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閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
第4章 鋼の国の吸血鬼 - star knights vs vampire girl -
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207 こくいの幼少

「……ちっ、失敗か」


 光が消え、実体化したカーディナルの外見は、さっきまでとは明らかに違っていた。

 黒い服は元のままだけど、サイズは今の体格にぴったりと合っていて、帽子は被っていない。

 髪はセミロングだったさっきと違って、腰まで届くロングヘア。

 そして、何よりも目を引いたのは、その容姿が……


「まあいい、とりあえず体を形成できただけでも良しとしよう。足りない分の輝力は改めて補充すればいいだけだし、ひとまずこの街を離れて、近くの町」

「かわいい!」


 私は思わず目の前の幼女を抱きしめた!


「な、何をする!?」


 だって、だって。

 超かわいいんだもん!

 カーディナルの新しい姿は、一メートルにも届かない小さい女の子。


 人間でいう初等学生低学年くらいかな。

 元々端整な上に童顔だった顔立ちと相まって、びっくりするくらいかわいい。

 っていうか、マジでかわいい。


 やーん、かわいいよお。

 やーん、やーん、やーん。


「やーん」

「うるさい、離れろっ!」


 カーディナルが私の手から離れようともがく。


「気安く触れるんじゃない! わたしは黒衣の妖将、おまえがさっきまで戦っていた相手だ!」

「だってかわいいんだもん!」

「わたしは敵! おまえの仲間やこの街の人間を襲ったケイオス!」

「かわいいから許す!」


 かわいいは正義。

 こんなにらぶ☆きゅんな童女をいじめるなんて、そっちの方が悪魔だと私は思う。


「あの、ルー……」


 ジュストくんが私に話しかけてきた隙に、手の中からカーディナルが逃げた。

 もう一度抱きつくため間合いを計りつつ私は彼に答える。


「ジュストくん、ちょっと待っててね。この娘のやわらかさとあったかさとかわいさを堪能したら話を聞くから」

「いや、その子って多分、黒衣の妖将だと思うんだけど」

「そんなことわかってるよ」

「だったらさ、その、危ないから近寄らない方が」

「いいから、今は私の好きにさせて。お願い」


 今は世界がどうなろうと、この子を再び抱きしめずにはいられない。

 たとえジュストくんが何と言おうと、私は私の目的を達成してみせる。


「なに。なんなの。ヘンタイ……?」


 カーデイナルがすごい嫌そうな顔で後ずさる。


「ヘンタイじゃないよ。かわいい娘が好きなだけだもん。ほらおいで、おねえちゃんが、ぎゅー、ってしてあげるから」

「気持ち悪い! っていうか、どうしておまえは輝力を奪われたのにそんなに元気そうなんだよ!」

「かわいいを前にして寝てなんかいられないよ!」

「……もういい。動けなくなる前に始末する!」


 そう言ってカーデイナルが手を振りかざす。

 銀色に光る大きな剣が虚空に形成され――

 からーん。


「…………」


 手から零れて地面に落ちた。

 恥ずかしそうにこちらをちらりと見て、カーディナルは剣を拾おうとする。

 が、以前のように軽々と持ち上げることができない。

 顔を真っ赤にしながら、うーんうーんと唸っている。


「おもいの? もしかして重くて持てないの?」

「うるさい! うまく武器に輝力が伝わらないんだよ!」


 なにこのかわいい生き物。

 やばくない? やばいよ、ぜったい。


「危ないから無理しちゃダメだよ。めっ」

「う、うるさいって言ってる!」


 それでも無理してなんとか柄の部分だけでも持ち上げるカーディナル。

 やーん、一生懸命でかわいい。


「かーでぃ」

「は……?」

「カーディって呼ぶ。カーディナルって長いし、そっちの方がかわいいと思うんだ。こんなにかわいいんだから、愛称の一つもなくっちゃね」

「わたしは最強のケイオス、黒衣の妖将だぞ?」

「それともナルちゃんがいい?」


 カーディはぐっと言葉に詰まった。

 怒ってるんだか恥かしいんだか、複雑な表情をしている。

 はい、カーディに決定。


「さあ、無駄な抵抗はあきらめて大人しく私に抱かれるがいい」

「このヘンタイめ……」


 カーディは剣を捨てて指先に術を集中し始めた。

 青白い光がバチバチと音を立てている。


「それ以上近づいてみろ。消し炭にしてやる」


 私は一瞬の躊躇いもなく彼女に近づき、ぎゅ、っと力一杯抱きしめた。


「カーディ、可愛かわにゃん……わわわわわ」

「わわわわわっ! 離れろ、わたしまでしびれる!」


 暖かいぬくもりが腕の中に広がる。

 同時に全身がビリビリするけど、耐えられないほどじゃないぽよ。


 というか、術の威力も普通に弱い。

 輝術耐性のある術私服を着ている私にとってはちょっと痺れる程度。

 むしろ一緒に感電いているカーディの方が辛そう。


「こら、おイタはダメでしょ」


 私はぐったりとしているカーディの額を指でコツンとつついた。


「な、なんで、そんなに、元気に」


 涙ぐんでるカーディ。

 私はそんな彼女の頭を優しくなでなでする。


「ごめんね、痛かった?」

「だから、抱きつくなっ……わわわわっ」

「わわわわわ」


 お詫びにぎゅってしてあげたのに、懲りもせずに微弱な攻撃を繰り返すカーディ。

 私は大丈夫だけど、このままじゃカーディが大変だ。


「わわわ……えい、輝術中和」

「はあ!?」


 しびれが消えたので、私は容赦なく抱きつきを再開した。


「な、なっ……おまえっ、いま何をやったっ」

「だって、カーディがビリビリして辛そうだったから」

「理由を聞いているんじゃない! どうやってわたしの電撃をかき消したかと聞いている!」

「あのまま続けてたらカーディが痛いでしょ?」

「そうじゃなくて、輝術中和(レジスト)なんて高等技法、さっきまで使えなかっただろ!? そもそも、おまえにもう輝力は残ってないはずだっ!」

「え、そんなことないよ。ほら」


 私は手を開いて、火蝶を一匹とばしてみせた。

 ひらひらと風に舞う火蝶が瓦礫の向こうに飛んで行く。

 なぜかカーディは頭を抱えていた。


「……話がある」

「なあに? おねえちゃんが何でも聞いてあげるよ」

「もしわたしの言うとおりにするなら、輝力を奪ったやつらを元に戻してやってもいい」

「まあいい子。カーディは偉いねー」


 頭を撫でていい子いい子してあげると、顔にパンチが飛んできた。

 だがその痛みさえもいまの私には心地よい。


「ひとの顔をぶっちゃダメでしょ」

「話を聞けって言ってる!」


 おこられちゃった。

 いけないいけない。

 小さい子も色々と考えたり悩んだりしてるから、真剣に話を聞いてあげるんだよって、ターニャのお母さんに言われたのを思い出す。


 反省はんせい。

 ええと、カーディはなんて言ったかな?

 たしか、輝力を奪われた人たちを元に戻すとか……

 え?

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