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閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
4.5章 旅の道中 その2 - evils behaviour -
219/800

219 ▽妖精の援護

 次々と襲いかかってくる盗賊たち。

 彼らが振るう刃を受け止め、あるいは避けながら、ビッツさんは反撃のチャンスを狙っていた。

 しかし、今のところ有効な攻撃はできていない。


「が、がんばれっ」


 トレフは声を絞り出して応援する。

 ビッツさんの手助けをすることは自分にはできない。

 ならばせめて応援だけでもと思い、足の震えを必死に堪えながら、その場に踏み留まって声を出した。


 思わず力が入り、拳を握りしめそうになって、掌の中に妖精がいることを思い出す。

 そういえば、もう一匹の小さい方の妖精はどうしたんだろう。

 さっきまでビッツさんの周りを飛んでいたのだが……

 戦いが始まって、逃げてしまったんだろうか?


 トレフは周囲を見回す。

 ビッツさんが最初の攻撃に使い、剣を手にすると同時に投げ捨てた火槍。

 その側に妖精はいた。


 何をしているのだろうか。

 銃口のあたりをクルクルと回るように飛んでいる。


 ふと、トレフは思いついた。

 あれを使えば、ビッツさんを援護することができるんじゃないか。


 こうしている間にもビッツさんは盗賊たちに押され始めている。

 相手が三人がかりでは、先に体力が尽きるのがどちらかは明白だ。


 幸いなことに、ビッツさんの腰の袋から粉の入った小袋と弾丸が零れ、火槍の近くに転がっている。


「よし」


 トレフは意を決し、ゆっくりと移動を開始した。

 ビッツさんも盗賊たちも、戦いに夢中で、こちらには気を払っていない。


 火槍の所にたどり着く。

 それを拾い上げて、近くの茂みに隠れる。


「えっと、こっちの袋を開けて……」


 トレフは妖精を地面にそっと横たえ、見よう見まねで弾を込めようとする。

 しかし、銃口に視線を向けている間に、手にした小袋の感触が消えた。

 ギョッとなって首を上げるが、傍には誰もいない。

 地面に落したわけでもない。


 どこに行ったのだろう?

 思う間に、それはすぐに見つかった。


「えっ」


 小さい方の妖精が小袋を持って飛んでいた。

 指のない小さな手で器用に袋を開けると、垂直に立てた火槍の筒先に、中身の粉を注いでいく。

 さらに蓋をするよう弾丸を込めると、最初に現れた時と同じような光の球となって、自ら筒先に飛び込んでいった。


 一秒ほどして、妖精が筒先から出てくる。

 妖精は火縄に取り付き、両手を合わせた。

 まるで輝術のように、小さな火が灯る。


「おまえ……」


 驚くことに、この小さな妖精は、ビッツさんがやった弾込めの手順を鮮やかに再現してみせたのだ。

 ゴマ粒のような小さな目でこちらを見ながら、火槍の傍をクルクルと回っている。


 いったいこの小さな少女はなんなんだろう。

 本当に絵本で見た妖精なんだろうか。

 いや、今はそれよりビッツさんだ。


 妖精の行動の意味は良く理解できないが、火槍を撃てる状態になったのは間違いない。

 早く援護しなければ。


 茂みの中から上半身を出し、盗賊たちに火槍の筒先を向ける。


 万が一外してしまったら?

 いや、外れるだけならまだいい。

 間違ってビッツさんに当たってしまったら……


 考えると足が震える。

 ビッツさんのマネをして担いだ火槍は、思っていたよりもずっと重かった。


「あっ」


 盗賊の剣がビッツさんの左肩を斬り裂き、血飛沫が舞い上がる。

 トレフは思わず声を出してしまったが、誰もこちらに気づいていない。


 もはや一刻の猶予もない。

 トレフは火槍を構える(と言うより両手で何とか持ち上げる)と、盗賊の一人に筒先を向けた。


 一人でも倒せばビッツさんは有利になるだろう。

 震える手を抑え、両足を踏ん張り、引き金に指をかける。


 盗賊が前の人間と交代に攻めに移る、その直前。

 トレフは指先に力を込めた。


「うわあっ!」


 耳が壊れるかと思うくらいの轟音が鳴り響く。

 トレフの体が凄まじい衝撃を受けてはね飛ばされた。

 あまりの反動に、立っていることすらできなかったのだ。


 手の中から火槍がこぼれ落ちる。

 ぶつけた頭をさすりながら前方に視線を向ける。

 そこには驚いた顔でこちらを見る三対の目があった。


 視線は全て盗賊のものである。

 外した、と理解した直後。

 凄まじいものを見た。


 四人の中で唯一、集中を切らさなかったビッツさん。

 その視線は盗賊たちだけを向いている。

 彼が疾風のごとき素早さで近くにいた盗賊二人を斬りつけた。


 斬撃。

 同時に体当たり。

 目の前の敵を吹き飛ばし、残った最後の一人に接近する。

 ビッツさんの行動に気づいた盗賊は、絶叫と共に剣を振り上げる。

 それが振り下ろされるよりも速く、ビッツさんの剣が男の胴を薙いだ。

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