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閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
4.5章 旅の道中 その2 - evils behaviour -
220/800

220 ▽消滅

 苦しそうに呻きながら、地面に横たわる四人の盗賊たち。

 ビッツさんはその横にしゃがみ込んで、一人ずつ首元に手を当てると、すぐに男たちは静かになった。


「え、あっ」

「殺したわけではない。また暴れられると困るので眠ってもらっただけだ」


 トレフは地面にへたり込んでいた。

 戦いが終わったのを実感すると同時に、火槍を撃つ前に感じていた恐怖が蘇ってくる。


「さあ、もう大丈夫だ」


 ビッツさんが手を差し伸べてくれる。

 その表情は、今朝と変わらない優しいものだった。

 トレフは火槍を放りっぱなしにしていたことに気づく。


「あ、あのっ、ごめんなさい! 私、勝手にビッツさんの武器を使ってっ」

「ああ、驚いたぞ。しかし、そなたが盗賊の注意を引いてくれたおかげで勝つことが出来た」


 ビッツさんは震えているトレフの手を取り、抱きかかえるように起こしてくれる。


「だが、あれは子どもが手にするものではない。反動が大きかっただろう、どこか痛めていないか?」

「だ、大丈夫です」


 確かに撃った時の衝撃の大きさには驚いたけれど、お尻と頭を軽く打った程度だ。

 指先が少しズキズキするけど、放っておけばすぐに治まる程度である。


「それよりビッツさんこそ、肩を斬られて……」

「なに、かすり傷だ」


 そう言うが、浅い怪我には見えない。

 現に今も血が流れ続けている。


「ちょっと待ってて下さい」


 トレフは自分の服の裾を破ると、その布きれを彼の肩に巻き、とりあえずの止血をした。


「すまんな」

「あまり動かないでくださいね。早く村に帰ってきちんと手当をしないと」

「うむ。しかしトレフは手際がいいな。一度見ただけで火槍の弾込めをしてみせたのは驚いたぞ」

「あ、あれは違うんです」


 トレフは自分で弾込めをしようとしたら、代わりに妖精がやってしまったことを話した。


「なんと……いや、あり得るかもしれんな」

「どういうことです?」

「見よ」


 二人の傍で横たわっている火槍。

 その上を妖精がくるくる回るように飛んでいる。

 まるで泉の上で踊っていた時のように、楽しそうに。


「エヴィルストーンが燃焼したことで、漏れ出た輝力を吸収しているのだ。おそらくはその過程を覚えたのだろうな」

「エヴィルストーン? モレデタキリョク?」


 彼の言葉はトレフにはよくわからない。


「そう言えば、もう一匹はどうした?」

「あ……」


 言われて思い出したが、少し離れた場所に寝かせたままだ。

 トレフは急いで草をかき分け妖精を探す。


 翅の生えた少女はすぐに見つかった。

 が、やはり目を閉じたまま小さく震えている。

 両手でそっと抱きあげて、ビッツさんの所まで運ぼうとするが――


「えっ……?」


 妖精はトレフの手の中で淡く輝き始めると、一瞬後には形を失って、細かい光の粒になって消えてしまった。


「えっ、えっ。妖精どっか行っちゃった」


 いつも現れる時のように、光の球になったのかと周囲を見回す。

 しかし、今回はどこにもその姿は見えない。


「やはりか……」

「どうして? なんでいきなり消えちゃったの?」

「いいかトレフ。おそらく妖精というのは――」

「おいおい、やられちまってるじゃねえか!」


 ビッツさんが何かを口にしようとした時、遠くから野太い男の声が聞こえてきた。


「どうなってんだよ。いつまで経っても呼びに来ないから様子を見に来てみれば、まさかあんな男とガキに負けたんじゃないだろうな」

「おい、あれって輝動二輪じゃねえか」

「うおっマジか。一獲千金っ!」


 次々と現れる、ぼろ布を纏ったような格好の男たち。

 会話の内容から見ても間違いなくさっきの盗賊たちの仲間だろう。

 前からだけじゃなく、後ろからも近づいてきている。

 五、六、七……八人も。


「最悪だな」


 ビッツさんが苦々しげに呟いた。

 彼はただでさえ腕を動かすこともできない怪我を負っている。

 こんな状況で、さっきよりも大勢の盗賊に囲まれるなんて……


「ど、どうしようっ」

「一応、交渉を試みる」


 パニック状態のトレフと対照的に、ビッツさんはあくまで冷静だった。

 火槍を手に立ち上がり、盗賊たちに呼びかける。


「お前たち、そこで止まれ」

「あ?」

「倒れている仲間が見えるだろう。同じ目になければさっさと立ち去れ」


 下手に出ることなく、あくまで強気で脅しをかける。

 この状況ですごいハッタリだと思った。

 が、盗賊達は怯えてくれなかった。


「おい、優男が何か言ってるぞ」

「なに言ってやがんだ。やれるもんならやってみろ」

「武器は持ってねえみたいだし、まさか四人ともあの棒きれ一本でやられたのか?」

「こりゃ頭も引退時だな」

「大方キタネエ不意打ちでも食らったんだろうよ」


 火槍を武器だと認識していないのだろう。

 まったく脅しが通じていない。


「……子ども連れゆえ、無駄な殺生はしたくないと思っているのだが」

「うひひ。弄り甲斐ありそうだなあ。なあ、あのガキは俺がもらっていいよな」

「ひっ」


 盗賊の一人が剣を舐めながら嫌らしい視線をトレフに向ける。


「どうしても聞いてもらえぬなら、仕方ない」


 交渉は失敗。

 ビッツさんは深く溜息をついた。


「トレフ。顔を伏せて目をつぶっていろ」

「えっ」

「あまり気分のいいものではないからな」


 そう言いながら、ビッツさんは懐から白い小袋を取り出した。

 火槍に入れる粉が入っていたのと同じような袋だ。

 しかしその口は固く結ばれている。


 ビッツさんは火槍を立て、筒先から小袋の中身を入れて行く。

 先ほどの粉は赤色だったが、こちらはオレンジ色である。

 粉を入れ終わった後は、球の代わりになにやら楕円形の物体を込めた。

 それをすばやく奥まで押し込んで行く。


「オイコラ、何してやがる」

「最後の警告だ。死にたくなければ今すぐに立ち去れ」


 火槍を構えてビッツさんが低い声で脅す。

 盗賊はかえって怒りを増すだけだった。


「うるせえ、やっちまえ!」


 五人の男が剣を振り上げ向かってくる。

 目を瞑れと言われたが、トレフは男たちから視線が放せなかった。

 ビッツさんは小さく舌打ちをして、指先に力を込める。


 その直後。

 黒い蛇のような何かが宙を切り裂いた。

 ビシィ、と強く叩く音が聞こえる。

 と同時に盗賊の体が吹き飛んだ。


 音は連続する。

 ある者は肉を切り裂かれて叫び声を上げる。

 ある者は上からの力に強引に地面に叩きつけられた。

 またある者は、黒い何かに捕らえられ、森の向こうへと放り投げられた。


「はっ、ああっ?」


 最後に残った盗賊が、マヌケな声を出して周囲を見回す。

 トレフに嫌らしい視線を向けた気持ち悪い男だ。

 すでに立っている者は彼しかいない。

 木の上から人影が降ってきて、男の背後に着地した。


「幼い少女に手を出すような外道は、地獄で懺悔しろ」


 その人物は盗賊の首筋を掴むと、信じられない力で思いっきり地面に叩きつけた。

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