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閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
4.5章 旅の道中 その2 - evils behaviour -
230/800

230 ▽メガネの星輝士と少女吸血鬼

 一人の青年が山中を歩いていた。

 纏う衣装は装飾の控えめな術師服。

 緑色の長い髪を後ろで束ね、視力矯正用グラスをかけている。

 その中性的な容貌は、およそ美少年と呼んで差し支えないだろう。

 が、


「ねえ」


 青年の口から少女の声が漏れる。

 年齢を考えても明らかに不自然な声色だった。


「ねえってば」


 彼の他には誰もいない。

 独り言にしては言葉に意味もない。

 しかも青年の視線は道の先だけに真っ直ぐ向いている。


「こら、無視するな! ああもう、聞こえてますから!」


 青年の口から少女の声に続き、明らかな別人の声が発せられる。

 男性にしてはやや高めだが、この程度なら容姿と比べて不自然ではない。

 なぜなら、こちらが青年本来の声だからだ。


 彼の名はライン。

 鋼の国シュタール帝国における最も名誉ある輝士、星帝十三輝士シュテルンリッターの末席に名を連ねる男である。

 彼は現在、単身で特殊任務を帯び、遙か北部に位置する新代エインシャント神国を目指している。


 いや、厳密には一人旅ではなかった。


「返事くらいしなよ、わたしを怒らせるとまた寝ている間に裸踊りの刑に処すよ。ほんっとうにやめてください! 星輝士のそんな醜態が人目に触れたら牢屋行きじゃ済まないんですから!」


 先ほどから青年は一つの口で交互に別々の声を発している。

 声色を変えているわけでも二重人格というわけでもない。

 ラインの中には別の生物が住みついているのだ。


「だったら質問に答えなよ。はいはい、なんですかカーディナルさん」


 人にあらざるもの。

 人類の敵、エヴィル。

 その中でも高位に位置する意志を持ったエヴィル(ケイオス)

 彼はそれに寄生されているのだった。


 名前は『黒衣の妖将』カーディナル。

 魔動乱期には最強と呼ばれていたケイオスである。

 しかし現在は、わけあって彼女本来の肉体と、その力の大半を失っていた。


 ケイオスは肉体を失っても精神が滅びない限り生存する。

 ラインは新たな肉体を構築するまでの繋ぎとして、彼女の宿主に選ばれてしまったのだった。

 星輝士として高い輝力を持っていたのも災いしたが、実際の所は彼自身が迂闊だったのが主な理由である。


「で、なんで山道を歩いているわけ? 馬車を借りて街道を行く予定だったんじゃないの?」


 カーディナルはラインの中で四六時中起きているわけではない。

 外からはわからないが、話しかけても返事がない場合は眠っている可能性が高い。

 今回もさっきまで眠っていたらしく、麓の町でのやり取りは聞いていなかったようだ。

 できればずっと眠っていてくれればありがたかったのだが。


「町の仕立屋さんから、上の村に荷物を届けて欲しいって頼まれましてね」


 その荷物はラインが背負っている鞄の中に入っているドレスである。

 なんでも、受取人は近いうちに結婚式を挙げるそうだ。


 普通、町村間の品物のやり取りは、定期巡回の行商人に頼むものだ。

 しかし昨今の残存エヴィルの活性化により、行商人が街を訪れる回数も減っている。

 ドレスの製作を依頼されていた仕立屋は、頼まれたドレスを完成させたものの、迂闊にも行商人が前回来た時に渡し忘れてしまったようだ。


 このままではせっかく仕立てたドレスが無駄になってしまう。

 すでに前金ももらっているので、商品を届けられないとなれば信用も地に落ちてしまう。

 どうしたものかと嘆いていた行商人を、宿屋の一階にある酒場で見かけたラインが、代わりに荷物運びを請け負ったのだ。


「単なるお使いじゃないか! そうですけど?」


 カーディナルは怒っているが、何がいけないのかラインにはわからない。


「仮にも星輝士であるおまえがやることじゃないだろ。いえ、残存エヴィルのせいで街道の移動も危険ですからからね。次の行商人を待てば良いだろ。それじゃ間に合わないし、傭兵を雇うほどの余裕はないそうです。わたしたちは旅の途中なんだけど。そんなに遠回りにはなりませんよ、誰かに喜んでもらえるならいいじゃないですか」


 カーディナルが「はぁ」と頭の中でため息をついた。

 このような寄り道は、実は今回が初めてではない。


 困っている人を見かけると絶対に放っておけない。

 その上、人から頼み事をされると断れない性格なのである。

 なのでラインは、こうして至るところで寄り道をしては、時間を浪費していた。


 ラインはこういった地道な人助けこそが、選ばれた星輝士の本分であると認識している。

 そして、彼自身もそれで誰かが助かるのならば喜ばしいと思っている。


「別にいいけど、ピンクたちを見失わないよう用事が済んだらまた急ぎなよ。ええ、もちろんです」


 ラインたちの目的地は新代エインシャント神国である。

 しかし、彼の任務はただそこを目指せばいいというわけではない。

 並行して同じ場所を目指しているとある冒険者一行を、陰ながらサポートしなければならないのだ。


 その冒険者一行のうち、ダイという少年を除いては、ろくに旅をした経験もない。

 また、誰もが急激に手にした力を持て余している様子でもある。

 ルーチェという少女が顕著であるが、実力は確かなのに、とにかく見ていて危なっかしい。

 輝工都市(アジール)育ちということに加えて、ラインとは別の意味で物事に首を突っ込みがちな性格なのである。


 しかも現在、船旅の途中で船が沈没して、仲間が散り散りになっているらしい。

 こういった不測の事態を防ぐためには、こまめに先回りして導いてやらなければならなかった。

 どうせなら最初から一緒に行動をした方がいいとラインは思うのだが、それは何故かカーディナルが嫌がるのである。


「あ、村が見えてきましたよ」


 ラインが前方を指さしながら、彼本来の声で言った。

 無理やり話を打ち切ったようにも聞こえるが単に目の前の情報を伝えただけである。

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