195 吸血鬼はどこに?
とりあえず、ジュストくんと仲直りできて良かった。
けど問題は、カーディナルをどうやって退治するかだ。
ジュストくんが輝攻戦士になったとしても、正面から戦ったんじゃダイの二の舞になってしまう。
現にこの前は私と二人で戦っても敵わなかったんだから。
「正面から戦っても、勝つのは難しいだろうね」
高層棟のエレベーターの中でジュストくんが言った。
「やっぱり、昼間のうちに見つけ出すしかないのかな。日中は力が出せないって前提でだけど」
「それが最善で理想だね。けど、本当に力を出せないなら、やつもそう簡単に姿を現さないだろう。輝士団がしらみつぶしに探しても見つからないのに、僕たちが見つけられるとも思えない」
「ひょっとして昼間は街の外にいるとか?」
「それはないよ。どんな手段を使おうが、外から侵入すればすぐに見張りの兵に見つかる」
「でも、スティは城壁を超えて侵入してきたよ」
「……は?」
ジュストくんが、何を言っているんだこいつって顔で私を見る。
私はスティがフレスさんを連れ戻すため、村を飛び出してここまでやってきたことを説明した。
「あいつ……いやいや……いくらなんでもそこまで……」
頭をおさえて首を振るジュストくん。
気持はよくわかるけど。
とりあえず、スティのせいで物理的に侵入できない説は覆った。
残る問題は結界の方だ。
「結界って、こっそり突破できるものなの?」
私の質問にジュストくんが顔を上げる。
「なんだって?」
「結界があるなら、そもそも街の中に入って来れないんだよね? カーディナルはどうやってアイゼンに忍び込んだんだろう」
「言われてみれば……」
結界っていうのは、侵入者防止の見えない壁みたいなもの。
通り抜けることはできないけれど、張られているのは街の外周部だけ。
だから、一度入ってしまえば中で動き回るのに影響はない。
けれどその分、街をぐるりと取り囲んでいる結界に隙間はない。
カーディナルはずっとこの街の中にいたわけじゃない。
半月ほど前に私たちと外で出会っているから入り込んだのはそれ以降だ。
じゃあ、どうやってカーディナルは最初に帝都アイゼンに侵入したんだろう?
「街の入り口は他と比べて結界が薄くなりやすいから、狙われるとしたらそこだけど」
「見張りの人たちが見過ごすわけがないよね」
「他は無理に通ろうとすればすぐに気付かれる。結界を突破される時はものすごい轟音がするからね」
不思議な点はもうひとつある。
「私、いまカーディナルがどこにいるのかわからない。あれだけの力を持っているなら、街のどこにいてもわかりそうなのに。昨日もダイが襲われる直前まで気づけなかった」
最初にカーディナルと会ったときは、かなり遠くからでも小さな反応が感じられた。
ところが昨日は、かなり傍に来るまで気付くことができなかった。
「もしかしたら、普段は自ら力を封じているのかもしれない」
「え、どういうこと?」
聞き返す私に、ジュストくんは難しい顔で説明をした。
「結界はエヴィルの邪悪な輝力に反応するから、力を封じた状態なら通り抜ける事も可能かも……」
「そんなことができるの?」
「以前に聞いたことある。ケイオスは人間の身体を乗っ取ることができると」
他人の身体に乗り移る。
私はその例をひとつ知っている。
「それって、スカラフがフレスさんにやったみたいに?」
「似たようなものだろうね。ケイオスは肉体を失ってもしばらくは精神体だけで生存できるらしくて、その状態で生きた人間に取り憑くことで擬似的に体を乗っ取ることができるそうだ」
普段は人間の中に隠れ、夜中にだけ本来の姿に戻る。
傍目にはそれとわからなければ、これ以上ない隠れ場所といえる。
「まあ、あくまで聞いた話であって、本当にそうなのかはわからないけど」
「ううん、可能性は高いと思う」
だって、どんなに集中してもカーディナルの輝力は捉えられない。
よし。そうとわかれば、早いところ取り付かれている人を見つけて――
「だとしても、誰に取り憑いているかが問題だ」
あう。
そ、そうだよね。
結局のところ、どこにいるのかわかんないのはかわりないんだもんね。
「今の考えを話して、兵士の人に協力してもらうとか」
「それはよくない。街の誰かがケイオスに取り憑かれているかもしれないなんて噂になったら、それこそ疑心暗鬼で大パニックになるよ」
「手分けして怪しそうな人を探す?」
「キリがないって。アイゼンには十万人を超える人が住んでいるんだから、仮にカーディナルが取り憑く対象を自在に変えられるとしたら、一生かかっても見つけられっこないよ」
「結局、どうしようもないかあ……」
自分たちで調査するにしても、知らない人の怪しいところなんて疑いだしたらキリがないし。
兵士さんたちだって市民全員のプライベートに干渉できるわけでもない。
隠れている手段は想像ついても、探し出すことは不可能なのかぁ。
「やっぱり、夜まで待つしかないか」
気が進まないけど、正攻法しかないのかもしれない。
それでも、まったく勝算がないわけじゃない。
いや、かなり可能性は低いんだけど。
「私、この前スカラフ相手にやったみたいに、全力で力を解放してみようと思う。またわけわかんなくなっちゃうかも知れないけど、あれならカーディナルにも対抗できるかもしれない」
「それは危険だ。上手く正気に戻れる保障はないんだろう」
「ジュストくんが傍にいてくれれば大丈夫だよ」
「そう言ってくれるのは光栄だけどね」
冗談と思ったのか、ジュストくんはやんわりと微笑んだ。
今の、けっこう勇気出して言ったんだけどな。
やっぱり私の好意には気づいてくれてないのかなぁ……
って、そんな場合じゃないんだってば。
正気に戻れるかどうかは、やってみなきゃわからない。
けど、あの時の力を出せれば勝つ自信はある。
制御できるギリギリでも、かなり術の威力が上がるんだから。
我を失っていたときに感じた力はあんなもんじゃなかった。
いくらカーディナルが強力な電撃使いでも、私だって火の術なら負けな――
……あれ?
「あの、ジュストくん?」
「どうしたの?」
ふと、あることに気付いた。
さっきの出来事と、この街に着てからの行動を頭の中で反芻してみる。
仮説に間違いがないことを確認する。
「あのね」
「うん」
私は言った。
「カーディナルがどこに隠れているのか、わかったかもしれない」




