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閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
第4章 鋼の国の吸血鬼 - star knights vs vampire girl -
198/800

198 タイムリミット

 街の北西部にある、元隔絶街の廃墟にやって来た。

 二日前にカーディナルと約束をした場所。

 周囲に誰もいないことを確認した上で、私は精神を集中させる。


 私はつよい。

 私はだれにもまけない。

 私はさいきょう――


「……っ!」


 心臓が大きく跳ね上がる。

 どうやらここが限界値。

 深呼吸を一つして気持ちを安定させ、術を唱える。


火蝶弾イグ・ファルハ!」


 煌々と燃え上がる火の蝶が、私の掌から次々と生み出される。

 その数は六つ。

 私は目の前の朽ちかけた家を見た。

 誰かの思い出が詰まっていたかもしれないと考えると、少し心が痛む。

 けれど、ごめんなさい。

 壊させてもらいます。


「やっ!」


 火蝶のひとつが、矢のような勢いで飛び立った。

 それは家の壁を易々と貫いて中に進入する。

 次の瞬間、建物の中で大きく燃え広がった、


「やっ、やっ!」


 崩れ落ちる瓦礫の、大きい欠片から順に狙って火蝶をぶつけていく。

 あるものは弧を描き。

 あるものは本物の蝶のようにひらひらと不規則な軌道を描きながら。


 二つ、三つ、四つ……

 建物はさらなる炎に包まれ、今や大火事状態だ。

 六つすべてを撃ち終えると、私はわずかな気配を察知して真上を向いた。

 屋根部分が崩れている。

 破片が落下してくる。

 考えるよりも先に術を撃つ。


閃熱掌(フラル・カノン)!」

 

 右手から放った真っ白な閃光が、頭上から落ちてきた欠片を貫いた。

 粉々になった塵が頭上から降り注ぐ。

 風穴のあいたレンガは空中で分解して、私の左右に落ちた。


 私は再び瓦礫の山に目を向ける。

 これまでよりも大きな破壊のイメージを数秒かけて浮かべ、ボール投げの動作でそれを放つ。


爆炎弾フラゴル・ボム!」


 オレンジ色の火球は放物線を描いて瓦礫の山に落ちた。

 同時に耳を塞ぎたくなるような轟音とともに爆発する。


 目を瞑り、意識の集中を解く。

 瞬間、建物を灼いていた炎は瞬く間に消失した。




   ※


 あとに残ったチリの山を見ていると、むなしい気持ちだけが広がってくる。

 ……なにか違う。

 こんなことを繰り返していても、強くなんかなれない。


 ジュストくんが何を考えているのか知らないけど、彼に頼りっぱなしなわけにもいかない。

 いざとなったら、私があのカーディナルを何とかしないと。


 少しずつ限界点を引き延ばして力を引き出す練習をしているけれど、この程度じゃいつまで経ってもアイツには敵わない。

 爆華炸裂弾フラゴル・アルティフィより威力の低い汎用の爆炎弾フラゴル・ボムも、いちおう練習して使えるようになってみたけれど、実戦で役に立つかは微妙なところだ。


 爆炎フラゴル閃熱フラルも、威力がある代わりに敵に当てるのが難しい。

 閃熱フラルはとにかく有効射程が短くて、かなり接近しなきゃ当てられない。接近戦も得意なカーディナルにそこまで近づくのは自殺行為だ。

 爆炎フラゴルは相手にぶつけてから爆発するまで一秒くらいの間があるから、よっぽど上手く当てないと簡単に避けられしまう。


 ぱちぱちぱち。

 ふいに拍手の音が聞こえて、後ろを振り返った。

 そこにはマルスさんの妹の星輝士メルクさんが立っていた。


「お見事です。さすが白の生徒様ですね」

「あ、お疲れ様です。メルクさん」


 彼女は今も毎晩吸血鬼探しを続けているらしい。

 お兄さんの仇を討つために血眼になってカーディナルを追っている。

 私はカーディナルの居場所を知っているけれど、彼女に教えてあげることができない。

 それが後ろめたくて、思わず目をそらしてしまう。


「……いえ、私なんかまだまだです」

「ご謙遜を。これほど巧みに高威力の術を操れる輝術師など、帝国のどこを探しても見つかりません。新代エインシャント神国にも、あなたに敵う輝術師はそういないでしょう」

「でも、アイツには全然敵いません」


 私はそんな大層な輝術師じゃない。

 人より少しだけ才能があったとしても、いま倒すべき相手に勝てないんじゃ意味がない。

 何度頭の中でイメージを描いても、カーディナルが余裕の笑みが崩れるところすら思い浮かばない。


「メルクさん、昨日も明け方まで捜索してましたよね。疲れてませんか?」

「いえ。吸血鬼を退治しない限りは、ゆっくりと寝てなどいられませんから」

「寝なきゃ倒れちゃいますよ。気分転換に、しばらく休んだ方がいいんじゃ……」

「ですが、間もなく事件は解決すると思います」

「え?」


 予想外の彼女の言葉に私は思わず聞き返した。

 メルクさんは少し間をおいて、悔しそうな顔で言葉を続ける。


「輝士団の本格投入が決定されました。二〇〇人以上の輝士が総勢であのケイオスに当たります」


 そのとんでもない数に、私は思わず「えっ」とまぬけな声を出してしまった。


「それって、かなり大変なことですよね」

「ええ。輝士団が総出で作戦行動を行うなど、かつての魔動乱以来。それも帝都内での戦闘となれば、長いシュタール帝国の歴史上で初めてのことです」


 前代未聞の大事件。

 それはもう、戦争と呼んでいいかもしれない。


「上位の星輝士を招集できれば、話は違ってくるのでしょうが……」

「一番星とか二番星とか?」

「はい。四番星以上の星輝士は我々下位の星輝士とは別格です。二番星と四番星は同じ剣術使いですが、私ごときではまるで相手にならないほどに強いです」


 そういえば、ザトゥルさんも一番星の人なら全盛期のカーディナルにも負けないって言ってたっけ。

 あの強いカーディナルをやっつけちゃうなんて、どんなすごい輝士なんだろう。

 筋肉ムキムキで身長三メートルくらいあったりして。


「その人たちはアイゼンに戻って来られないんですか?」

「彼らは残存エヴィルが活性化すると同時に、陛下の指示を受けて各国の危険地帯に散らばっています。それを呼び戻すとなると、周辺諸国の不安を煽ることになりますので……」


 いやいや、自分の国が大変なことになってるのに、強力な輝攻戦士をよその国に派遣している場合じゃないんじゃないの?

 メルクさんは苦々しげに言葉を続ける。


「彼らが再召集されるのは、輝士団による作戦が失敗した後になるでしょう……そのような事態は、何があっても避けたいところなのですが」


 難しい政治の話はよくわからないけど、二〇〇人以上の輝士が都市内で戦闘を行うっていうのが、どれだけ大変なことになるかはだいたい想像がつく。


 乱れ飛ぶ矢。

 飛び交う輝術。

 剣を構え突撃していく輝士たち。


 相手はあのカーディナルだ。

 きっと市民の犠牲者も多く出る。

 その光景を想像してゾッとした。

 街を戦場になんて、絶対にさせちゃいけない。


「その作戦はいつごろ……?」

「部隊の再編成の後でしょうから、早くても十日後でしょうか」


 つまり、それまでにカーディナルを退治しなくちゃいけない。


「可能なら、私たちの手で何とかしたい。星輝士としての誇りもあります。だから私は、ギリギリまで吸血鬼を追い続けるつもりです」


 どうやらメルクさんも、私と同じ気持ちみたい。

 輝士団の手を借りず、自分たちの力で事件を解決したい。

 個人的な感情でも、私も仲間を二人もやられてるんだから。


「では、失礼します。ルーチェ様も、あまり無理はなさらないでくださいね」

「あ、待って!」

「何か?」


 踵を返して去ろうとしていたメルクさんを呼び止める。

 余計なことかもしれない。

 けど、これだけは言っておきたい。


「くれぐれも、無茶はしないでくださいね。誇りとか、命ほど大切じゃないと思うから……」


 私がそう言うと、メルクさんが怪訝な表情をした。

 うう、やっぱり輝士さまに言うべきことじゃなかったかな。

 安っぽい言葉だと思われたかもしれない。

 でも今のメルクさんを見ていると、自暴自棄になってしまいそうで放っておけない。

 彼女はきっと、私なんかが想像もつかないようなプレッシャーを感じているだろうから。


「私の身を案じてくれているんですね」


 メルクさんはフッと表情を緩めた。


「もちろん、私も兄をやられているわけですから、一矢報いてやりたい気持ちはあります。ですが自暴自棄になって命を粗末にするようなことは誓ってしませんよ」

「そ、そうですか。ごめんなさい、余計なことを言いました」

「いいえ、あなたのお心遣いを嬉しく思います」


 メルクさんは一礼し、今度こそ去って行った。

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