもう動かせないだろうに、まだ何か企んでいるのだろうか。


「何が可笑しい?」

「決まっておるわ。意地汚く現世にしがみつく愚物共、どうせ貴様らはすぐに死ぬことになるのに……」

「そんな状態で何ができるってんだ」


 ダイがレザージャケットのポケットに手を突っ込んだままトーアに近づく。

 不意打ちを食らったばかりだというのにあまりに無警戒である。

 もしかしたら頭に血が上っているのかもしれない。


「まもなく闇の始祖のしもべがすべてを焼き払うだろう。貴様らだけではない、トラントの町の住人も、我の才能を嫉んで追放した王宮のクズ共も。エヴィルはこの世に生きとし生けるすべての人間を、地の国へと誘ってくれるのだ!」

「ああ、そうかよ!」

「うぐほあっ!?」


 ダイが躊躇なくトーアのみぞおちを踏みつける。

 彼は短くうめき声を上げて今度こそ失神した。


 ようやく倒れてくれた、が……

 フレスはトーアの言葉に薄ら寒いものを感じた。

 人類すべての死を願うなんて、まるでエヴィルだ。

 いったい何が、彼をそこまで駆り立てたのだろうか。


「ちっ、スッキリしねえな」


 舌打ちしつつ、ダイは気絶したトーアから背を向ける。


「で、どうすんだよ。これから」

「そいつは放っておいてもいいと思う。改心するなら治療してあげるつもりだったけど……」


 もはやそんな次元ではない 

 フレスは頼まれても彼の治癒を拒否したかった。

 適当に縛り上げておいて、衛兵に通報するのが一番だろう。


「教会に行きましょう」


 フレスは言った。

 本当ならこのまま無関係を貫きたい。

 だが、こんな狂った思想を掲げる堕天派(ルシフ)を放っておくことはできない。


「だね。正義の味方を気取るつもりはないけど、こいつらは放置するには危険すぎる」

「賛成だ。まだ暴れたりねえし、ルー子たちと合流する前にもう一仕事すっか」


 そしてフレスたちは、トラントの町へと三度みたび足を運んだ。

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