表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
第4章 鋼の国の吸血鬼 - star knights vs vampire girl -
186/800

186 おまんじゅう敗北す

「い、いけません! 星輝士ともあろうお方が、城内で剣を抜くなど!」

「うっさいノ!」

「ほげっ!?」


 ユピタは足にしがみつく貴族服の人を踏みつけて気絶させた。

 そして、構えた剣の切っ先をダイに向ける。


「決闘なノ!」

「おお、面白れえ」


 ちょ、ちょっとマジ?

 いくら不吉なおデブとは言っても、仮にもこの国の偉い輝士なんだから。

 いろんな意味でケンカなんかしたらヤバイよ。


 けれど、私が止める間もなくダイは部屋の外に飛び出してしまった。

 いつの間にか手には抜き身のゼファーソードを握っている。


「フン。輝攻戦士でもないガキが、いきがるのも大概にしろなノ。謝るならいまのうちなノ」

「っていうか、オマエみたいなのが輝攻戦士って時点で終わってるだろこの国」

「フガーッ!」


 度重なるダイの挑発に、ユピタの怒りは頂点に達したようだ。

 いったいどういう仕組みなのか、比喩じゃなく本当に頭のてっぺんから湯気を噴出している。

 顔なんかもうゆでだこみたいに真っ赤だ。


「もう謝っても許さないノ! この場で肉塊に変えてやるノ!」

「オマエがな。豚肉として売れば、結構な値がつくんじゃねーか?」

「黙れーノ!」


 ユピタの周囲に輝攻戦士の証である輝粒子が舞う。

 おお、冗談とかじゃなくて本当に輝攻戦士だった!

 でもあの身体で素早く動くところが想像できないんだけど。


「ゆくぞノ!」


 次の瞬間、ユピタはその巨体からは想像もつかない跳躍を見せた。

 剣を大上段に構え、ダイめがけて振り下ろす。


「おっ?」


 ダイはまだ輝攻戦士化していない。

 叩きつけるような相手の攻撃を、横に跳んでギリギリでかわした。

 振り下ろされた剣が廊下に亀裂を走らせる。


「あぶねー!」

「ばか! 油断しないの!」

「うるせー、わかってる!」

「まだまだなノ!」


 ユピタは素早く身を起こすと、片足を軸にコマのように回転し、その勢いで剣を振る。


「ちっ……!」


 相手の一撃をゼファーソードでガード。

 けれどそのパワーには抗えず、ダイの体が吹き飛ばされる。

 壁際に追い込まれたところを、ユピタの追い打ちが迫った。


「死ねーノ!」


 輝粒子を纏った巨体による突進。

 ユピタの体当たりがダイに直撃し、その背後の分厚い壁すらあっさりと粉砕した。

 破壊された瓦礫が崩れ落ち、その向こうの部屋と廊下の間に巨大な穴が空く。


「ダイ!」


 避ける暇はなかった。

 ダイは確実にあの人と壁に挟まれた。

 あんな攻撃、生身で受けたらひとたまりもない。


「生意気な口をきくからこうなるノ。これに懲りたら、次からはもっとボキを敬うノ」


 ユピタが瓦礫の山を見下ろして言う。

 星輝士の実力は嘘じゃなかった。

 親の七光りで選ばれたわけじゃない。


 ダイはどうなったんだろう。

 まさか、本当にこんなところで死――


「おい、どこ行くんだよ」


 破片の下からダイの声が聞こえた。

 大きな破片が動き、ダイが這い上がる。


「ほう、岩をも粉砕するボキの必殺技、岩砕く聖(ドンナースタク)なる一撃(・アングリッフ)を喰らって生きているとは、なかなかタフなやつなノ」


 ダイは埃まみれになっていたけど、傷は負っていなかった。

 彼の周囲にはキラキラと輝く光の粒が待っている。

 よかった、攻撃を食らう前に輝攻戦士化してた。


「そりゃ、その巨体でぶつかれば岩も砕けるだろうよ。けど、そんな技は実戦じゃ通用しねーよ。やっぱりこの国の輝攻戦士なんて見せかけだけだな」


 ダイの言葉に空気が凍りついた。

 ユピタだけじゃなく、騒ぎを聞いて駆けつけてきた周りの人まで。


 あの、お願いだから、国中を敵にまわすような発言は控えてね?

 いま私たち、その国のお城の中にいるんだからね?


「本当の必殺技ってヤツを見せてやるよ」


 そう言うと、ダイはゼファーソードを鞘に収めた。

 同時にダイの輝攻戦士モードが解除される。

 あれは、ひょっとして……


「ふん、何だかんだ言って結局は降参なノ。最初からそうしていれば……」

「死にたくなかったらしっかり構えてろ!」


 ダイが跳ぶ。

 僅かに鞘から刀身の引き出す。

 その時にはすでに輝攻戦士モードに戻っている。


 一瞬の間にユピタとの距離を詰める。

 すれ違い様に刃を抜き放つ。


 甲高い音が響き、ユピタの剣は根元から断ち割られていた。


「へ……?」


 地面に落ちる刃を呆然と見つめるユピタ。

 次の瞬間、ユピタはダイの拳に顎を打ち抜かれた。

 その巨体が見事な弧を描いて飛んでいく。


 建物が揺れるほどの勢いで床に落ちたユピタは、すでに輝攻戦士モードを強制解除されていた。


「フン、やっぱりたいした事ねーの」


 ダイは剣を鞘に収めると、白目を向いて気絶しているユピタに背を向け、こちらに歩いてきた。


「ちょ、ちょっと……」

「先に手を出したのはソイツだからな。余計な勘ぐりいれるんじゃねーぞ」


 集まってきた野次馬にそう言い放って、ダイはさっさと部屋の中に戻ってしまった。

 私は外の人たちに愛想笑いを浮かべ、慌ててドアを閉めた。




   ※


 さあ、お説教タイムですわよ。


「なに考えてるの!? いくらアイツがあまりにアレだからって、やっつけちゃうなんて!」

「だって向こうから決闘を申し込んできたんだぜ」

「いや、そうかもしれないけど……最初に挑発したのはダイの方でしょ!?」

「ケンカを買っただけなのに怒られる筋合いはねーし。アイツらが名誉を重んじるなら、むしろ決闘があったことをもみ消そうとするんじゃねーか?」


 確かに、吸血鬼どころか客人にやられたって噂が広まったら、ザトゥルさんの言ってた星輝士の名誉はもうボロボロだろうけどさ。

 でもアイツの場合、そういうの無視してなんとしてでも復讐しようとする気がする。

 あくまでなんとなくのイメージだけど。


「それに、これで引っ込みがつかなくなったぜ。偉い輝士をぶちのめしたからには、吸血鬼退治でもして罪滅ぼししなきゃな」


 そこまで計算してアイツを挑発……って、そんなわけない!

 そもそも言ってることが意味わかんない!

 アレだけ派手にやらかしておいて引っ込みもなにもないだろ!

 本当に罪に問われたらどうすんだ!

 くわーっ! もう言いたいことが多すぎて何も口から出てこない!


「あんなんじゃ物足りないし、今夜行くぜ」

「ちょっと。行くって、本気で言ってるの?」

「別にオマエは来なくてもいいぜ」


 そういうわけにはいかないでしょ。

 ってかそれより、いまはこの部屋に居る方がいたたまれないんですけど。

 外でまだ後始末の騒ぎ声が聞こえている。

 城中の輝士が武器を持って殴り込んで来たら、ちゃんと守ってくれるんでしょうね?


「吸血鬼狩り、楽しみだな」


 ……こいつにとって、星輝士だろうがケイオスだろうが、戦って楽しければ関係ないのかも。

 やっぱり男の子の考えてることってよくわかんない。

 ダイが特別ヘンなだけかもしれないけどさ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ