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閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
第4章 鋼の国の吸血鬼 - star knights vs vampire girl -
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194 隷属契約のリスク

 高層棟の裏、お城へ続く道から少し離れた場所。

 そこでジュストくんは壁に寄りかかって待っていた。


「おまたせ」


 思いつめているような表情だったので、明るく声をかけることはできなかった。

 不自然だとは思ったけど、少し距離を取って、私は彼に声をかけた。


「や、ごめん。呼び出したりして」

「いいけど、わざわざこんな所でしなきゃいけない話なの?」

「ちょっと……あまり人には聞かれたくないから」


 そう言われて、「まさか愛の告白?」なんて考えるほど私もおめでたくないよ。


「ルーにさ、謝らなきゃと思って」

「謝る?」

「この前のこと。拒絶したみたいで、怒っていると思って」


 怒ってなんか……

 なくもなかったけど。

 というより、ショックだった、かな。


「ううん。私は全然気にしてないよ」


 でも、ジュストくんが謝ってくれるなんて思わなかったので、少し嬉しかった。

 だから私は嘘をついて、少しも気にしていないフリをした。


「むしろジュストくんの方こそ、ドレイなんて言われたせいで、私のこと嫌いになっちゃったのかと思った」

「嫌いになんかなるはずないよ。ルーは僕の大事な人だからね」


 だ、大事な人?

 それってもしかして……

 いやいや、私はそんなにおめでたい人間じゃないってさっき思ったばっかりなのに。

 いやでも、ああそんな、

 もう、嬉しくなっちゃうぞっ!


「わ、私は、ジュストくんにとって何なのかな?」


 変なカンチガイをしないため、はっきりと聞いてみる。

 いや、もうこの際だから言っちゃった方がいいかな。

 私はあなたが好きですって。


 いや無理むり!

 そんな簡単にいえたら苦労しないって!

 っていうかルール違反!

 ビッツさんにもフレスさんにも悪いから!


「一言でいえば、希望、かな」

「はいっ! 私も……え、希望?」

「うん。僕はルーがもっとすごい輝術師になると思っている。それこそ伝説の聖少女様のようにね」

「あ、いや、そんなこともないと思うけれど」

「そんな君を守り抜く。それが僕の役目であり、誇りであると思っているんだ」


 あ、なんだ。そういうことなんだ……

 いえ、わかってましたよ?

 ジュストくん真面目だもんね。

 先生に言われた通り、新代エインシャント神国に着くまで私を守ろうとしてくれてるだけ。

 それで十分ありがたい。

 だけど……


「みんな、期待しすぎだよ。私はそんなすごい人間じゃない。ううん、素質はあるのかもしれないけど、聖少女さまみたいな立派な人間じゃない」

「大丈夫、僕は信じてるよ。ルーはきっと世界を救うような立派な人になるって」

「ん……」


 褒めてくれているのはわかるんだけど、何故だか少し嫌な気分だった。

 多分、彼はそんなつもりはないんだろうけど。

 私ならできるだろうって、押し付けるような言い方だったから。


「私が偉い輝術師になるとして、ジュストくんは?」

「え?」

「ジュストくんは私を守るって言ったけど、どうして私から力を借りるのを嫌がるの?」


 ドレイ輝士なんて、誰かがかってに呼んでる言葉なのに。

 私は彼をそんな風に思ってないのに。


「私はジュストくんに一緒に戦って欲しい。だから、これからも力を貸してあげたい」


 まっすぐにジュストくんの目を見る。

 私を守りたいって言ってくれた人。

 それなのに、どうして力を借りるのを嫌がるの?


 答えが聞きたい。

 その上で、納得できなければ……

 これ以上、一緒に戦うことは、できないかもしれない。


 ジュストくんは少しの間を置いて、ゆっくりと話し始めた。


隷属契約スレイブエンゲージが、術者に負担をかけるって言うのは知ってた?」

「負担? いや、知らないけど……」


 私の輝力を貸してるんだから、それが負担と言えばそうなのかもしれないけど。

 でも別に、辛いとか苦しいとかそういうことはない。


「輝攻戦士の使う莫大な輝力は、本来なら輝鋼石から洗礼を受けることで引き出される。それをひとりの輝術師が負担し続けるっていうのは、実は相当に無茶なことなんだよ」

「私は別に負担なんて感じてないけど?」

「感じていなくても、確実に大きな負荷はかかっているんだ。それも術者の寿命を縮めるくらいね」


 じゅ、寿命?


「それ、誰から聞いたの?」

「ザトゥルさんだよ。彼は輝攻戦士が人間の身体に与える悪影響を調べていたんだ」


 本人もそのせいで身体がボロボロになっているからね。

 じゃあ、信憑性はあるのか。


「輝攻戦士本人もだけど、それ以上に術者に掛かる負担は大きい。僕が輝攻戦士になっている時間の分だけルーの命は削られ続けていく。今は自覚がなくても、このまま戦い続ければ、君の寿命はどんどん短くなっていってしまうんだ」

「へ、へえ……」


 そう、だったんだ。

 だから、ジュストくんは嫌がったんだね。

 私のために。

 やっぱり、やさしいな。


「教えてくれて、ありがとう」


 思ってもいなかったことだけど、私はたいしてショックを受けなかった。

 あれだけの奇跡を起こしておいて、何ともないなんてありえないもん。

 そりゃそうだというか、むしろなんか納得しちゃった。


「でも、これから戦い続けていくためには、輝攻戦士の力は必要なものでしょ?」

「それがイヤなんだ。僕は君を守らなきゃいけないのに、僕自身が君の命を奪っていくなんて。そうしなきゃ戦えない、自分のふがいなさが情けなくて……」


 ふーん。

 そんなことで悩んでいたんだ。


 私のことを希望だって言ってくれた。

 そんな私を守ることが誇りだって思ってくれた。

 けど、そのためには私の命を削らなくちゃいけない。

 自分の手で守りたいと思っても、私の寿命を犠牲にしなきゃ戦えない。


「ふふっ」


 私はつい笑ってしまった。


「なにがおかしいんだよ」

「ジュストくん、ばかだよ」


 私がそう言うと、ジュストくんは戸惑ったような顔になった。


「バカってなんだよ。僕はルーのことが心配で……」

「っていうかさ、元はといえば私が勝手に隷属契約をして、ジュストくんを巻き込んだんだよ?」

「きっかけはなんであっても、ルーにこれ以上の負担をかけたくないんだ」

「だったら、あとちょっとだけ我慢して。さっさとカーディナルをやっつけちゃおうよ。そしたら、輝鋼石の洗礼を受けさせてもらえるからさ」


 ジュストくんは「え?」って顔で私を見る。


「吸血鬼退治のご褒美だって。皇帝さまと約束したんだよ」

「僕が輝鋼石の洗礼を……?」

「ほら、自分ひとりで悩んでるから、解決方法が見つからないんだよ。前にジュストくんが私に教えてくれたことじゃない」


 フィリア市にいた頃、私はちょっとしたきっかけで親友と大げんかをしてしまった。

 悩んでいた私に、ジュストくんはとても簡単なアドバイスをしてくれた。

 はたから見たら簡単に解決できることなのに、自分ではなかなか思いつかないこと。

 一歩を踏み出す勇気を持つこと。


 無力さに悩むくらいなら、強くなる努力をすればいい。


「カーディナルを倒したら、ジュストくんは正式な輝攻戦士になれるよ。もちろんビッツさんもね」


 私だけの輝士っていうのは魅力的だけど、それをジュストくんが嫌なら仕方ない。

 イライラしながら悩んでいるなんてジュストくんには似合わないから。

 ここは二人で協力してスパッと解決しちゃおうよ。


「ね、もう少しだけ私と一緒に頑張ろう。それで、今回のことが終わったら、今度はジュストくんに力を貸してもらっちゃうから。私は、これからも……ジュストくんと一緒に旅をしたいから」


 私は彼に手を差し伸べた。

 ジュストくんはまだ悩んでいたようだけど、やがて顔を上げて、


「そっか、ルーにも心配かけてたんだね」

「うん。でもね、一人で悩まなくていいんだから」

「ごめん。それから、ありがとう」


 私の手を握り返してくれた。

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