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閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
EX1 入学 - nuova stagione -
128/800

128 ▽改心?

「はあ……」


 ルーチェはため息をこぼしながら学校へと向かっていた。

 非常に気分が重い。

 原因はもちろん昨日のことだ。


 ジルとナータも二人とも自分にとって大切な友達。

 なのに、なんでケンカになっちゃったんだろう。

 一晩考えても理由はちっとも思いつかなかった。


 特にわからないのはナータのことだ。

 なんであそこまでジルさんを目の仇にするんだろう。

 それと時折見せるあの怖気がするような冷たい目は何?


 正直言って、怖い。

 ルーチェはナータの中等学校時代をほとんど知らない。


 フィリア市のような輝工都市(アジール)では機械(マキナ)と呼ばれる高度な技術を生活に取り入れている。

 映水機(ビデオ)風話機(でんわ)熱量調節機(エアコン)などが間に次々と発明され、あっという間に各家庭に普及した。

 これらの機器はすべて輝鋼石から引き出した輝力エネルギーを利用している。

 ただし、その効果範囲は地下に線の張り巡らされている市内だけに限る。

 都市間長距離風話機が使えるのは公共の役人や輝士だけなので、一般市民が市外と連絡などを取り合う場合は未だに前時代的な郵便に頼るしかないのだ。


 中等学生だったルーチェたちは簡単に連絡を取り合えなかった。

 しばらく会わなかった時間が彼女を変えてしまったのだろうか。

 入学式前といい昨日の喫茶店での事といい、あんなに仲が良かったナータのことがちっともわからない。


 三年も会ってなかったんだから少しくらい変わっていてもおかしくないけれど……

 そういえば自分は少しも変わっていないような気がする。

 いつまでも子どもっぽい自分と見違えるような美人になったナータ。

 見た目からこれじゃもう昔みたいに釣り合い取れないのかもしれない。

 そう考えると少し寂しい。


 後ろからシュルルルル……という砂がこぼれるような音が近づいてきた。

 黒服の職員が操縦する二台の輝動二輪が車輪のついた大きな幌付き台車を引いている。

 乗合の輝動馬車だ。

 横の入り口からお金を払って乗車し、中には二十程度の座席がある。

 幌の上半分は透明な窓になっていて外の景色がよく見える

 広い市内を移動する上での重要な交通機関である。


 ルーチェは道路の隅に避けて輝動馬車をやり過ごした。

 窓越しに後部座席に座る人物と目が合う。

 鮮やかな金色の髪を左右でちょこんと束ねた美少女。

 ナータだった。

 

 ルーチェは少しだけ安心した。

 あんなことがあった後だからもしかしたら学校に来ないかもしれないと思っていたけど、ちゃんと登校している。


 だからと言って問題が解決したわけじゃない。

 今後とも付き合っていくならせめてジルとの関係を修復させなければ。

 いきなり仲良くはなれなかったとしても、昨日みたいなのはもうたくさんだ。

 二人とも大切な友だちなんだから。


 ルーチェは早足で輝動馬車を追った。

 決意を胸に学校へと続く緩やかな坂を駆け上がって行った。




   ※


「ナータっ」


 一年生の教室がある四階までダッシュで駆け上がる。

 渡り廊下の角を曲がったところでブロンドの後姿を見つけた。

 さっき見かけたのと同じツーサイドアップの髪型。

 ナータは肩をびくりと震わせ、ゆっくりとルーチェの方を振り向いた。


「おはよっ」


 早足で駆け寄って肩を叩く。

 できる限り自然に振る舞う。


「あ、おはよう。ルーちゃん」


 挨拶が返ってきた。

 どことなくぎこちない感じなのは彼女も昨日のことを気にしているからか。


「その髪形可愛いね、似合ってるよ」

「あ、ありがと」


 並んで教室に入る。

 幸いまだジルは来ていないみたい。

 今のうちにしっかりナータと話しなくっちゃ。 


 昨日ナータと別れてからずっと考えていた。

 友達同士がいがみ合うのは悲しいし、あんな態度をとったナータには少し怒りも感じた。

 今朝になって怒りはなくなったけど悲しみだけが残ったまま。


 このままじゃいけない。

 できる限りのことをしてみよう。

 少しずつでいいからナータにはゆっくりとジルさんのことを知っていってもらおう。

 もっと理解し合えば絶対に仲良くなれるはずだから。


 二人とも悪い人じゃないのは私が保証する。

 それまでは私が二人の間に入ってお互いのいいところを教えてあげなきゃ。


 ただ自然に振舞うだけでいいんだ。

 大丈夫、簡単なことだから。

 まずはナータと話をして自分が思っていることを聞いてもらおう。

 ナータならきっとわかってくれるはずだから。


 ……とルーチェは決意して今日に臨んだ。

 まずはナータがジルの何が気に入らないのかを知らなきゃいけない。

 原因がわかっていないとまたケンカになってしまうかもしれないから。


「あのさ」


 とはいえどうやって会話を切り出そう。

 なにから言うべきか考えていると、ナータが遠慮がちに口を開いた。


「あのさ、ごめんね。昨日……」

「あ、ううん。いいの。私は全然」


 ルーチェは顔の前で手を振った。

 本当は全然よくないし、ちょっぴり怒ってもいたけど。

 自分がナータと言い争ってもしかたない。


「そんでさ……」

「うん?」

「謝ろうと思う。あいつにも」

「えっ!」


 意外な言葉に思わず驚きの声を上げてしまった。

 謝るって言った?

 あいつって、ジルさんのことだよね?

 言葉の意味を理解しルーチェは口元を綻ばせた。


 やった! ナータの方から仲直りしてくれる気になったんだ!

 あれ、初めて会ったときから仲が悪かったから、これも仲直りって言うのかな?

 いいや、そんなことどうでも。

 とにかく嬉しい!


 どんな心境の変化があったのかはわからないけど、ナータが自主的に折れてくれるのならこんなに喜ばしいことはない。

 ルーチェは心の中で両手を叩いた。


「やっぱさ、悪いこと言ったとは思うから」

「う、うん! いいと思うよ!」


 いきなり友だちになって欲しいとまでは望まない。

 これを期にして少しずつでも打ち解けてくれればいい。

 ともかくこれがいい関係を築く第一歩となってくれればと思う。

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