120 ◆英雄達の密談
「失礼します」
「入れ」
「定例報告です。先日のクイントでの一件ですが……」
「Lが覚醒したようだな」
「はい。ただ今より、正式にLDG計画プランCを開始します」
「使えそうか?」
「現状では何とも。能力にムラがある上、単独での制御もできていません。今後はしばらく観察を続け、成長度合いによっては現行の通常対策に組み込むことも考慮しています」
「使える見込みは少ないか……」
「今のところ、可能性は薄いです」
「単独ではと言ったな。制御は可能なのか?」
「Jが有力な抑止力として機能しています」
「プランAの予備が意外な形で役に立った訳か」
「先のことはわかりませんよ。何しろ、多感な少女のお守りですから」
「構わん。抑止力には予備もある」
「先々代の天輝士の孫娘?」
「先日、正式に輝攻戦士となった。Jが抑止力として使えるなら、そちらをプランCに組み込んでもいいだろう。Lを追い出す片棒を担がせた件では、かなり不満を溜めたようだがな」
「期待しています」
「ところで、Lに自主的な決断を促させたのは何故だ?」
「意識を高めるためです」
「臆病風に吹かれて戻ってこられては困るのだがな」
「精神的に追い詰め過ぎるのは得策ではありません。扱いを間違えればLは私たちの脅威にもなります」
「毒をもって毒を制すだ。まあ、できればプランCは行いたくなかったが」
「心中察します」
「勘違いするな。情が移ったわけではなく、小娘に頼るのが癪なだけだ」
「…………」
「ところで、Jは単独でプランAの予備として使えそうか?」
「輝攻戦士としては有能ですが、現状は一兵士の分を超えるほどではありません。今後の成長に期待し、こちらも使えるようならプランCに組み込みます」
「どちらにせよプランAは間に合いそうにない。使えないのなら破棄しても構わんぞ」
「…………」
「プランBの遂行中に見つけたという、東国の少年は?」
「こちらも一兵士としては有能ですが、行方知れずとなった姉と比べると明らかに見劣りします。プランCに組み込める可能性は有りますが、過度の期待はしていません」
「結局、どれも今後の成長次第か……」
「三者は共に行動させ、絶えず監視させます」
「それがいいだろう。お前の時間をこれ以上割くわけにはいかん。使えるレベルになったら使えば良い。気づかれない程度にサポートしてやれ」
「……そうですね」
「不服そうだな」
「子どもたちを戦いに巻き込んで、楽しいはずはありません」
「お前も先の大戦の時には少年だっただろうに」
「自分で行うのと強制するのとは違います……貴方の方こそ、何とも思わないのですか? LもJも、貴方の大切な――」
「くだらんな。私にとってはどちらも目的達成のための道具に過ぎん」
「そうですか」
「報告は以上だな? では、早く新代エインシャントに戻れ」
「言われなくてもそのつもりです。ウォスゲートが開く前にやらなくてはならないことは山ほどありますから……二度と、あんな時代を繰り返さないために」
「大賢者としては表仕事も疎かにはできぬか。大変だな」
「では失礼します」
「繰り返すが、ぬかりなくやれよ」
「……最後に一言言わせていただきたい」
「何だ?」
「俺はお前の部下じゃねえ、偉そうに命令するなクソ野郎」
「くっくっく。やっぱりお前はそっちの方が似合ってるよ。昔のやんちゃボウズ時代を思い出す」
「うるせえ。お前と話してるとイラついてしょうがねえんだよ」
「俺は嫌いじゃないけどな。仲良くしようぜ、昔馴染みじゃねーか」
「目的のために協力してるだけだ。それがなければ俺がお前を殺している」
「そんなに気に食わないか? 俺がルーチェやジュストを道具扱いしていることがよ」
「……狂ってるんだよ、お前は」
「なんでもいいよ。またな、働き者の大賢者グレイロード」
「できれば二度と会いたくないな。この戦いが終わったらさっさと死ね、堕ちた英雄王アルジェンティオ」
「フン……狂っていようがなんだろうが、利用できるものはなんでも利用するしかないのさ」
「待っていろ、もうすぐだ。もうすぐお前の仇が討てる」
「プリマヴェーラ……」




