209 六人目の仲間?
全員の治療が終わった後、私たちは皇帝さまに呼び出されてお城に向かった。
途中、すっかり忘れていた背中の傷が痛み出し、ついでにラインさんに治療してもらっちゃった。
ボロ泣きだったけど、治癒の術に手抜きはなし。
さすが星輝士さまだね!
謁見の間。
前回はかなり緊張したけれど、今回はジュストくんやラインさんも一緒だから少しはマシかな。
ちなみに、ダイは面倒だから、フレスさんは緊張して恥を掻きたくないからという理由で、謁見を辞退している。
「こちらです、どうぞ」
星輝士のメルクさんが扉の前で立ち止まり、横に移動して私たちに道をあける。
「一緒に来てくれないんですか?」
「英雄の凱旋に、部外者が混じるのは無粋でしょう」
「メルクさんだって一緒に戦ったのに」
「肝心なところで役には立てませんでしたから」
彼女は自嘲気味に笑ってみせる。
そんなことなかったと思うけどな……
「それにしても、本当にあの黒衣の妖将を倒してしまうとは。白の生徒様とは凄いのですね」
「いやあ……」
戦いの途中で気絶したメルクさんは、カーディがまだ生きていることを知らない。
結果的にみんな無事だったとは言えとはいえ、今回の事件は多くの被害者を出した。
なのでカーディは私たちの手で倒され、消滅したということになっている。
提案したのはカーディ本人。
彼女も追っ手に狙われることがなくなり、一石二鳥なんだそうだ。
メルクさんも、皇帝さまも、王宮の人たちもカーディが生きていることを知らない。
私たち以外で事実を知っているのは、高層棟の博士くらいかな。
それも、絶対に他言無用って言ってある。
ということで、最強のエヴィルを倒した(ことになった)ため、私たちは都市の英雄として表彰されることになったのです。
「ボクも何もしてないんですけど。宿賃代わりの名誉をくれてやろうって言ってるんだから、ありがたく受け取っておけ」
さっきからずっと口元を拭い続けているラインさんがボソリと呟き、その同じ口でカーディがからかうように言った。
それにしてもこのカーディ、事件の首謀者なのに、自分を倒したことになった人間に紛れ込んで皇帝さまの前に出ようとしてるんだから、すごい大胆さだよね。
「静かに、扉が開くよ」
ジュストくんが言う。
謁見の間の大きな扉が、例によって兵士さんの手で左右に開かれた。
私たちは真っ赤なじゅうたんの上を並んで進む。
皇帝さまの前に立ち、礼をする。
ふふ、流石に三度目になれば慣れたものよ。
「大賢者の弟子たちよ、そして彼らに助力した誇り高き星輝士よ。貴公らはこの帝都アイゼンを救った英雄じゃ!」
玉座から立ち上がり、高らかに話す皇帝さま。
私はちょっとたじろいだ。
英雄なんて呼ばれるほどすごいことしたつもりはないんだけどな。
大国の皇帝さまからこんな風に褒めてもらうなんて、夢にも思ったことなかったよ。
「勇者殿の姿がまたしても見えぬのは残念じゃが、ともかくよくやってくれた」
ジュストくんが「勇者?」と聞きたげな顔をこちらに向ける。
ダイのことを皇帝さまが勘違いしているんだけど、本人の前でそんなことも言えないし、後で説明するね。
「白の生徒の若き輝士よ。そして聖少女を継ぐ者よ」
「はい」
「は、はい」
皇帝さまの呼びかけに、ジュストくんは堂々とした態度で、私は上ずった声で返事をした。
「そなたらは新代エインシャント神国を目指していると聞いた。此度の礼代わりと言っては何だが、すぐに航路を手配させよう」
え、本当?
船を使えば安全に、それも早く新代エインシャント神国kにたどり着くことができる。
私たちにしてみれば願ってもないチャンスだけど……
「僭越ながら皇帝陛下。白の生徒とは言え、我々はまだまだ未熟です。自らの足で旅をし、より一層の精進をするよう大賢者様から仰せつかっております。お心遣いは感謝いたしますが、我らはこれまで通り陸路での旅を続けたいと思っております」
わ、すごいジュストくん。
皇帝様の前なのに堂々としゃべってる。
輝士の貫禄? っていうのかな。
カッコイイっ。
「あいわかった。ではせめて、上等の輝動馬車と十分な路銀を用意させよう」
わ、それはありがたい。
馬車は使えなくなっちゃったし、陸路を行くにしても、お金がもらえるならすごい助かる。
そういうご褒美ならありがたくもらっちゃいますよ。
「ありがとうございます」
「あ、ありがとうございます」
ジュストくんに習って、私も膝をついて頭を下げた。
どこかおかしかったのか、周りの兵士さんたちから笑いが漏れた。
「星帝十三輝士十三番星、ラインよ!」
「はは、はい!」
名前を呼ばれたラインさんは、私以上にうろたえながら返事をした。
この人は逆に慣れてなさ過ぎでしょ。
星輝士なのに。
「よくぞ彼らと協力し巨悪を討ち取ってくれた。貴公の働きの甲斐あって、星輝士の誇りも守られたと言えるだろう」
「い、いえ。ボク……私はたいした事はしてな、してません」
絶賛されたラインさんはとても居心地が悪そう。
たいした事をしてないどころか、吸血鬼に乗っ取られてすごい迷惑をかけたしね。
「そなたにも何らかの褒美を与えよう。望みがあるのなら、何なりと申してみよ」
「ならば、どうかわたしに彼らとの同行を許していただきたいと思います」
私は思わずラインさんの方を見た。
うって変わって堂々とした受け答え。
それに加えて、顔つきまで数秒前とは別人のようだった。
いや、別人か。
カーディが彼の体を支配して喋っているんだ。
「此度の戦いで、わたしは自分の未熟さを知りました。今後は彼らに同行し、彼らに学ぶとともに、自らの五感で得た知識を帝国のために役立てたいと思っています」
「ほう……しかし、星輝士である貴公には、国内を守護する大役があるではないか」
「無理は承知でお願いしております。わたしは彼らに希望を見たのです。世界のため、ひいてはシュタール帝国の平穏のために、この命を賭けて使命を全うしたい。その願いを叶えるのに星帝十三輝士の称号が邪魔をするのなら、この場にて我が位、謹んで返上いたします」
ドサクサに紛れてとんでもないことを言うカーディ。
驚きに目を見開くラインさんの顔が一瞬浮かび上がった。
カーディは彼に何も言わせないまま、堂々とした態度で言葉を続ける。
「今、ミドワルト中の残存エヴィルが活性化し、魔動乱以来の危機が訪れようとしています。此度のような悲劇を二度と繰り返さないため、彼らと共に戦うことが、真の平和に繋がるとわたしは思うのです」
よくもまあ、さんざん騒がせておいてそんなことが言えるもんだと思う。
けれど皇帝さまはカーディの言葉に感動したのか、大きな音を立てて拍手をした。
「素晴らしい、貴公の覚悟は確かに受け取った。ならば改めて貴公に命じよう。新代エインシャント神国へと向かう彼らを助け、存分にその力を振るうが良い。無論、十三番星の称号は貴公に預けておく」
皇帝さまの命令という形になったため、星輝士の地位を剥奪されなかったのは不幸中の幸いだけど、きっとラインさんは止めてもらいたかったに違いない。
カーディが引っ込むと同時に、ものすごく悲しそうな顔で皇帝さまを見上げていた。
周りの兵士たちからも拍手が巻き起こる。
もう撤回できるような空気じゃないね、これは。
吸血鬼に乗っ取られていたと知られれば、星輝士の剥奪どころか、犯罪者扱いされてもおかしくないんだし。
「さあ、今日はめでたい日だ。ささやかではあるが宴の準備をさせよう。新たな英雄の旅立ちを、皆で祝福しようではないか!」
この皇帝さまも随分演出過剰と言うか、自分の言葉に酔っている節があるなあ。
偉い人なんてこんなもんなのかもしれないけど。
まあ、ほめてもらうのは悪い気はしないし、素直に喜んでもいい、かな?




