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閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
第3章 大賢者様の修行 - country sisters -
100/800

100 憎悪

「ふふ、ふふふふ……」


 悪夢の一日を終えた今の私は笑うことしかできない。

 別におかしいわけじゃないんだよ。

 つらくてあたまがおかしくなりそうなんだよ。


「おいルー子……お前、大丈夫か?」


 ふら付く足取りで自室に戻ろうとした時、後ろからダイに呼び止められた。

 また心配してくれるんだ。

 なんだか物凄く染みるんだけど、絶対にこの子の前じゃ泣かないと決めたから。


「けっこう何一つ大丈夫じゃないけど、なんとか大丈夫」

「あー、何も言えないけど、とにかくガンバレ」


 ダイも以前に似たような目に合った事があるんだろうな。

 あんな人と付き合っていたら性格が歪むのもわかる気がする。


「うん。心配してくれてありがとうね」

「本当に大丈夫か? 肩貸してやろうか?」

「大丈夫だってば」


 ガラにもなく優しくしないでよ、泣いちゃうよ。

 っていうか、この子が優しくしたいと思うほど辛そうに見えるんだ……


「あのさ」

「本当に大丈夫だよ」

「じゃなくて、ジュストがオマエのこと心配してたぜ。何も言わずに出てきたんだって?」


 え、ジュストくんがダイと会ってるの?

 そっか。

 心配してくれているんだ……

 勝手に出てきちゃって、きっとびっくりしてるだろうな。


 なのに、私の事を考えてくれているとわかって、すごくうれしい。

 今度こそ涙がこぼれるのを堪えきれなかった。

 それでも泣き顔は見られなくないから、最後の意地で後ろを向いた。


「修行に専念するためにこっちに移ったって言っておいた。気が向いたら会いに行ってやれよ。あいつ、自分がなにかしちまったんじゃねーかって気にしてたから」

「……ありがとう。優しいんだね」

「あいつはイイ奴だからな」


 ジュストくんもだけど、ダイもだよ。


「いま、時間みつけて二人で稽古してるんだ。こっちの剣術も面白れーのな。この前も思ったけど、アイツ輝士見習いとは思えねーほど強えーしな」

「そうなんだ」


 目を擦り、瞬きをして、振り返る。

 一生懸命に元気付けようとしてくれるんだね。

 背だって私とほとんど変わらないけど、やっぱり男の子。

 いざってときは、頼もしく見えるよ。


「ジュストくん強いから、ダイだって敵わないでしょ」


 不器用な優しさは理解できるから、私も憎まれ口で返した。

 ダイは「そんなことねー」って言ってむくれたけど、怒ってはいない。


「それから、アイツの母さんも強えーのな。輝攻戦士じゃねーけど、生身だったらオレとジュストの二人がかりでも敵わねーの」

「ネーヴェさんも一緒なの?」

「昔はファーゼブルの輝士だったらしいぜ」


 ネーヴェさんが元ファーゼブルの輝士?

 お父さんの旅仲間だから、冒険者だったんじゃなかったの?

 っていうか、ジュストくんとダイの二人がかりでも敵わないって、メチャクチャ凄いじゃない。

 そんな風にはちっとも見えなかったけど。


「あと、こっちは全然大したことねーんだけど、もう一人変な女がいてさ。なんでかジュストにライバル心むき出しなんだ」


 もう一人の女……?


「それって、こんな髪型の娘? 私と同じくらいの」


 私は耳の上で髪の毛を束ねて掴んで見せた。


「おお、そいつ。ジュストのやつは手加減してやってるんだけど、それがまた気に食わないらしくてさ。正直言ってジャマなんだけど――」


 間違いない、スティだ。

 私にはジュストくんに近寄るなって言っておきながら……

 嫌だ、お腹の奥のほうが気持ち悪い。

 こんなこと思っちゃいけないのに。

 私にはあの娘が何をしようと文句を言う筋合いはないのに。


 修行自体の辛さはあの娘とは関係ない。

 このストレスは私が勝手に感じているものだ。

 けど、私がこんな辛い目に合ってるのに。

 好きな人と過ごせる時間を失ったのは、あの娘の言う通りにしたからなのに。

 

 なんなのよ。

 自分は私にジュストくんに近寄るなって言っておきながら、自分は稽古の邪魔をしてまで彼の側にいるの?

 ふさけないで。


 ダメだ。こんなこと思いたくないのに。

 スティが……憎い。

 あの娘さえいなければ、私は今頃ジュストくんと楽しく過ごせていたのに。


 ――そうだ。あの娘さえいなければ、今すぐにでも。


「おい、どうした」


 思考が中断され、意識が現実に引き戻される。

 ダイが怖い顔で私の肩を揺すっていた。


「あ、わ、私……」

「どうした? すげー怖い顔してたぞ」


 自分が考えていたことに気づいて、恐ろしくなる。


「な、なんでもないの! ちょっと疲れてるみたいで……先に寝るね」


 振り返ろうとして、ダイが同室だったことを思い出す。


「あ、この前はゴメン。今日は宿の人から布団借りたから、床で寝るね」

「お、おう。別に、疲れてたらベッド使ってもいいけど……」

「いいの。私が押しかけたみたいなものだし」


 部屋に戻ると、ベッドの横にもう一つ真っ白な布団が敷いてあった。

 精神的疲労もピークに達していたし、これ以上余計な事を考えたくない。

 私はそのまま布団にもぐりこむ。

 そんな私を気遣ってくれたのかどうかはわからないけど、後から来たダイは何も言わずにランプの火を消してくれた。

 眠りはあっという間に訪れた。




 たっぷり寝たおかげか、翌日の朝はすっきりした気分だった。

 もう昨日のドロドロした嫌な気持ちは残っていない。

 目が覚めるとダイはすでに出かけた後で、私はゆっくりと朝食をとってから先生の所へ向った。

 村を大きく迂回した森の向こうの広場。

 いつもの場所で先生は本を読んで待っていた。


「よろしくお願いします!」


 先生が本を閉じ、実験動物を観察するような目で私を見た。


「意外と元気じゃないか」

「いつまでもへこんでいられませんから!」


 実はそこまで元気って訳じゃないけど、これくらいの空元気でも出さなきゃやってられない。

 物凄く辛いけど、殺されるわけじゃないと信じてやっていこう。

 強くなるためなら、どんな厳しいしごきにも耐えてやる。

 ……だから、ちょっとだけ手加減してね?


「じゃあ、今日からは手加減ナシでいくぜ。死んでも恨むなよ」

「あうっ」


 や、やっぱり、逃げ出しちゃおうかな。

 先生は私に輝術の効果を無効化する術をかけると、楽しそうに攻撃のための輝言を唱え始めた。


「今日からは反撃を許可する。チャンスがあったらいつでも攻撃してこい」

「が、がんばりますっ」


 私だって負けてられないもん。

 頑張るんだから、がんばる……

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