表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
第3章 大賢者様の修行 - country sisters -
108/800

108 突然の修行中止

 上も下もわからない中で必死にバランスを保とうとする。

 やがて、目が覚めるように唐突に感覚が元に戻った。

 ……えっと、なにが起こった?

 目の前にダイやジュストくんの姿はない。

 それどころか、ここはさっきまでいた村の入り口じゃなかった。


 いったいどこだろう。

 どこかの室内みたい。

 壁はやたらと派手な装飾が施されている。

 テーブルや棚とかの調度品もかなり高価そうなものが並んでいる。


 まるでお城か貴族様のお屋敷みたい。

 あれ、でもあの模様、どこかで見た覚えがあるような……


「ルーチェ」


 聞きなれた声に振り向く。

 グレイロード先生が私の後ろに立っていた。


「先――」


 声を出しかけたところで、先生の隣の空間が歪むのが見えた。

 そこからジュストくんとダイが現れる。

 二人を吐き出すと揺らぎはすぐに収まった。


 あ、さっきのカード。

 前に先生が言ってた瞬間移動の道具だったんだ。

 空間転移の輝術と違って、ずいぶんと不安定で気持ち悪いんだな。


 私と同じように状況が理解できていない様子のジュストくんが先生に尋ねる。


「大賢者様、ここは一体」

「クイント王城。王の私室だ」

「左様」


 突然ドアが開き、ラフな格好をした小太り気味の男性が入ってくる。

 あれ、どこかで見たことあるような……って、この人!


「お、王さま!」


 私は慌てて地面に膝をつき、以前に見よう見まねで覚えた礼をした。

 この人はクイントの国王様であらせられるではないですか。

 地味な格好をしているから一目でわからなかったよ。


「畏まる必要はない。ここは謁見の間ではないし、君たちは個人的な客人に過ぎぬ」

「は、はぁ」

「以前にも会ったな。たしかファーゼブルの女性輝士と共に来た娘か。そうか、君も『白の生徒』だったのか」

「白の生徒?」

「俺が鍛えた生徒たちのことだ。二人とも、顔を上げろ」


 隣を見るとジュストくんも同じように反射的に礼をとっていたみたい。

 ダイは当然のように突っ立ったままだった。


「先日の狼雷団の件ではバカ息子が世話になった。国の危機を救ってくれたこと、心から礼を言いたい。ありがとう」


 王さまは恭しい態度で頭を下げた。

 私に! 王さまが!


「白の生徒ならば強いのも頷ける。若いのにたいしたものだ」

「そんな、私なんかぜんぜんです!」


 というか、あの時はまだ先生から修行を受けてなかったし。


「そちらの剣士はクイントの出身だと聞く。君のような若者が我が国に居てくれること、本当にうれしく思う。東国の剣士殿もよく戦ってくれた」

「もったいないお言葉です」

「別に。あんたらのためにやったわけじゃねーよ」


 ジュストくんは丁寧に礼を返し、ダイは相変わらず不遜な態度。

 王さま相手だって言うのにすごい度胸だよね。


「ファーゼブルの女性輝士にも、ぜひ礼の言葉を伝えたいのだが……」


 王さまはファースさんと先生が同一人物だって気づいてないみたい。

 ちらりと見ると先生は「余計なことを言うなよ」という目で私を睨んでいた。


「俺から伝えておこう。で、そろそろ本題に入りたんだが」

「これは申し訳ない」


 先生もダイと同じく、王さま相手だって言うのに敬語すら使わない。

 まあ、先生自身も偉い人なんだからこんなものかもしれないけど。

 王様が良い人そうだからよかったけど、聞いてるこっちが緊張しちゃうよ。


「いったい何が起こっているんですか」

「城がエヴィルに襲われたんだよ」


 私の質問に答えたのはダイだった。

 その後を王さまが引き継ぐ。


「うむ。幸いにも、偶然居合わせた大賢者殿によって難を逃れたが……」


 あ、さっきのラルウァの集団!

 あれはこのクイント王都に向かっていたんだ。

 私たちが村で警戒している間に、先生があっさりと全滅させちゃったみたい。


「クイント王国だけではない。魔霊山を始めとするエヴィルの巣窟から世界各国の首都にむけて残存エヴィルが威力偵察を行ったそうだ。かなり大きな被害が出た国もあるらしい。ファーゼブル王国では王都エテルノが大規模な攻撃を受けたと聞いている」

「エテルノが!?」


 王都エテルノにはベラお姉ちゃんが住んでいる。

 私はお姉ちゃんの顔を思い出して不安になる。


「心配するな。ファーゼブル王国に向かったエヴィルは輝士団が撃退した。王都はもちろん、二大都市にも被害はない」

「そ、そうですか」


 その先生の言葉を聞いてひとまず安心。

 でも、輝士団が戦ったってことは、ベラお姉ちゃんも参加したのかな。

 怪我とかしてなきゃいいけど……


「これだけ大規模な残存エヴィルの攻勢はここ十五年間で初めてのことですな」

「おそらくこれで終わりではないだろう」

「エヴィルたちに何が起こっているのか、大賢者様はご存じなのですか?」

「ああ、おそらくは……」


 ジュストくんが神妙な面持ちで質問する。

 先生は多少の間を置いて、呟くように答えた。


「魔動乱の再来、その予兆だ」




 魔動乱。

 それは現代に生きる私たちにとっては、歴史の中の話。

 とっくに終わったはずの暗黒の時代。

 ……その、はず。


「だ、だって、魔動乱は先生たちが終わらせたんですよね? もう後は残ったエヴィルさえやっつければ世界は平和になるって授業で習いました」

「俺たちはウォスゲートを封鎖しただけだ。あっち側にエヴィルは何百万と残っているし、やつらの王も健在だ」


 エヴィルの王。

 そんなものがいるなんて初めて聞いた。

 私が不勉強とかじゃなく、たぶん一般には知られていないことだと思う。


「だが以前のような混乱は起こさせない。そのための準備は十五年間やってきた。ルーチェ」

「は、はい!」

「仕上げができないのは残念だが、修行は中止だ。俺は新代エインシャント神国に戻る」

「え、あ……は、はい」


 たしかに今は非常事態。

 大賢者様ほどの人が私なんかに構っている場合じゃないだろう。

 本当は少し残念だけど、先生は偉い人なんだから仕方ない。


「大賢者様。良ければもう一つ聞きたい事があります」


 ジュスト君が先生に質問をする。


「何だ」

「なぜ、ラルウァの群れはクイントを襲ったのでしょう?」

「言われてみればその通りだな。輝鋼石を有する大国ならともかく、エヴィルにとって我が国に旨味があるとも思えない」


 王様も同じように疑問に思ったらしく、首に手を当ててブツブツと呟き始めた。


「偶然にも大賢者殿がいたから助かったものの、輝攻戦士や高位の輝術師を持たない我が国ではエヴィルの大群に襲われればひとたまりもない」

「悪いが、それに関してはむしろ逆だ」

「どういうことです?」

「エヴィルが大国を襲う理由は知っているか」

「輝鋼石の奪取でしょうか。たしかエヴィルは輝鋼石を忌み嫌っていると聞いたことがあります」

「そう。魔動乱の頃も大群を成して侵攻するのは決まって五大国だった」

「今回のクイント侵攻は違いますよね」


 ジュストくんが首をひねる。

 どうしよう、話がわからないからヒマだ。


「ひょっとしたら、大賢者様がいたからエヴィルがクイントに攻めて来たのですか?」

「おそらくはその通りだ。ラルウァの集団は俺を狙ってこの国に来た」


 することがないので周りを見回してみる。

 これが王さまの部屋かぁ。


「俺たち五英雄は以前にエヴィルの住む異世界に攻め込んだ。奴らが何らかの手段で情報を共有しているのならば、当然ながら俺は真っ先に排除対象となるだろう」

「大賢者殿が狙われるのは道理ということか」

「しかし、エヴィルに意志のようなものが存在するなど聞いたことはありませんが……」


 派手なシャンデリア。

 絢爛豪華な調度品。

 あの棚とか一体何が入ってるんだろう。


「それでなくても強い力を持つ者は自然とエヴィルを呼び寄せるもんだ。以前の俺たち(五英雄)がそうだったようにな」


 私は棚をあけた! 

 ぼたもちを見つけた!


「それじゃ、もしかしてルーにもその危険が……」

「天然輝術師がエヴィルを呼び寄せる可能性は高い」


 むしゃむしゃ。

 うまし、うまし。


「ルーチェ」

「は、はい!」

「……なにを食べてるんだ」

「あっ。それはワシが後で食べようと思っていたのに!」

「ご、ごめんなさいっ。暇だったからつい……」


 しまった、甘いものに目がくらんで王さまの部屋だってこと忘れていた。

 どうしよう。処刑とかされちゃうのかな。


「……まあいい、とにかくお前はフィリア市に帰れ。通行証は後日使いの者に運ばせよう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ