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閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
第1章 旅立ち - girl meets boy -
19/800

19 テラスデート

 広場までやって来た私たちは休息がてら近くのカフェに入った。

 ナータたちともよく来る、馴染みの小ぢんまりとした可愛いお店。


 テラス席に座ってコーヒーを注文。

 男の人と一緒にお茶、それも二人っきりでなんて。

 昨日まではとても信じられないような光景だあ。


 ドキドキしてるのを悟られないよう私は次々とジュストくんに話題を振り続けた。

 お喋りな女の子と思われても、一緒にいてつまんないと思われるよりはいいよね?


「輝士になるのってやっぱり大変なんですか?」


 ジュストくんはコーヒーに砂糖を一杯、ミルクを二杯入れ、小さなスプーンでかき混ぜている。

 ぽちゃ。私も自分の紅茶に角砂糖を一つ落とした。


「まあね。学校を卒業してからも最低三年間は現役輝士のお側役を務めなきゃいけないし、王宮勤めか地方勤務かにもよるけど作法や学問も求められる。もちろん武芸に秀でてなきゃ資格はもらえない」

「ふうん、大変なんですね」

「そう言う僕も学問は苦手なんだけどね」


 ジュストくんは「剣術だけは得意なんだけど」と苦笑いしながら付け加えた。

 ぽちゃ。


「強かったですもんね。十人くらい相手に全然怯まないで」


 両手で剣をもって振り回すジェスチャーをしながら私は言う。

 ぽちゃ、ぽちゃ。


「今だから言うけど、実はあの時もかなり緊張してたんだ。特訓や稽古以外で剣を振るのは初めてだったからね。実戦で通用する保障はなかったし」


 ぽちゃ。ぽちゃ。ぽちゃ。


「次から次へとばっさばっさって凄かったです。本物の輝士さまって言われても信じちゃうくらい。友だちにも見せてあげたかったです」


 ぽちゃ。ぽちゃぽちゃ。


「あ、できればその話はあんまり人に言わないで……ところで」

 

 ぽちゃぽちゃぽちゃ。


「何ですか?」

「砂糖、入れすぎじゃない?」


 私は角砂糖の山を持ったままの右手を止めた。

 い、入れすぎかな?

 まだ十三個しか入れてないんだけど……


「だ、ダメでしたかっ」

「いやダメじゃないけど。話に夢中で気づいてないんじゃないかと思って」

「甘い方が好きですから」


 ジュストくんは甘いのは好きじゃないのかな。

 ナータやターニャも紅茶には二、三個くらいしか砂糖を入れない苦味党。

 ジルさんなんかブラックだし! あたまおかしい!

 

「話を戻すけど学外で市民相手に剣を振るったとバレたら退学になる可能性もあり得るんで、どうかあの件は内密にお願いしたいんだけど……」

「わかりました。もちろんです」


 私を助けるためにリスクを負ってくれたんだ。

 不謹慎だけど、嬉しくなっちゃう。


「ごめんなさい、私のために危ないことをさせちゃって」

「それはああいう場所だからオッケーってことでどうか」


 ぷっ。今度こそ私は吹き出した。

 だってナータと同じこと言うんだもん。


「友だちも同じようなこと言ってたよ。ほら、昨日輝術を使った娘」


 あ、なんか自然に喋れたみたいだぞっ。


「あれはびっくりしたなぁ」

「ジュストくんは輝術は使えるの?」


 調子に乗ってもっと普通に喋っちゃう。


「僕は全然。才能ないみたいで簡単な術のイメージもできない。そもそも洗礼のための試験を受かる自信もないしね。頭良くないから」

「あ、私も。試験は苦手」

「けどルーチェさ……ルーチェなら頑張ればいつかは立派な輝術師になれる可能性もあると思うよ。ほら五英雄の聖少女プリマヴェーラ様みたいに」


 わっ、ジュストくん、呼び捨てにしてくれた!


「そ、そんなことないよっ、私なんててんでおバカでっ。試験も通らないから輝術を使えるための契約もできなくてっ、こんな私が聖少女さまにみたいなんて言ったら教会の人たちに怒られちゃうし」


 やだぁ。私ったら舞い上がっちゃってる。


「そもそも古代語も苦手だし学校のテストもいつも――」

「なにやってんのよ」


 突然、背後から冷たい声が飛んできた。

 聞き覚えのある透明感のある声。

 けど内心の怒りを必死で堪えているような、抑揚のない声色。


 振り向いた私の目に飛び込んだのは金髪の美少女。

 ナータだった。


「あ、ナー……タ」


 偶然だね、と挨拶をしようとして声を失う。

 彼女があまりにも怖い顔で私たちを睨んでいたから。


「なにやってんのかって聞いてんのよっ!」


 これでもかってくらい大声で怒鳴られ、私は思わず耳を塞いだ。

 な、何? 何で怒ってるのっ?

 意味不明な状況に頭が混乱する。


「あんた、あたしの言ったことまったく聞いてなかったの? 何かあってからじゃ遅いのよ?」


 あ、わかった。ナータってばまだ勘違いしてるんだ。

 私がジュストくんと一緒にいるのを見て騙されてるんだって思ってる。


「ち、違うの、ナータ。これはね」

「あんた」


 ナータは目線をジュストくんに向ける。

 今にも噛み付きそうな表情。

 綺麗な瞳が怒りでギラギラと燃えている。


「この娘を誑かそうと考えてるんでしょうけど、そうはさせないわよ」

「だからナータ、そうじゃなくって……」

「いや僕は……」

「本当なら八つ裂きにしてやりたい所だけど、街中だし今回だけは見逃してあげるから今すぐ消えなさい。そして二度とこの娘に近寄らないこと。そうすれば衛兵に突き出すのだけは許してあげる」


 ナータってば全然人の話を聞いてくれない! 

 ジュストくんもすごく困ってるよ。なんか物騒なこと言ってるし!


「さっさと隔絶街に帰りなさい。それとも牢獄暮らしがしたい?」

「だからちょっと話を――」

「ルーちゃんは黙ってて」

「その、僕は――」

「言い訳なんか聞く耳持たないわ」


 ナータは私もジュストくんの言葉も聞く耳持たず。


「あたしはこの娘と違って簡単に騙されるほど単純じゃないからね」


 かちん。

 話を聞いてくれないこともだけど、さすがに今のはちょっとムカッときた。


 そりゃ私はナータと比べれば頭よくないよ。

 けど良い人と悪い人の区別くらいつくつもりだし!

 何より頭ごなしにジュストくんを悪人だと決め付けてるのが気に入らない


 怒りのボルテージがむかむかと高まっていく。


「ほら、さっさと消えなさいよ。どうしたの? 行きなさいよ。もしかしてどうやって出し抜こうかとか考えてる? させないわよ。はい時間切れ。じゃ衛兵を呼んで――」

「いい加減にしてっ!」


 そしてついに爆発した。

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